目の前の機体を見上げて、キラは微かに眉を寄せる。
「……まさか、核を搭載しているなんて……」
 この技術を連中が手に入れたらどうなるだろうか。そう思うのだ。
「この技術は最高機密だ。わたしも目を光らせている。だから、心配はいらない。君は、しなければいけないことをしたまえ」
 こう言いながら、素顔をさらしたままのクルーゼがそっとキラの髪をなでる。
「ラウ兄さん……」
「こちらのことも、だ。ラクス嬢はすぐに君と合流するだろうが、こちらに残られる方もいらっしゃるからね」
 そちらの方々に関しては、自分が責任を持って守るよ……と彼は微笑む。彼等の存在は、戦争が終わったときにこそ必要になるのだから、とも付け加えた。
「君には、ミゲルがいる。それに、あれらとも合流できるはずだしね」
 特に、彼女とも……と意味ありげに笑う。
「……あぁ、彼女ですか」
 それにキラよりも早くミゲルが言葉を返した。
「キラを独占していたから、何か言われるだろうな」
「ミゲル!」
 今、そんなことを言わなくても……とキラは慌てたように口にする。というよりも、そんなことをクルーゼに聞かせていいものか、とそうも思う。
「本当のことだろう。あいつの方がずっとお前を独占していたくせに」
 心が狭い奴だよな、とミゲルは笑う。
「今度あったときに、君がそういっていたと彼女には伝えてよう」
 ミゲルの言葉に、クルーゼが楽しげに笑いを漏らしながらこう告げた。その瞬間、ミゲルの表情が強ばる。
「……隊長……」
 本気ですか、とミゲルがはき出した。
「もちろん、本気だとも」
 そのくらいの楽しみは残しておいてくれないとね……とクルーゼはさらに笑みを深める。
「……あの、二人とも……」
 それは、とキラは思わず聞き返してしまった。
「それよりもキラ。もう、本来の性別を隠す必要はない。いいね」
 視線をキラに向けると、クルーゼは彼女の襟元を直してくれる。
「ミゲルが側にいるのであれば、あの男も手出しはできまい」
 それに、キラが《女性》の方が、いろいろな意味でいいのだ、と彼は微かに眉を寄せながら口にした。もっとも、キラにとっていいことだとは限らないのだが、とも付け加える。
「そのために、俺たちがいるのだ……と思っていましたが?」
 あちらには自分やフレイだけでなく、ラスティやニコルも合流しているし、ディアッカもいるらしい……とミゲルは口にした。
「でも、ディアッカは問題か」
 そう言った点では、イザークの方が信頼できたんだけどな、とミゲルは呟く。
「イザークまでもっていかれると私が困るのでね」
 ともかく、無事に再会できるよう頑張りなさい……とクルーゼはキラの髪をなでてくれる。そして、彼はまたあの仮面を身につけた。
「気を付けて行きなさい。こちらのことは、何も心配はいらない」
 後は、最後の仕上げをするだけだから……と言う彼にキラは頷いてみせる。そして、そっと彼の手の下から抜け出した。

 目の前に差し出されたデーターに、誰もが眉を寄せる。
「私たちは捨て駒、という事かしら」
 ラミアスの言葉がここにいる者達の気持ちを代弁していた。
「その可能性は、否定できません。この艦以上に、ザフトの目を引きつける存在はありませんから」
 もっとも、そんな彼等をフォローするために自分たちがここにいるのだが、とニコルは心の中で呟く。
「くわしいことは、あの方々が戻ってくれば、もっとはっきりとすると思います」
 転属命令を受けたフレイとフラガは、今、アラスカ基地内で情報を集めている。そんな彼等をラスティと、あちら側の協力者が無事に逃がしてくれることになっていた。だから、心配はいらないはずだ、とニコルは人を安心させるような笑みを浮かべる。
「それに……キラさん達もこちらに向かっているそうです」
 だから、それまで故知答えることができれば、後は何とでもなるはずだ。そう告げれば、彼等の表情がいきなり引き締まる。
「キラ君が?」
「はい。もう一人、あの方の護衛に付いていた人間も同行してくるそうです」
 実力に関しては、自分たち以上だ……と付け加えれば、誰もが目を丸くした。
「それは……」
「詳しいことは、ご本人達から聞いて頂けますか? でなければ、フレイさんに」
 自分たちが話していい内容ではないから、とニコルは言葉を返す。
「……わかりました」
 本当はどんなわずかなことでもかまわないから聞きたいのだろう。
 しかし、それを理性で押さえ込める彼女たちは、まちがいなく軍人なのだ。もっとも、現状に疑念を抱けるだけの頭を持っているからこそ、彼女たちは上層部から切り捨てられたのかもしれない。
 あるいは、キラの存在がそうさせたのか。
 しかし、彼女たちはキラと出逢えたことをマイナスだとは考えていないらしい。
 そんな柔軟な思考の持ち主達が集まっていたからこそ――キラの存在を抜きにしても――彼等は強かったのだ。ニコルは今更ながらにそう考える。
「大丈夫です。それに、その前に驚くことがあるかもしれませんし」
 にっこりと微笑むと、誰もが首をかしげた。
 だが、ニコルの言葉に関して、誰も問いかけることはできない。
「……始まったわね」
 ラミアスがこう言いながらゆっくりと立ち上がった。



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