ここでニコルが一旦、ザフトを離れることは予定されていたことだ。そして、その偽装として、キラがブリッツを破壊することもだ。
 しかし、それがアスランを別の意味で追いつめることになるとは思ってもいなかった。
「……嘘、でしょう……」
 ストライクがイージスによって破壊された……と聞いた瞬間、フレイはこう呟く。
 いや、ストライクが破壊されただけならば、それはそれでかまわない。
 問題なのは、その結果、キラの行方がわからなくなった……と言うことだ。
「死んではいないはずだ……」
 こう教えてくれたのは、フラガだった。
「少なくとも、ストライクのコクピット内に、キラはいなかったそうだ。そして、周囲には、何かを引きずったような後もあったらしい」
 おそらく、誰かがあの場からキラを連れ去ったのだろう。しかし、それがアスランでないこともわかっている。
「考えられる可能性はいくつかあるが……その中のどれでも、キラの命だけは保証されるはずだな」
 もっとも、と言いかけて飲み込まれた言葉が、フレイにはわかっていた。
「……生きていてくれれば、それでいいの……」
 それに、とフレイは心の中で呟く。その中でも最悪の可能性でも、あの人があの地位にいる限り、最悪の結果にはならないだろう。その前に止めるはずだ。
「生きてさえいてくれれば……きっと、探し出せるわ」
 だから、自分は大丈夫。キラが生きていると、信じているから……と無理矢理微笑みを作る。
 しかし、何故か涙がこぼれ落ちてしまった。

 その報告を耳にした瞬間、彼は思いきり眉を寄せてしまう。
「……困りましたね……」
 いずれは、ここにあの少女を招かなければいけない。それは最初から計画をしていたことだ。
 しかし、と思う。
 それはこのような形ではいけないのだ。
「……ここは、ちょっと強引にでも、あちらに行って頂くしかないでしょうね……」
 できれば安全に……とそう呟く。その瞬間、不満そうな視線が彼に向けられた。
「君が彼女に会いたい、と思うのは当然のことでしょうけどね……残念だが、今そうしてしまえば何も変わらないのですよ」
 それでは、意味がないのではありませんか? と問いかければ、視線の主は悔しそうに唇をかんだ。
「それに、君が会いたいのは、彼女だけではないのでしょう?」
 他のメンバーにも会いたいのではないか、と問いかければくすんだ金髪が素直に揺れる。いつもこうだと楽なのですけどね、と彼は心の中で呟いた。
「全員そろうには、全てを終わらせなければいけません。そのためには、もう少し、我慢しなければなりませんよ」
 とはいうものの、いったいどうやってあの少女を一度あちらに渡すか。それが問題だ、とそう思う。
 こちらに連れてこられてからでは不可能だ。
 だが、今の状況であれの位置を教えることは、自分たちの存在を教えることになってしまう。
「……いつ、着くんでしたっけね」
 こちらに、と彼は呟くように口にした。
「明後日ぐらい、かな?」
 いつの間に確認していたのだろうか。そう思わずにはいられない。
 だが、彼のあの子達に対する気持ちを考えれば、それは当然のことなのかもしれない、と思い直す。
「それならば、その時をねらうしかないでしょうね」
 待ち伏せをされていたように装って……と彼は呟く。それならば、おかしくはないのではないか。
 でなければ、傭兵を装わせてもいい。
「それがうまくいけば、彼女にはしばらく会えませんが、あの子には会えますよ」
 彼女は、真っ直ぐにこちらに向かっているはず。だから、と彼は笑う。
「それで我慢していてください」
 彼女も好きでしょう? と問いかければ、同じように金髪が揺れる。
「最終的には、あのこと一緒にお姫様に迎えに行きましょう。それまでに……邪魔な人間の排除をすませてしまわないとね」
 でなければ、彼女たちは生きにくいだろう。もちろん、それには目の前の相手も含まれている。
「と言うわけで、君は戻りなさい。彼等が不審に思っていますよ」
 いずれは、彼等も味方に引きずり込みたいところだが、まだ早いだろう。
「くれぐれも、僕が渡した以外の薬は使わないように」
 いいですね、と付け加えれば彼は再び頷いた。そのままこの場を離れていく。
「……さて……」
 どうやって、あちらに連絡を取るか。彼はそう考え始める。
 今回は時間的に余裕がない。
 そうなれば、あちらを経由して、連絡を取るのが一番確実だろう。
「彼等にも伝えられればいいのでしょうが……難しいですしね」
 まぁ、こちらについてから機会を見て伝えればいいだろう、と結論を出す。その前に、無事にあちらが彼女を保護してくれれば、それでいいのだが。
「任せるしかないでしょうね」
 他の者達以上に、自分の立場は複雑だから。
 それが少しだけ辛い……と思う。
 それでも、現状を変えるために、自分たちは動き出したのだ。
「僕たちは、あなた達の道具ではありませんからね」
 どのような権力をもらったとしても、その前提が望むものでなければ意味がない。それに、権力は、自分で掴むからいいのだ。
「世界を壊す。そして、新しい秩序を作る方が楽しいでしょうしね」
 こう呟くと、彼はうっそりと笑った。



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