「……フレイ……」
 何か、ためらうような表情でキラが声をかけてくる。
「どうかしたの?」
 彼女のそんな態度に、心の中で眉を寄せながら聞き返す。
「僕が聞いていいのかどうかわからないんだけど……」
 自分の中でもまだ整理が付いていないのか、キラはさらにこんな言葉を口にした。
 彼女が自分の行動について、どこかためらうようなそぶりを見せるのはいつものことだ。だが、今回は自分のことではないらしい。
 では、何なのか……とフレイは思う。
「言ってみなさいよ。でないと、あたしも判断して上げられないでしょ」
 自分の口が堅いのは、キラがいちばんよく知っているじゃない……と付け加えれば、キラはようやく納得したらしい。
「……ミリィ、あの捕虜の人に、何かしたの?」
 ムウさんからちょっと聞いたんだけど……とキラは小首をかしげる。
「キラ?」
「ミゲルがね。それによって相手に対する態度を変えるって言っていたし……」
 でも、さすがに本人には聞けないから……と彼女は付け加えた。それは確かにそうだ、とフレイも思う。そして、キラが聞ける相手が自分しかいないと言うことも、だ。
「……だったら、自分で聞きに来なさいよ……」
 ぼそっと、フレイはこう呟いてしまう。
「フレイ?」
 僕のこと? とキラがとっさに聞き返してきた。苦笑とともに、フレイはそれに首を横に振って否定をする。
「ミゲルよ、ミゲル! 知りたいのは、あいつなんでしょ?」
 違うの? という言葉にキラは違うというように瞳を揺らした。
「……僕も、ミリィのことが心配だから……」
 だから、知りたいんだけど……とキラは呟くように告げる。でなければ、無意識のうちに彼女を傷つけるような言動を取ってしまうかもしれないから、とも。
「本当にあんたは……」
 言葉とともに、フレイはキラの体を抱きしめる。
「フレイ?」
「やさしいのもいいけど、それで身動きできなくなったら、大変なんだからね」
 特にこれからは……と付け加えた。そうすれば、キラの手がそっと背中に押し当てられる。
「その時は、フレイ達がフォローしてくれるでしょ?」
 だから、大丈夫だよ……とキラは口にした。そこまで信頼されて嬉しくない人間がどれだけいるだろうか。
「……本当にあんたは……」
 そういうキラだからこそ、誰もが彼女のために手を差し出すのだろう。その結果、世界が大きく代わろうとしているのだ。だから、悪いことではない。それに、キラを傷つけたり利用しようとしたりする人間は、自分たちが排除をしてしまえばいいのだし、と心の中で呟く。
「あいつ……トールを失って悲しんでいるミリィに、言っちゃいけないセリフを口にしたの」
 もし、あの時キラを失っていたならば、自分だって同じ行動を取ったに決まっている。フレイはそう確信していた。
 それをしなかったのは、キラが生きていると教えてくれた人がいたからだ。
 しかし、トールは二度と帰ってこない。
「……だから、ミリィがあいつにナイフを振り上げた気持ちもわかるし……でも、それが失敗してくれてよかったとも思うの」
 ミリィのことだから、後でそのことを後悔するに決まっているから、と。
 実際、今も彼の面倒を見ているのは彼女なのだ、と付け加えれば、キラは柔らかな微笑みを浮かべた。
「ミリィらしいね」
 そして、こう告げる。
「やさしくて、強い」
 その言葉は嘘ではないだろう。
「あたしに言わせれば、あんたもそうだけどね」
 でも、キラの方がもっと強くてやさしいとフレイは考えていた。でなければ、彼女はこうして微笑んでいられないだろうから。
「そんなことはないよ」
 しかし、キラは自分のことは決して認めようとはしない。
「もう少し、自分に自信を持てばいいのに」
 フレイはため息をつきながらこう呟く。
「無理だよ……これが、僕だもん」
「知っているわよ。あたし達がわかってればいいことよね」
 言葉とともに、フレイはキラの体を解放した。
「それよりも、キラ、仕事は?」
「今はないよ。ミゲル達のシミュレーションの結果待ち」
 フラガが生きて帰ってきてくれればいいんだけど……とキラはこっそりと心の中で呟く。今頃、三人がかりで特訓されているだろうしな、とフラガの引きつった顔を思い出しながら付け加えた。
「ならいいわ。食堂に付き合いなさい!」
 どうせ、ご飯、食べていないんでしょう? と問いかける。
「ミゲルが側にいて、そんなこと許される、と思う?」
 しっかりと食べさせられてから戻ってきたよ……とキラは乾いた笑いとともに口にした。その表情から判断をして、かなりがつんと食べさせられたのだろう。
 さすがはミゲル……と別の意味で感嘆をしてしまった。
「なら、お茶でいいわ。付き合いなさい」
 ミリィも呼び出して無駄な話をしましょう、とフレイは笑う。
「楽しそうだね」
「楽しいわよ。ついでに、女の子としての常識も教えてあげる」
 もう隠しておく必要はないのだから、と言えばキラも笑いながら頷いて見せた。



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最遊釈厄伝