目の前で、ジンが四散して行く。
 そのコクピットでパイロットが脱出できずに爆発に巻き込まれた。
 一瞬だけ見えたその顔が、大切な人のそれにすり替わる。
「いやだぁ!」
 自分は、誰も殺したくないのに……
 そして、誰も死なせたくないのに。
 いや、そもそも戦いなんてしたくないのだ。どれなのに、どうして戦わなくてはいけないのだろうか。
 そんなことは、考えなくてもわかっていた。
 自分が戦わなければいけないのだ、という事実も、自分で選択したことなのだ。
 それでも、その事実を誰かにとがめられているようだ、とも感じている。
 あるいは、そもそも自分は存在してはいけない人間だったのではないか。そう思いこまされていた時期があったからかもしれない。だが、それを未だに払拭することができないのだ。
 何よりも、大切な相手と敵対している現状が、それに拍車をかけているのかもしれない、という自覚もある。
「やだ……殺したく、ないのに……」
 それでも、戦わなければならないのか。
『でも……お前は人殺しだろう?』
 どこからともなく声が聞こえて来る。
『お前の手は、既に血に染まっているではないか』
 違うのか? という問いかけに、キラは自分の両手に視線を向けた。その瞬間、べっとりと血がついた両手が瞳に飛び込んできた。
「あっ……」
 その血は次第に足元に広がっていく。そして、その血だまりがキラを飲み込もうとしているのだ。
「やぁぁぁぁぁぁっ!」
 キラは耐え切れずに叫び声を上げる。
「キラ!」
 そんなキラの耳に、耳になじんだ声が届く。同時に頬を鋭い痛みが襲った。
「早く起きなさいよ!」
 さらに強く揺さぶられる。
 その刺激に、キラはゆっくりと目を開けた。
「フ、レイ?」
 キラは目の前に広がる《赤》を確認してこう呟く。
「魘されてたわよ、あんた」
 まぁ、どんな夢を見ていたのかは簡単に想像ができるけど……と彼女は小さなため息とともにはき出した。
「ごめん……」
 それが彼女の神経を逆撫でしたのではないか。そう思って、キラは小さく謝罪の言葉を口にした。
「何、言ってるの、あんたは」
 本当に、といいながら、きれいに整えられた指先がキラの頬をつねりあげる。
「あんたが謝ることは何もないの! わかっている?」
 わかってないようだけど……と彼女はさらに指先に力をこめた。
「フレイ、痛い!」
「わかってたら、そんなこと、言わないわよね」
 本当にバカなんだから、と付け加えながら、フレイはそのままキラの頬を左右に引っ張る。その痛みに、キラの瞳から涙がこぼれ落ちてしまった。
 それで満足したのか。フレイはようやく指を放してくれた。
「……痛い……」
 フレイの攻撃をこれ以上受けてはたまらない。そう思って、キラは自分の頬を自分の手で包み込む。
「でも、これで目が覚めたでしょ?」
 違うの? という言葉にキラは渋々ながら頷いてみせる。
「ならよかった。少佐が呼んでいるわ。その前にご飯も食べないといけないでしょ」
 ぽんぽんとフレイの口から出る言葉に、キラは小さなため息をつく。
「少佐、デッキ?」
 取りあえず、厄介そうなことから片づけようか。そう思って、こう問いかける。
「その前にご飯! 先に、あたしと一緒に食堂に行くの!」
 あんた、またやせたでしょ! とフレイがにらみつけてきた。
「理由もわかっているけど、倒れたら意味がないじゃない!」
 それもわかっているでしょう? と彼女はさらにたたみかけるようにこう言ってくる。
「……わかっているよ」
 自分が戦えなくなったら、誰も守れない。
 戦っていても、守れなかった命があるのだから……とキラは唇をかむ。
「それ、やめなさい!」
 唇の形が悪くなるわよ! といいながら、彼女の指先がキラの唇をなでてくる。そして、少し強引にキラの唇を開かせた。
「あんたの顔、気に入っているんだから」
 そのまま、そっとフレイの唇が触れてくる。
「フレイ……」
 一瞬だけ与えられたぬくもりに、キラは目を見開く。
「あんたは一人じゃないの。それだけは覚えていなさい」
 だから、ご飯! と全然つながりのない言葉とともにフレイがキラを立ち上がらせる。そして、引きずるようにして歩き出した。



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