破壊の跡は、進めば進むほど強くなっていく。
 同時に、その痕跡に何やら機械らしい破片も増えてきた。
「……ここって……」
 いつの間にか、キラは両親から離れてアスラン達と共に歩を進めていた。それは両親から離れたかったというわけではなく、どうやら大人達の間で何か話したいことがあるらしいとキラが察したからだった。
「あぁ……コーディネイト用の医療施設に似ているな」
 キラの呟きに、ディアッカが小さく頷いてみせる。医療関連の施設を統括しているフェブラリウスを統括している父を持つ彼は、その手の施設に詳しいのだろう。
「って、そう言えば、閉鎖されるまではここでもコーディネイトを行っていたって言うから、その施設の残骸なんだろうが……」
 だが、いくら何でもここまで徹底的に破壊する必要があったのだろうか、と彼は眉を寄せている。
「あの施設は本国にあるものを俺も見たことがあるが……なんか、違わないか?」
 必要とは思われない設備もあるようだが……とアスランが口を挟んできた。
「言われてみればそうかもしれないが……他の医療設備も混じっているんじゃないのか?」
 ここまではでに壊されて、しかも踏み荒らされていれば……とディアッカが言い返す。
「言われてみればそうかもしれないが……」
 だとしたら、何のための設備だ……とアスランは眉を寄せる。
「それが、父上達がここまでで向いてきた理由かもしれないな。いくらキラを可愛がっているからとは言え、単にご両親とキラを再会させるだけならザラ委員長だけで十分だろう?」
 キラの両親がアスハ家ゆかりの人物であり、ウズミが来ているから……と言うことを考えたのであれば、他に誰か一人付いてくれば良かったはず。それなのに……とディアッカは悩んでいる。
「まぁ、俺としてはキラと一緒にいられるなら何でもかまわないんだがな」
 ディアッカが笑いと共にこう、結論付けた。そして、そのまま手を持ち上げるとキラの頭を撫でてくる。
「結局はそこに行き着くのか、お前は……」
 苦笑混じりにアスランがディアッカに言葉を投げつけた。
「まぁ、俺だってそうなんだから、何も言えないがな」
 くすくすと笑いを漏らしながら、アスランはキラの肩に手を置いてくる。どうやら、この二人の組み合わせは比較的良好らしい、とキラは意味もなく思ってしまった。
「……って……どうやら目的地に着いたみたいだぞ」
 不意に足を止めたディアッカがキラ達にこう言ってくる。視線を向ければ、前を歩いていた面々が何やら壁のようなものの前で止まっている。
「だが、ただの壁のような……」
 それとも……とディアッカが首をひねったときだ。
「キラ」
 ハルマの声がキラ達の耳にも届く。何事かと思って視線を向ければ、彼がキラを手招いている姿が見えた。
「どうしたの、父さん」
 こう問いかけながら、キラは即座に父の元へと駆ける。
「キラ。ここに両手を当ててごらん」
 そんなキラに向かって、ハルマは壁の一角を指さした。
「……ここ?」
 一体どうして……とキラは思う。だが、素直に言われたとおり両手を壁の一角へと押し当てた。
 次の瞬間、壁全体に光の線が走り回る。それはキラの手の場所に集約した。そう思うと同時に、何かが低い音を立てて動き出し始める。
「父さん?」
「もう少し我慢しておいで……お前のデーターがここの解除キーとして登録されているんだよ」
 そして、今、システムがデーターをスキャンしているのだ……とハルマは口にした。
「僕の?」
 どうして《自分》なのか。
 キラの中で新たな疑問が湧き上がってくる。それは今までつもりつもってきたあれこれと相まって、キラの中で大きく膨れあがっていく。
「……貴方が、ここで生まれた最後の子供……だからよ」
 キラの疑問の一つに答えてくれたのは、カリダだった。
「ここの所長だった人は、キラの伯父様なの。なかなか子供ができなかった私達のために、いろいろな方法を考えてくれたのよ」
 そして、ここがブルーコスモスに襲撃されたとき、一番重要な施設を守るために、そのようなシステムを組んだのだと……
「ただ……ここのスポンサーの一人がウズミ叔父様だ……と言うことはあちらも知っていたの。そして、私達が生き残っていれば叔父様を頼るであろうことも……」
 そうすれば、間違いなく《キラ》が狙われるであろうことはわかっていた。
 だから、彼女たちは直接ウズミを頼ることなく、マルキオへと連絡を取ったのだという。そして、自分たちの全ての経歴を消去して、月へと移住したのだ……と。
「……それほどまでして、守らなければならなかったものというのは何なのですか? おばさま」
 キラだけではなくアスランの中にも疑問が湧き上がってきたのだろう。カリダに向かって疑問の言葉を投げかけている。
「それは、今からわかる……」
 だが、それに言葉を返してきたのは彼女ではなくパトリックだった。
「我々の未来にとっても重要な施設だなのだよ」
 そして、タッドまで口を挟んでくる。
「……コーディネイターの未来にとっても重要な施設?」
 ますます訳がわからなくなってきたぞ、とディアッカも素直に口にしてきた。
 自分たちには伝えられてはいないが、彼らは何かを知っているのだろう。それはキラにもわかる。わかるが……どうして知らされなかったのだろうか。成人……とは認められていても、自分はまだ周囲の庇護をを必要としているからなのだろうかともキラは思う。
「あるいは、ナチュラルの中でも必要としている者たちがいるかもしれないわね」
 その上、どちらかというとナチュラルを嫌っていたはずのルイーズまでがこんな言葉を口にし始めた。
「もっとも、ブルーコスモスに関わっている者たちにはどのような形であれ、認めたくないのでしょうけど」
 それほどのことなのだろうか。
 ブルーコスモスに狙われるとわかっていても自分をこの世界に生み出したいと思ってくれたのだろうか。
 キラは振り向いて両親達の表情が見たくなった。
 しかし、まだ手を離していいという許可を誰もキラに与えてくれない。
 壁にてを押し当てた状態ではどうしても、真後ろにいる両親へと視線を向けることはできないのだ。
「……えっ?」
 ゆっくりと壁が左右に動いていく。そんな感覚がキラに伝わってきた。
「キラ……手を離しなさい」
 ハルマの言葉に、キラはようやく壁から離れる。それでも壁から視線を離さないままゆっくりと後ずさっていく。
「危ないわよ、キラ」
 そんなキラをカリダが優しく抱き留める。
「母さん……」
「ご覧なさい、キラ……あれが貴方を生み出してくれたの。子供を体の中で育てられない、私の代わりに」
 キラの肩越しにカリダが壁の中にあるものを指さした。
「……母さん?」
 だが、キラにはそれよりも母の言葉の方が衝撃的だったと言っていい。
「それでも、母さんはお父さんの遺伝子を持った子供が欲しかったの」
 振り向いたキラに向かって、カリダは慈愛に満ちた、それでいて悲しげな微笑みを口元に浮かべていた。



と言うわけで、キラの秘密はこういう事です(^_^;