コロニーに着艦するとき、キラもまたブリッジへといた。その隣には、アスランとディアッカの姿もある。
「……あれって、クサナギか?」
 ディアッカが驚いたように呟く声がキラの耳に届く。
「クサナギ?」
 それが隣に着艦している船の名前なのだろうと言うことはキラにもわかった。だが、どうしてディアッカがこんなに驚いているかはまではわからない。
「知っているの?」
 だから、キラは素直にこう問いかけた。
「確か、オーブ首長家の一つ、アスハ家が所有している船だったはずだ」
 見かけはあぁでも、かなりの戦闘能力を持っているはず……とディアッカは言葉を重ねてくる。
「と言うことは……おじさま達のお知り合いにアスハ家に関わる人がいる、と言うことか……」
 アスランが驚愕を押し隠しつつこう口にする声がキラにも聞こえた。
「あるいは……マルキオさまが手配をしてくださったのか……」
 彼ならば、オーブの首長家に知り合いがいてもおかしくない……と思う。と言うより、いるだろう。そう言えば、キラをヘリオポリスで護衛していてくれた夫婦も、ウズミ・ナラ・アスハ氏の下で出逢ったと言っていなかっただろうか。キラはそんなことも思い出していた。
「まぁ、ともかく……これでキラはご両親と再会できるんだろう? 細かいことは、うちの父上達に任せておけばいいさ」
 お前はご両親との再会を楽しめ……とディアッカはキラの頭に手を置く。そして、そのままぐしゃぐしゃと彼の髪をかき回し始めた。
「ディアッカ! 子供扱いしないでよ!」
 一つしか違わないだろう、とキラは口にするとディアッカの手の下から逃げ出す。
「アスランにはしょっちゅうさせているくせに……それはないんじゃないのか?」
 差別だろう、とディアッカが口にすれば、
「アスランはそんなに乱暴なことしない!」
「……キラの髪は傷みやすいんだから、もっと丁寧に扱えって」
 キラだけではなく、アスランの口からもこんな言葉が彼に向けて返される。
「それは悪かったな……このさらさら感が好きなんだよな、俺も」
 これが傷むのは惜しい……と言いながら、ディアッカはまたキラの髪に触れてきた。しかし、その手つきは先ほどまでと比べても優しいと言えるものだ。だから、今度はキラも逃げ出すようなことはしない。
「……さてっと……あちらとはいつ連絡を取るつもりかな、父上達は」
 アスランがこう言いながら視線をパリック達へと向けたことがキラにも見える。そして、それにつられるようにキラもパトリック達へと視線を向けた。そうすれば、彼らがどこかに通信を入れている様子が見える。
「……では、そのように……」
 だが、キラ達がその内容を確認する前に通信は終わってしまったようだ。
「クルーゼ隊長」
 パトリックの声がブリッジ内に響き渡る。
「すぐに人員を選出いたします。キラ君に関しては……彼らで十分だと思いますが」
 次の瞬間、意味ありげな言葉と共にクルーゼが三人へと視線を向けた。
「まぁ、否定はできないわね」
 と言うより、キラのことなら本来の任務以上に彼らは張り切りだろう……とルイーズが笑い声と共に口にする。それをキラの両親が喜ぶかどうかまではわからないが、と。
「……ひょっとして、からかわれているのか、俺達は……」
「ひょっとしなくても、からかわれているぞ、俺とお前に関しては」
 キラに関しては全く別問題だろうとアスランはため息混じりにディアッカに言葉を返す。
「まぁ……それに関してはからかわれていると言うよりは叱咤激励されている、と思った方が精神安定上いいと思うが?」
 ルイーズさまの野望を考えれば……とアスランは付け加えた。
「……それって、あれ?」
アスランの言葉に思い当たる節がキラにはあり過ぎるほどある。プラントに戻ってからと言うもの、ことあるごとに言われ続けていたのだ。
「たぶん、キラが考えていることだと思うよ」
 本当にあの方は、とアスランは頷き返す。
「ってあれか? キラの遺伝子を他の連中と掛け合わせてみたいって……」
 どうやらディアッカにも二人の会話の意味がわかったらしい。口元に苦笑を浮かべてみせる。
「まぁ、キラの子なら可愛いだろうが……性格がキラに似ないと大変なことになりそうだよな」
 ひょっとしたら、だからアイリーンが今回のメンバーから外れていたのかもしれないとディアッカは付け加えた。
「アイリーン様? お忙しいからじゃないの?」
 だから、エザリア達と共に残ったのだろう、とキラは思っていたのだ。
「それもあるだろうけどさ……さすがにまずいと思ったんじゃねぇの? キラのご両親にあった瞬間『息子さんを私にください』何て言われちゃ」
 ラクスがいない隙を狙って……と言うことは否定できないだろう……と問いかけられて、キラもアスランも反射的に頷いてしまった。
「……でも、それって普通、男の人が女の人のご両親に言うセリフじゃないの?」
 少なくとも自分はそうしたいかも……とキラは付け加える。
「といってもだなぁ……アイリーン様とラクスが、キラに彼女ができるのを邪魔してくれると思うよ?」
 もちろん、条件次第では自分も彼女たちに味方をするから……とアスランが付け加えた。
「それ、俺も同意だな。つまらない女にキラをくれてやるくらいなら、俺が貰うって」
 即座にディアッカも言葉を口にする。
「その前に俺が立候補するよ」
 だが、アスランも負けてはいない。あるいは、ここにいないニコルやイザークも同じようなセリフを口にするのだろうか……とキラは思う。
「……アスラン? ディアッカも……」
 その前に、これ以上ここで恥ずかしいセリフを言わないで欲しい。そう思い、キラは彼らの名を呼んだ。
「はいはい。これ以上は言わないって」
「泣かれると困るからな」
 折角の再会の前で……とアスランは苦笑を浮かべる。
「……アスラン……ディアッカも……本気で怒るよ、僕」
 本当に……とキラは頬をふくらませた。どうして自分が付き合う相手まで彼らに茶々を入れられなければならないのか、とも思う。もっとも、まだそんなことを考えられない……という方が間違いなくキラの本音なのだが。
「だから、もう言わないって……それよりもキラ。父上達が呼んでいるようなんだが」
 アスランのセリフは話題をすり替えようとしているのが見え見えだった。だが、話の内容は無視をすることができないものである。
「……後で覚えていてね、二人とも」
 しっかりとそれについて話をしよう……とキラは口にすると、パトリック達の方へ視線を移す。
「期待させて貰いましょう」
「そうだね。じっくりと話をしないとね、キラ」
 そんなキラの背後で何やら不穏な気配が伝わってくる。だが今はそれをキラは無視することにしたのだった。



次回はいよいよ両親との再会の予定……