まぶしさに目を覚ます。 しかし、そこは今まで見たことがない場所だった。 「……どこ?」 ここは……とキラは呟きながら、ゆっくりを体を起こす。そのまま周囲を見回せば、まるでおとぎ話にでも出てきそうな室内の様子が確認できた。 いや、それだけではない。 自分が身につけている衣服も、まるで物語に出てくる女の子が身につけている寝間着のようなものだった。シンプルだが、少なくとも素材と仕立てはよいもののように思える。 「何、これ……」 自分はいったい、いつこのようなものに着替えたのだろうか。 それとも、誰かに着替えさせられたのか。 「……お母さん? お父さん?」 両親――ハルマだったら、少し恥ずかしいが――であれば、それでもかまわない。そう思いながら、キラはこう呼びかける。 その瞬間、キラの中にある記憶がよみがえる。 「お父さん! お母さん!! どこ! どこにいるの?」 あれは、単なる夢だ。体調を崩したから見せられた悪夢なのだ。そう思いたくて、キラは両親を捜そうとする。 ベッドから抜き出すと二人に呼びかけながら部屋を飛び出そうとした。 しかし、どこのドアも窓も、キラの手では開けられない。 「……何?」 どうして、とキラは呟く。自分が閉じ込められていることがいやでも見せつけられてしまったのだ。 だが、その理由がわからない。 どうして、自分がこんな所に閉じ込められてしまったのか。 自分はただの第一世代で、特別有能というわけではない。いや、自分以上に有能な存在ならたくさんいるはずだ。 確かに、性別は偽ってきたが、それはコーディネイターの女性を襲うものが多かったせいだ、と父から聞かされていた。だから、本当にキラが好きな相手ができたときにはこっそりと本来の性別に戻ればいい。あるいは、相手にだけ知らせてひっそりと暮らしてもいいだろう。そうもいってくれていた。 しかし、それが自分が閉じ込められる原因になるだろうか。そう思う。 「出して! パパ!! ママ!」 ともかく、両親が来てさえくれれば、それでいい。どこにいようと彼らさえいてくれれば安心できる。そう思って、キラは二人の姿を必死になって求めた。 それなのに、どれだけ叫んでも彼等は自分の前に現れてはくれない。 いつもであれば、こんな風に叫んでいればどちらかが駆けつけてくれて抱きしめてくれるのに。 「パパ! ママ……」 お願いだから、キラを一人にしないで……と呟いたときだ。 不意に背後でドアが開かれる。 「ママ?」 反射的に視線を向けた。 しかし、そこにいたのは、自分が今までにあったことがない二人の少年だった。 用事を済ませて戻ってみれば、屋敷内の様子が妙に騒がしかった。 「どうかしたのか?」 一番近くにいたメイドに、ミゲルはこう問いかける。 「キラ様の様子がおかしいと……」 何か、パニックを起こしているのだ、と彼女は早口で言葉を返してくれた。 「……そうか」 一人きりで目覚めたからだろう。きっと、あの日々を思い出してしまったのではないか。ミゲルは即座にそう判断をする。 「なら、側に行ってやった方がいいな……」 あの日から、キラは一人では眠れなくなった。その理由が理由であったからこそ、誰もそれを非難することはない。むしろ、彼女を一人にしないように気を付けていたのだ。 しかし、ここではなかなかそういうわけにはいかない。 「ラクス様がキラを大切にしているっていうのはわかっているんだが……」 自分たちの関係を説明するのが一番厄介なのだ。 まぁ、まちがいなく恋人関係なのだが、それでもうるさい連中はうるさい。 でも、と思う。 「今度のことで、少しは状況が変わればいいんだがな」 キラにとって必要なものを与える。その事実を優先に考えてくれるようになればいい。 もっとも、とミゲルは心の中で呟く。 「ラクス様なら、ご自分が添い寝をすると言い出しそうだがな」 それならそれでかまわない。というよりも、そっちの方がありがたいかもしれない、とは思う。 しかし、彼女も忙しい。 はっきり言って、それは不可能だと言っていいのではないか。 だから、最終的には自分が……と思う。キラにしても、その方が安心できるだろう、ということもわかっていた。 第一、恋人関係とは言っても、今許されているのは、キスだけなのだ。 それ以上のことをしようとすれば、クルーゼをはじめとした連中に殺される。それは願い下げだし、何よりも、キラにそんな余裕がないことがわかっている。 全てが終わって、仲間達がそれぞれ自分のポジションを確立してからでも遅くはないだろう。 それまで、キラの心が変わるはずがないから。 「ともかく、今はキラの様子を確認して、だな」 そして、落ち着かせる方が優先だ、と改めて呟く。そのまま、キラのベッドが置かれていた場所へと足を向ける。 考えてみれば、この場所も悪かったのか。 自分たちが初めてであった場所も、こんな雰囲気の部屋だった。だから、キラにとっては余計に辛かったのかもしれない。 今更ながら、ラクスに押し切られた自分に腹が立つ。 しかし、それを表に出すことはできない。 「キラ」 代わりに穏やかな表情を作りながら、ミゲルは室内に足を踏み入れた。その瞬間、涙に濡れたすみれ色の瞳が自分の姿を映し出す。 「……ミゲル……」 キラがすがりつくように腕を差し伸べてくる。 そんな彼女を抱きしめようとミゲルは即座に駆け寄ってやった。 |