「本当に、あんたって神出鬼没よね」
 目の前の人物を見て、フレイはこう口にする。
「他の人たちに見られたら、どうするつもりだったの?」
 もっとも、目の前の男の口のうまさはよく知っていた。そして、彼が今身に纏っているのはオーブ軍の軍服だ。その二点から判断して、周囲を言いくるめることぐらい簡単だろう、とは思う。
 だからといって、素直に認められるか、というとそうはいかない。
「そういうなって」
 苦笑とともに相手――ミゲルがこう告げる。
「あっちからの連絡があったし……俺としては、お前に教えておかなければいけない事実があったからさ」
 他の誰が言うよりも、自分が来た方が確実だろう。そう思ったのだ、と彼は続けた。
「お前、いきなり『俺、味方だから』って知らない奴が出てきてもすぐに信用できないだろう?」
 ここで何人か、新しく仲間になった奴もいるし、そいつらの顔を覚えてもらわないと後で厄介なことになるからさ……と言われてしまえば納得するしかない。
「キラには直接あわせたが……状況次第では、キラと別行動の可能性もあるだろう」
 オーブを出てしまえば、何があってもおかしくはないから……と彼はさらに言葉を重ねた。
「わかったわよ」
 ここまで言われてしまえば、いつまでもだだをこねるわけにはいかない。
 何よりも、ここに彼がいることに疑念をもたれてはいけないのだ。
 自分の立場であれば、オーブ軍の人間から声をかけられることはほぼないと言っていいのだし、とも。
「で?」
 こう言って、フレイは手を差し出す。
 本人達を連れてこられるわけがないのだろう。だから、彼が紹介するとすれば、写真ではないか、とそう思ったのだ。
「こいつらな。実力は、一応折り紙付き」
 そのうち合流すると思うから……と言いながら、ミゲルは数枚の写真を手渡してきた。
「名前なんかは、裏に書いてあるから」
 一応、覚えておいてくれ……と言われて、フレイは素直に頷く。
「で、覚え終わったらエンデュミオンの鷹に渡しておいてくれな」
「はぁ?」
 自分が処理をするように言われるとばかり思っていたのに、まったく予想外の名前を出されて、フレイは思わずこう聞き返してしまった。
「何で、少佐……」
「引きずり込んだから」
 クルーゼさんが、とあっさりと言われて、逆に拍子抜けしてしまう。
「大丈夫なの?」
 いろいろな意味で、とフレイは逆に聞き返してしまった。
「あれこれ弱みを握っているそうだから、大丈夫じゃないかってさ」
 人に知られるとまずいような秘密も知っているって話だし……と言う言葉に、いったい彼等はどのような関係なのか、と思う。しかし、それを問いかけても目の前の相手が知っているとは思えない。
「それに、ここでお前達のフォローをしてくれる人間が必要だろう?」
 これからのことを考えればなおさら……と彼は真顔で付け加える。
「あっちに付いてしまえば、あの人がフォローをしてくれるだろうが……それでも、タイムラグはできる。でも、エンデュミオンの鷹なら、すぐ側にいてくれるからな。あの人が動いてくれるまでの時間稼ぎはしてくれるだろう?」
 それに、とミゲルは笑う。
「キラは信頼しているらしいからな。ある一面を除いて」
「あたしもそうよ」
 あれさえなければ、ものすごくいい人なんだけど……とフレイも頷いてみせる。
「でも……そうね。まちがいなく、ここでは彼以上に信頼できる人はいないわ」
 立場も、キラを守ってくれるのに一番最適だし……と付け加えた。
「あの人もそう判断したんだろうよ」
 ともかく、自分はキラの側にいられない。だから、今はフレイに頼むしかない……とミゲルは呟く。
「任せておいて」
 こう言って、フレイは微笑んだ。

 ミゲルが無事にアークエンジェルから降りたのを確認して、フレイが自分達の部屋に戻ろうとしたときだ。そこに、サイ達の姿を見つけて足を止めた。
「何か、用?」
 今更、と付け加えながら、フレイは彼等をにらみつける。
「……フレイ……」
 そんな彼女に、真っ先に声をかけてきたのはミリアリアだ。
「お願いだから、最初からけんか腰にならないで」
 でないと、話ができないから、と彼女は続ける。
「話って……今更、何? キラが話をしたいっていったときには無視したくせに」
 今更? とフレイは問いかけた。
「キラに、じゃなくて……フレイと話がしたいんだ」
 サイがこう言ってくる。
「あたしは、ないわ」
 それよりも、用事があるの……と口にしながら、フレイはその場を離れようとした。結局、彼等は本当の意味で《キラ》の友達になってはいなかったのだ。だったら、早めに切ってしまった方がキラのためだろう。そう判断をする。
「……馬鹿サイ!」
 しかし、いきなりトールがこう言ってサイを殴った気配が伝わってきて、フレイは視線を戻した。
「素直にいえよ。キラのことが心配だから、フレイから話を聞きたいんだって」
 もう、キラに対してのこだわりはないんだろう? と彼は苦笑とともに付け加える。そうすれば、サイは視線を周囲に彷徨わせた。
「キラに聞いても……ごまかされるだけだと思うから……」
 だから、フレイに聞きたいんだけど……と彼はようやく口にする。
「……俺たち、キラがそんなに苦しんでたなんて、考えてもいなかったから……」
 いや、現実を見ようとしなかった、と言うべきかもしれない……とサイは付け加えた。
「だから、フレイから話を聞きたかったんだけど……」
 今であれば、キラはいないから、安心して話ができると思ったから……と彼は付け加える。
「……わかったわ」
 その気持ちをどこまで信用していいのだろうか。
 それでも、今は信用したいと思う。
 何よりもキラがそれを望んでいるから、とフレイは心の中で呟く。
「でも、今は無理よ。これから、掃除をしなきゃないから」
 パイロット控え室の、と口にする。
「そうね……一時間後に、食堂でなら大丈夫だと思うわ」
 それでいいでしょう? とフレイは彼等に問いかけた。
「あぁ……それでいいよ」
 仕事の方が優先だしな、とトールが頷く。
「じゃ、後で」
 こう言いながら、フレイは今度こそその場を後にする。
「……これで、いい方向に行けばいいんだけど……」
 彼等の視線を感じながら、フレイはこう呟いていた。



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