連絡を受けて、すぐにミゲル達は行動を起こした。 「お前さん達がいてくれて、本当によかったよ」 外装を大きく変えたジンの点検をしながら、ミゲルはこういう。 「まぁ、みんな幽霊だしな」 「そういう問題ではないと思いますけどね」 ラスティの言葉に、ニコルがあきれたように言葉を返している。 「それよりも、大丈夫ですか? MSでの実戦は初めてでしょう?」 さらに付け加えられた言葉に、ラスティは思いっきり顔をしかめた。それが、痛いところをつかれたからだ、というのは簡単に想像が付いてしまう。 「こういう状況での初陣で悪いな」 どうせなら、もっと華々しく活躍したかったんだろうが、とミゲルはからかいを含ませた口調で言葉をかけた。 「別に」 初陣なんて、どこですませても同じだ……とラスティは口にする。 「だったら、お姫様を助ける方がやりがいがあるだろう」 誰かを傷つけることよりは、と彼は付け加えた。 「ラスティ、らしいですね」 「……死にかけても、変わらないな」 もっとも、ナチュラルに対する感情はかなり変わってきているようだが……とミゲルは心の中で呟く。それは、オーブで治療を受けていたことがいい影響を与えてくれていたからだろう、とそう思う。 「それよりも、いいのか?」 何か反応あるんだけど……とラスティが口にする。 「マジかよ」 予定より早いぞ、と呟きながら、ミゲルもコクピットに潜り込む。そして、センサーをのぞき込んだ。 『識別番号は……間違いなく、報告にあったものですね』 即座に解析をしたのだろう。ニコルがこう言ってくる。こう言うところが、経験値の違いなのだろうか。 「なら、途中で何かあったか……何もなかったから早まったのかのどちらかだな」 あるいは、ダミーかもしれないが……とそう呟く。 だとするならば、自分たちの存在がばれていると言うことか。 それはものすごく厄介だな、とミゲルは心の中で付け加えた。 しかし、それを確認する術はない。間違えていたら、後はあちらに何とかしてもらうしかないだろう。そう考えることにした。 その時だ。 モニターにメール着信を告げる信号が現れる。 「……誰だよ……」 こんな時に、と思いながら、それでも一応中身を確認した。緊急の連絡という可能性もあるからだ。 「なるほど、な」 それは、地球軍にいるはずの《彼》からのものだった。その内容に、ミゲルは小さな笑いを漏らす。 「それは、ダミーだとさ。後三隻ぐらい、同じ信号を出している奴があるはずだ。その中の二番目が本物、だとよ」 あちらとしても、誰かが《キラ》を取り戻しに来る可能性は考えていたらしい。しかし、中枢近くにこちらの味方がいるとは、まったく予想していなかったはずだ。 もちろん、それは知られてはいけない事実だと言うことも否定できないが。 『了解』 『何なら、三隻そろったところで、それぞれ攻撃を仕掛けるか?』 その方が、目的が悟られなくていいんじゃないのか、とラスティが問いかけてくる。 「そうだな。だが、その分、一人一人の負担が大きくなるぞ」 大丈夫か、と言外に問いかけた。 『やるしかないんだろう?』 だから、全力を尽くすだけだ、とラスティは口にする。 『そうですね……要は、相手の動きを止めてしまえばいいわけですから、不本意ですが沈んで頂きましょう』 脱出できる程度の損害で……とニコルも言ってきた。そうすれば、キラを見つけ出すのも簡単ではないか、と。 「じゃ、そういうことで行くか」 やれると思うのならな、とミゲルは判断を下した。 その作戦が当たった、と言うべきだろうか。 それとも、連中としてはキラを殺すわけにはいかなかったのか。 おそらく後者だろう、とミゲルは思っている。 いくら連中でも、一度失った命をよみがえらせることは不可能だと言っていい。キラの遺伝子だけではなく、その才能も必要としているのであれば、必ず、彼女を守ろうとするはずなのだ。 しかし、とミゲルは思う。 「……薬か……」 ぐったりとした彼女の姿を見るのは辛い。 それ以上に、彼女の身に不埒な真似をされていないかどうかの方が心配だ。 だが、とすぐに思い直す。 彼がいて、キラにそんなことをさせるはずがない。だから、大丈夫だろう。 自分に言い聞かせるようにミゲルは心の中で呟く。 「なら、このまま、本国へ連れて行った方がいいな」 いろいろな意味で、と口にする。 「そうですね。そうして頂いた方がいいでしょう」 その役目は、ミゲルにお願いしますね……とニコルが笑う。 「ニコル?」 「その間に、僕たちはあちらと合流をします。その方が、後々楽ですしね」 キラがいなくなってしまった以上、あちらの戦力に不安があることは否めないから、と彼は付け加えた。 「……そうだな。その方が安全か」 さらに、ラスティまでもがニコルに同意をする。 「それに、俺たちの場合、家が面倒だからな」 全てが終わるまでは本国に足を運ばない方がいいだろうな、という彼の言葉が、全ての理由を指し示していた。 「わかった、頼む」 だから、素直にこう口にする。 「わかってるって。だから、お姫様をよろしくな」 軽い口調でこう言ってくれる仲間達の存在がありがたい。ミゲルは心の底からそう感じていた。 |