本当のことを言うと、あたしはパパが大嫌いだった。 だって、ママを殺したのは、結局、パパだったの。もちろん、パパは私が知っているとは思っていないでしょうけどね。 そして、あの子達のことも大切な家族から引き離して、切り刻んでいたのよ。 それをあたしが知ったのは、ママが入院していた病院でのことだった。 「歌?」 ママの病室を追い出されたあたしの耳に、それが届いたのは偶然だったかもしれない。でも、何もできずにいたあたしには、それは不安を解消してくれるものと思えたの。 だから、その歌が聞こえた方に歩いていったわ。 そこで、あの子達にあったの。 二人は綺麗で、それでいてどこかこの世のものとは思えなくて……だから、てっきり妖精かあるいは天使だと思ったの。 二人とも、白い服を着ていたし。 でも、おかしいなとも感じたのは事実。 だって二人とも、まるで閉じこめられるように鉄格子がはめられた温室にいたんだもの。 きっと、捕まえた天使を逃がさないようにしていたのかもしれないなんて考えたあたしは、今思えばものすごくバカだったわね。でも、その時のあたしは、まだ子供だったし、何よりも目の前の光景に意識を奪われていたから、それに気づく余裕もなかったの。 歌は、その二人が歌っていたわ。 優しくて、でも、とても悲しそうな歌だった。 それを、あたしはずっと聴いていたいと思ったの。でも、それは不意にとぎれたわ。 「だぁれ?」 その代わりに、そのうちの一人がこう問いかけてきた。 「……わからないけど、すぐに元の場所にお帰り。ここにいるのがばれたら、怒られるぞ」 少し年長らしい少年がその後に続いて、こう告げる。 「俺たちは不浄の存在らしいからな」 だから、ここで閉じこめられているのさ……と彼は苦笑を浮かべた。 「誰が? 誰が、そんなひどいこと、しているの?」 誰だって、自由にすごす権利があるのだ、とパパは言っていたのに、どうしてこの綺麗な二人はそれが許されないのか。第一『不浄の存在』とはどういう意味なのか、と本気で思う。 「オコサマは、まだ知らなくていいことさ」 皮肉が混じった声で少年の方がこう言ってくる。 「だめだよ、そんなこと」 「本当のことだろう?」 その子は《ナチュラル》なんだし……と、止めようとした少女の言葉を彼が中断させる。その言葉を耳にした瞬間、あたしは自分の存在がいやになってしまう。 「でも……それは彼女のせいじゃない。そうでしょう?」 自分たちが望んでここにいるのではないのと同じように、と少女は寂しげに口にした。 「……閉じ込められて、いるの?」 反射的にこう問いかければ、少女は悲しげに視線を落とし、少年の方は睨みつけてきた。 「何よ!」 あたしはとっさにこういい返そうとする。だが、それよりも早く、 「来るな……」 あいつらが……と少年がつぶやく。 「お前、見つかりたくなければ、さっさと戻るか……どこかに隠れていろ」 ばれたら、ただじゃすまないぞ、とかけられた言葉から、実は少年も優しい性格なのではないか、と思う。今までの言葉も、自分をここから遠ざけつためだった、とあたしは思い当たった。 しかし、一体誰がこの二人を閉じ込めようとしているのだろうか。 それを確かめてやろうと考えた。だから、あたしはとっさに物陰に隠れる。 次の瞬間、あたしは自分の目を疑った。 そこに現れた男たちの中にパパがいたからだ。 一体、パパがどうして……と思う。 それとも、あたしが知らない場所で、パパはこんな風に誰かをつらい目に合わせていたのだろうか。 まるで引きたれられるようにつれ去られて行く二人を見送りながら、あたしはそんなことを考えてしまう。 「天使、なのに……」 口は悪いけど、二人ともきれいで、歌も上手だった。それに、優しいし……そんな二人を閉じ込めて、パパたちは何をしようとしているのだろうか。 あたしは、それを知りたい。いや、知らなければいけないのだ、と感じていた。 その後、あたしはパパがママをも実験材料にしていたらしいことを知ってしまった。 そして、あの二人も家族から引き離されて何かをされているということも。 「そんなの、許せるはず、ないじゃない」 では、どうすればいいのだろうか。 こう考え始めたその瞬間から、あたしの世界は今までのそれとは違ったものになったのだった。 でも、そのお陰であたしは天使のそばにいられるようになった。だから、かまわない。そう思うの。 |