目の前の機体に、キラ達は思わず息をのむ。
「あの後、回収をして修理をしたの。もっとも、乗せてあるOSはナチュラル用のものだけど……」
 言外に、キラがこれに乗る日が二度とないだろうと思っていたのだ……とエリカ・シモンズは言外に付け加える。
「でも、前のものも保存してあるわ。必要なら、そちらに戻すことも可能よ」
 どうするのかはキラ達次第だ……と彼女はキラ達を見つめてきた。
「ストライク……」
 どうしようか、とキラは視線をミゲル達に向ける。自分たちが決め手はいいとは言われても、自分があれに乗ることはもうないだろう。今の自分には、彼等から預けられたフリーダムがあるのだ。
 と言うことは、ストライクは誰か他の人間に乗ってもらわなければいけない。
「それと、M−1を三機、そちらに回すように指示をされているわ」
 数は十分よね? という言葉に、キラは頷いてみせる。
「ストライクを含めて四機に……そういえば、バスターもあったようだけど?」
 あれはどうかしたのか……とミゲルがフラガに問いかけていた。
「あぁ、キラが行方不明になったりしたせいで、存在を忘れていたな」
 捕虜にしたんだよ、フラガが言葉を返している。それを耳にした瞬間、ミゲルがぐったりとキラに寄りかかってくる。
「あいつも、哀れな……」
 よりにもよって忘れられていたなんて……と彼は呟く。
「って、ニコルもか?」
 確か、キラのことが片づいてから、ニコルはアークエンジェルに御邪魔していたはずだが……とミゲルはがばっと顔を上げた。
「……フレイが教えていた、と思うんだが……」
 顔を見に行っていたかどうかはわからない……とフラガは苦笑を貼り付けている。
「フレイか……」
 ミゲルがこう呟いた。しかし、キラにはそんなフラガの態度に何か違和感を感じてしまう。
「……フレイじゃない誰かが、何かをしたんですか?」
 キラはだから、こう問いかけた。そうすれば、フラガは困ったように視線を彷徨わせる。
「ムウさん?」
 そんな彼に、少しだけ強い口調で呼びかけた。
「……ミリアリアの方がな、ちょっと精神的に不安定だったし、あの坊主がそれを逆撫でしてくれたらしいんだよ」
 言外にトールのことを付け加えられて、キラは表情を強ばらせる。
「……あいつなら、十分あり得るな」
 ナチュラルを見下していたからなぁ……とミゲルは深いため息をつく。
「まぁ、いい。面倒なら、放り出してもらえばいいだけだしな」
 それで戻ってくるようなら、それなりに使うさ……とミゲルは付け加える。
「あいつだって、今までにそれなりに考えていたはずだからな」
 そして、柔軟な思考の持ち主だから……という言葉にキラは小さく頷いて見せた。少しでも協力者が増えてくれるのは嬉しいと思うのだ。
「了解。で、こいつだが……」
 お前さんが使うか? とフラガが口を挟んでくる。
「いや……ストライクはあんたに使ってもらうのがいいと思う。俺たちは、あくまでも黒子だ。目立たない方が無難だろう」
 表に出るのは、キラやフラガ達でいい……とミゲルは口にした。
「ミゲル?」
「ニコルやラスティはいいが……俺は表に出るとちょっとまずいからな」
 いろいろな意味で……とミゲルは苦笑とともにキラを見下ろしてくる。
「そんな表情をするなって。最初からわかってたことだ」
 だから、俺は何にも感じていない……と言いながら、彼の手がそっとキラの頬に触れてきた。
「それよりも、俺としてはこの人がストライクをきちんと動かせるようになるまで、の方が問題だと思うぞ」
 時間的にな、と彼は付け加える。
「……やなことを思い出させやがって……」
 フラガが本当に嫌そうにこう呟く。
「思いっきりしごいてやるか。あぁ、すぐにでも動かせるんですよね、これ。それと、俺が使ってもいい機体は?」
 表情を変えると、ミゲルは側でそっと彼等の会話を聞いていたエリカに声をかける。
「すぐに用意させるわ。あぁ、データー取らせてもらってもいいかしら」
「それを、オーブ軍のM−1に?」
 エリカの言葉に、キラが確認の意味をこめてこう口にした。
「えぇ。少しでも生き残る確率を上げたいの」
 そのためには、参考になるデーターは多い方がいいのだ、と彼女は付け加える。
「それなら、バスターからもデーターを集めて……分析は、キラに頼むのが早いよな」
 残りの二人の機体もそうそうに用意してもらえれば、それからもデーターが取れるぞ、とミゲルは笑う。
「ついでに、この人のレベルも上がるだろうしな」
 三人がかりでしごけば……と言われてフラガは本気で表情を強ばらせている。だが、いやだと言わないのは、きっと、彼もそうしなければ生き残れないとわかっているからだろう。
「何なら、OSもカスタムする?」
 四人分、とキラはミゲルに問いかけた。
「……無理しない程度でな。まぁ、俺たちは自分で何とかするから、フラガさんのを優先してやってくれ」
 一番不安そうだから、という言葉に、フラガも苦笑を浮かべる。
「わかってる」
 そんな彼に向かって、キラも微笑んで見せた。



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