「キラ! ねるなら、ちゃんと毛布をかぶって!」 でないと、体調を崩すわよ! とフレイは口にする。しかし、それでもキラが目覚める様子はない。それだけ疲れているのだ。 「……まったく……」 ここに入ってくるのは自分だけだからいいとはいえ、この状況を見られていいのか。そういいたくなってしまう。 「何が起こるか、わからないのに」 ここにいる限り、取りあえず戦闘に巻き込まれることはない。しかし、これだけ大勢の人間が出入りしていては、誰があちらと関係しているのかわからないのだ。 それに、と思う。 「あのセクハラ少佐にあんたのことがばれたら、絶対、無事じゃすまないわよ」 女性と見れば口説き回っている彼は、一度ぐらい痛い目を見てもいいのではないか。そんなことまで考えてしまう。 「……まぁ、いいわ」 意識がないキラにあれこれ文句を言っても彼女の眠りを妨げるだけだ。それよりは、何かあっても取りあえずごまかせるようにしておいた方がいいだろう。そう判断をして、そっと肩まで毛布を掛けてやる。 「さて、と……あたしにできることは、後何かしらね」 そう呟きながらフレイは立ち上がった。 その時だ。不意に端末が呼び出し音を響かせる。 「……もう……」 せっかくキラが眠っているのに! と呟きながら、フレイは端末に駆け寄った。モルゲンレーテに戻ってしまえば、周囲の目を気にしてゆっくりとしていられないことがわかっているのだ。何よりも、自分がそばに付いていられないし、とも。 だからといって、緊急事態がないとは言い切れない。 こう言うときに無視できないのが辛い、と思いつつ、フレイは手早く端末を操作した。 「フレイです」 何かありましたか? と少し不安そうな口調を作って相手に問いかける。 『あぁ、ごめんなさい』 モニターには、やさしげな笑みを浮かべたラミアスが映し出されていた。 「艦長?」 『オーブ側から、あなた達の希望があれば、お知り合いとの面会を許可する……と打診があったの。他のみんなにはもう希望を取ったのだけれども、貴方やキラ君にはまだだったから』 この言葉にフレイは少し寂しげな表情を作る。 「あたしは……オーブにいる知り合いは、ここにいるみんなだけですから……」 だから、自分には合いたい人も会わなければ行けない人も取りあえずいない……とフレイは口にした。 『フレイさん……』 その瞬間、ラミアスが『しまった』というように顔をしかめる。 「別に、艦長のせいではありませんから」 気にしないでくれていい……とフレイは笑みを作った。 「それよりも、キラを起こさないとダメでしょうか」 凄く疲れている見たいなんですけど……と付け加える。 『そうなの?』 「はい。今のでも起きませんから」 でも、必要なら起こすが……と口にした。もちろん、本音はそれとは逆だ。 できることならば、キラは起こしたくない。 だから、申し訳ないとは思いつつ、ラミアスの性格を逆手に取らせてもらうことにした。 『わかりました。返答にはまだ猶予がありますし……起きてから話しておいてくれる?』 いくらなんでも、明日の朝まで眠っていることはないでしょう? とラミアスは付け加える。 「そう思いますけど」 どのみち、ご飯の時には起こすつもりだし……とフレイは口にした。 『なら、お願いね』 「はい」 頷き返せば、ラミアスはほっとしたような表情を作る。そのまま、彼女は通話を終わらせた。 「……それにしても、何を考えているのかしら……」 オーブは、とその瞬間、フレイは眉を寄せる。自分たちがここにいることを知られたくないと思っていたのではないか。 それとも、その危険を冒してでも何かをしなければいけないと思っているのかもしれない。 「でも……キラだって……」 オーブ本土で『会いたい』といえる人間がいるのだろうか。少なくとも、自分が知っている範囲ではいないはずだ。 「……あいつがここに来ているなら話は別だけど」 それとも、仲間達の誰かか。 彼等がここに来ているのであれば、こっそり打ち合わせも可能ではないか、とは思う。 しかし、それはある意味、危険をはらんでいる。相手の素性から、こちらの目的がばれないとも限らないのだ。 「本当……うまくいかないものね」 だが、何とかできれば情報交換ができるのではないか。そうすれば、キラはもちろん、自分もあれこれ判断を下す材料が増えるのに。そう思う。 「……んっ……」 小さな声を漏らして、キラが寝返りを打つ。そうすれば、彼女の肩から毛布が滑り落ちた。 「プロテクターを外していることを忘れているわね」 まぁ、それはそれでしかたがないのだけれども……と思いながら、それを直してやる。 「本当……早く、全てが終わってくれるといいわね……」 そうすれば、キラは彼の元に戻るだろう。でも、きっと自分も側にいることを許してもらえるはずだ。 「みんなで、静かに暮らせるといいな」 そうしたら、きっと、キラだけではなく彼もまた、自分のために歌ってくっるのではないか。そう思う。 「大丈夫よ、キラ」 それまでは、自分は絶対キラの側にいるから……とフレイは囁くと彼女の髪の毛をそっとなでてやった。 |