本来であれば、オーブを巻き込む予定はなかった。
 だが、これだけの損傷を受けてしまった以上、どこかで修理をしなければいけない。それはわかりきっていることだ。
 何よりも、オーブから内密に迎えが来たことが、キラ達に決断を促す要因になったと言っていい。
「お久しぶりです、ウズミ様」
 しかし、こうして彼の前に出るのはやはり……と思いながらキラは彼を見つめる。
「本当は、二度とお目にかからない予定だったのですが……」
「気にすることはない。このような成り行きでは当然のことだ」
 それに、と彼は穏やかな笑みを口元に刻む。
「君もまた、オーブの国民であることは事実だからね。国民を守ることは私の義務でもある」
 そして、世界をよりよい方向に進めることもだ、と彼は続けた。
「ウズミ様」
 きっぱりと言い切った彼に、いったい何と言い返せばいいのだろうか。キラは悩んでしまう。
「もっとも、あまり時間はないようだがね」
 彼から連絡があったよ、とウズミが小さなため息をついた。
「あちらから何か?」
 このような状況になるだろうことをわかっていたからだろう。彼等は、地球軍に残っている。そして、情報をこっそりと流してくれるのだ。
「……どうやら、オノゴロが欲しいらしい」
 モルゲンレーテの施設とカグヤにあるマスドライバー施設が目的だろう……と彼は続ける。
「現在、その両島にいる者達の避難は進めている。だが……」
「時間が問題、と言うことですわね」
 ウズミが言いよどんだ言葉を、ラミアスが代わりに口にした。
「そうだ」
 そして、現在のオーブ軍では地球軍の総攻撃を防げないのではないか。キラはそう判断をする。  前回のことでM−1アストレイはナチュラルでも操縦が可能になったが、しかしパイロットの熟練度、という意味ではどうだろうか。何よりも、彼等にとって戦争は遠い場所にあったのだ。心構えそのものが違っているだろう。
「君達がどうするか、は君達次第だ。私としては強要をするつもりはない」
 キラ達が最終的に何を目的にしているか、知っているから……と彼は続ける。
「ですが……そのためにはオーブが存続をしていることが前提条件です」
 キラはきっぱりとした口調でこう言い返した。
「確かに、僕たちの仲間は二つの陣営にそれぞれいます。ですが、その間を取り持つのは中立であるオーブの役目です」
 だから、必要でであれば、自分はオーブのために戦うだろう。キラはそう考えていた。
 しかし、それをアークエンジェルのクルーにまでは求めない。
 彼等が戦わなければいけないのは、つい先日まで同じ軍に所属していた者達なのだし、と心の中で呟く。
 同時に、フレイ以外の友人達にも強要はできないな、とそう思う。
「すまないな、キラ・ヤマト嬢……我々は、君に負債だけが増えていくような気がする」
 最初のことから始まって……とウズミは口にした。
「いえ……過去のことは口にしてもしかたがないことです。それよりも、僕は未来に視線を向けたいと思います」
 戦争のない世界を作ることを優先したい。そういうキラに、誰もが頷いて見せた。

「……少佐、よかったのですか?」
 ラミアスはアークエンジェルに戻り、今後のことを他のクルー達と相談してくると言って別れていった。だが、何故かフラガだけはキラ達と行動を共にしている。
「俺はもう、少佐じゃないんだけどな」
 そうすれば、彼は苦笑とともにこう言い返してきた。
「そっちの坊主達がザフトじゃないのと同じように」
 さらに付け加えられた言葉に、キラは小首をかしげる。
「いや、違うと思いますよ。俺たちは死人扱いでも、あなた方は脱走兵扱いですからね」
 さらりと、ミゲルがこんなセリフを口にした。その内容に、キラは息をのむ。
「大丈夫だって。あの人が何か画策しているだろう」
 全てが終わったときに適当にごまかしてくれるだろう、と口にしながらミゲルはキラの肩を叩く。
「どちらにしても、俺たちが自分で選択をした結果だ。お前さんが気にすることじゃないって」
 だから安心しろ、とフラガも笑う。
「それに……お前を見捨てたら、フレイはもちろん、あの野郎に何を言われるかわからないからな」
 俺としては、まだまだ生きていたいわけですよ……と彼は苦笑とともに付け加える。
「……あの人って、ラウ兄様、ですか?」
 そんなことはみじんも言っていなかったが……とキラは首をかしげた。
「そう、あいつ。まぁ、お前さんは知らなくていいことだって」
 それよりも、と彼は話題を変えようとするかのように視線を向ける。
「いったい何なんだろうな。モルゲンレーテに呼び出されるなんて」
 アークエンジェルの修理はともかく、それ以外に何があるのか……とフラガは付け加えた。
「俺たち用の機体を用意してくれるんなら、ありがたいんだけど」
 キラはともかく、自分の分は機体がないから……とミゲルも頷く。
「そうだな。そうしてくれると、俺も戦えるんだが」
 もっとも、自分の場合MSになれることから始めないといけないだろうが……とフラガは苦笑を浮かべる。
「あぁ、その時は俺たちがシミュレーションに付き合いますって」
 三人もいるから、すぐになれるよ……とミゲルが言い返す。
「三人って……」
 自分も入れたら四人ではないか。キラはそう思う。
「お前は少し休憩。フレイが恐いからな」
 その他にもいろいろとしてもらわないとけないこともあるし……とミゲルが口にした。だから、こっちは任せてくれ、とも。
「……ミゲルがそういうなら……」
「大丈夫。ちゃんと使い物になる程度にしごいてやるって」
 ラスティもニコルも、自分がしごいて一人前にしたようなものだしな……と彼は付け加えた。それを耳にした瞬間、フラガの表情が強ばる。
「……お手柔らかに……」
 そして、こう呟く。そんな彼の表情に、キラは思わず笑い声を漏らしてしまった。



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