目的地に着いたと同時に、キラはカガリと引き離されてしまった。 その代わりに 自分の目の前にはバルトフェルドが座っている。 「……いったい、どんなご用でしょうか……」 わざわざ自分たちを引き離すような真似をしてまでも話をしたいというのは……とキラは言外に問いかけた。でなければ、わざわざカガリだけを連れて行く必要はないだろう、とそう思うのだ。 「そうだね……取りあえずは、確認、かな?」 小さな笑いとともに彼はすっと銃口をキラに向けてきた。 その彼の行為に、キラは体を強ばらせる。しかし、すぐに彼からは殺気が感じられないことに気付いてしまった。 「……逃げないのかね?」 あくまでも冷静な口調で彼は問いかけてくる。 「貴方が僕を殺そうとしていらっしゃるなら、逃げます。でも、貴方にそのつもりはないように思いますが?」 その程度の事は、自分にだってわかる、とキラは口にした。 「それに、カガリを置いていけませんから」 苦笑とともに付け加えれば、バルトフェルドはしかたがないというように肩をすくめてみせる。 「本当に、困ったね」 こう言いながら、彼はソファーに体を投げ出すように座った。 「君のような存在は、戦いに向かない……と思うのだがね、俺は」 そして、こうはき出す。 「……あの……」 何ですか、とキラは思わず問いかけてしまう。 「個人的に言えば、君も庇護される存在だと思うだけだよ。だが、君でなければいけないという理由もわかる」 だから、困っているのだがね……とはき出された言葉から、やはり彼は誰かから自分たちの状況を聞かされていたのだ、とキラは理解をする。 しかし、それはいったい誰なのか。 「アイシャがお姫様の邪魔をして時間稼ぎをしているが、それも無限ではないからな」 問いかけなければいけないことを聞いてから、判断をさせてもらいたいしね……と彼は続ける。 「……何でしょうか……」 この言葉に、キラは真っ直ぐに相手の顔を見つめた。 「君は……どうすれば、この戦争は終わると思う?」 そのキラの視線を真っ直ぐに受け止めながら、バルトフェルドはこう問いかけてくる。 「……戦争を使って、自分の利益を得ようとする人間を排除すること、でしょうか」 コーディネイターやナチュラルのトップを入れ替えても無駄だろう。まして、どちらかの種族を完全にこの世から消し去ることはできない。 なら、戦争をしなければいけないと思わせる状況を作っている者達をまずは世界から消してしまえばいいのではないか。キラはそう考えていた。 「コーディネイターとナチュラルというくくりで世界を考えるからこそ、対立が起きるのでしょう。しかし、個人個人として出逢えるなら、そんなこと関係ないと言える人間も多いですし」 だからこそ、そういう機会を増やせるようにしなければいけないのではないか。キラはそうも考えている。 「理想論だ、といわれることも多いですけど……それを失っては、意味がないですし」 だから、とキラは言いかけて言葉を飲み込んだ。 「なるほど……あの方が君を気に入るわけだ」 小さな笑いとともにバルトフェルドがこう告げる。 「……あの……」 それは誰のことか、と問いかけようとしたときだ。小さなノックの音が室内に響き渡る。 「ようやく、コーヒーが届いたようだね。本当は俺がブレンドしたものを淹れて上げようかと思ったのだが、反対されてね」 君にはまだ早すぎると彼が……といいながらバルトフェルドは身軽に立ち上がる。そして、ドアを開けた。 彼の動きにつられるように視線を向けていたキラは、そこに立っていた人物を見て、目を丸くする。 「……嘘……」 唇から、こんな言葉がこぼれ落ちた。 「嘘じゃないって。そろそろ顔を見せておかないとまずいんじゃないかってあの人が言ってな」 フレイを信頼していないわけではないが……と彼は苦笑とともに歩み寄ってくる。そして、キラの前にカップを一つ置いた。 「でも、正解のようだったな」 あまり、顔色がよくない……とそのまま彼はそっとキラの頬をなでる。そこから伝わってくるぬくもりが心地よい。 何よりも、彼が本当に『生きている』と実感できる。 その事実が、キラの心に安堵を与えてくれた。 「どうした?」 小さなため息を聞きつけたのだろう。彼が小さな笑いとともにこう問いかけてくる。 「ミゲルが、生きているから……」 だから、安心したのだ……とキラは素直に口にした。 「俺がそう簡単に死ぬはずないだろう?」 「わかっているけど……でも、あそこで僕が……」 ミゲルが操縦していたジンを破壊したから、とキラは言葉を口にする。その後、全然連絡がなかったから、ひょっとして……と不安だったのだ、とも。 「あぁ。それは悪かったって」 でも、ほいほいと連絡できる状況じゃなかったしな……と彼は笑う。 「大丈夫、俺はこうして生きているだろう? 対外的には死んだことになっているかもしれないが、その方が動きやすいしな」 キラ達のフォローもしやすい……と彼は笑う。 「うん……」 そうは頷いてみせるものの、彼が常に側にいてくれるわけではない。それも真実なのだ。 「大丈夫だって。俺はいつでも俺のお姫様のことを考えているんだから」 だから、何があっても浮気するなよ……と彼は耳元で囁いてくる。 「浮気? できると思う?」 フレイが側にいて、危ない相手を牽制しているのに……とキラは小さな笑いとともに言い返した。 「ようやく笑ったな」 「女の子は、やっぱり笑顔の方がいいが……そろそろタイムリミットだ」 もう一人のお姫様がこっちに向かっているぞ……とバルトフェルドが口を挟んでくる。 「しかたがないな……キラ」 「……うん」 今はまだ、うかつに知られるわけにはいかない。だから、とキラは頷いてみせる。 「大丈夫だって。すぐに次の機会があるから」 だから、それまで、どんなことをしても生き抜け。そう囁いた彼に、キラは微笑みを返した。 |