戦争が終結した……とは言え、キラはすぐに両親に会いに行くことはできなかった。まだまだあちらこちらでブルーコスモスを含めた地球軍の残党達が抵抗を繰り返していたからだ。
 それでも、少しでも早く……とパトリック達が動いてくれたからだろう。
 キラは予想よりも早く両親達と再会をすることができた。それについては全く問題がない。
「……でも、何でここ、なんだろう……」
 キラは目の前のコロニーを見つめながらこう呟く。
「それに、おじさまだけならともかく、シーゲル様やダット様、それにルイーズ様まで付いてくるなんて……」
 戦後処理で忙しいはずなのに……とキラは小首をかしげる。
 それとも、両親と共にここに来るはずの人物が関係しているのだろうか、と。
「まさかね。そんな偉い人たちと父さん達がお知り合いのわけないし……」
 といいかけて、キラは口をつぐんだ。考えてみれば、両親から彼らの親戚について聞かされたことはないのだ。同時に、彼らがどうやって知り合ったのかも知らない、とキラは今更ながらに気づいてしまう。
 もっとも、それはまだキラが幼かったからだろう。
 あのまま一緒に過ごすことができれば、間違いなくそんな会話を交わすこともでき来たのではないか。
「……結局、僕たちは大切な時間を失ってしまったのかな?」
 その代わり、今はいないレノアやパトリックが思いきり愛情を注いでくれた。だが、それでも実の両親の代わりになったかとは言い切れない。それは、キラの方に遠慮があったせいだろう。
「キラ?」
 ここにいたのか……と言いながらアスランが近づいてくる。
「ごめん……探してくれていたの?」
 彼の表情を見たキラがこう聞き返す。
「そう言うわけじゃないけど……時間が空いたからね」
 キラの顔を見に来ただけ……といいながらアスランはキラの肩に手を置いた。そしてバランスを取ると立ち止まる。
「何を見ていたんだ? と聞かなくてもわかるか」
 展望室から見えるL4メンデルへと視線を向けるとアスランはうっすらと微笑む。
「うん……あそこで父さん達に会えるんだなぁとか、どうしてあそこなんだろうかって思って……」
 別段、他の場所でも良かったのではないか……とキラは付け加えた。さすがに、ヘリオポリスは無理だろうが、オーブ所属のコロニーは他にもあるだろうと。
「本当は、月が良かったんだけどね」
 さすがに地球軍の本拠地だっただけはあって、未だに抵抗が激しいあそこに民間人が行くことは難しい、と言うことはわかっていた。それでも、やはり戻りたいと思うのは、あそこが一番幸せだった時に暮らした場所だからだろうか。
「次の桜の季節にはご希望通り、月でお花見をできるようにしてやるから……それに、あそこはある意味閉鎖されていた場所だからな。変な連中が入り込んでいないことだけは確認できているんだろう」
 だから、逆に安全なんじゃないのか、と言うアスランに、キラはそうなのかな、と思う。確かに、今、この艦に乗り込んでいるメンバーを考えれば仕方がないのかもしれない。
「……やっぱり、僕一人で……」
「というのは無理だろう、キラ。それこそ心配で、俺の胃に穴が空く」
 それどころか、キラを追いかけて自分たちが全員ザフトを脱走しかねない、とまでアスランは口にする。
「……それこそ大問題じゃない……」
 ザフトの英雄達が自分のような人間のために脱走だなんて……とキラはため息をついた。
「まぁ、父上達が適当な理由を付けてくれるだろうけどね、そんなときは」
 自分以上に心配でたまらないと言い出すのは彼だから……とアスランは笑う。
「今回だって、ニコルとイザークを説得するのに苦労したんだし」
 自分たちが全員こちらに来てしまっては万が一の時に対処できない。それにキラの両親と面識があるのは自分だけだ、と言うアスランの主張を彼らが素直に飲んだか、と言うとまた別問題だ。それでも納得をしたのは、キラが『父さん達がアスランにも会いたがっていたから……』と言う一言があったからだ。
 そして、もう一人はディアッカだったりする。これも、彼の父であるダットが今回のメンバーの中にいたからなのだが……実のところ、彼はイザーク達にかなり八つ当たりをされたらしい……と言う話もキラは耳にしている。
 それを裏付けるかのように、一緒に乗り込んできたときのディアッカは、げっそりとしていた。
「本当、みんな、心配性だよね。僕一人だって、何とかなったかもしれないのに」
 ヘリオポリスでは何とかなっていたのだから、とキラは主張をする。
「その間、俺達はかなり胃が痛かったけどね」
 心配で、心配で……とアスランは笑った。
「……そうだったの?」
 信じられないとキラは言い返す。
「だって、連絡が取れなかったからね。マルキオさまが付けてくださった方々が一緒だとわかっていても、不安だったんだよ」
 だから、もうキラを一人でどこかに行かせるようなことはしたくないのだ、とアスランは告げてくる。
「……できるだけ、気を付けるよ」
 また何かあったら、するかもしれないが……とキラは口にした。いつまでもアスラン達に守られているだけの存在ではいやだ、とも付け加える。
「いいよ。そう言うときは俺達が勝手に付いていくだけだし」
 それならかまわないだろう、と言う彼にキラは思わず頭を抱えたくなってしまった。
「……それじゃ意味がないじゃない……」
 本当にアスランは……とキラは呟く。
「何?」
 文句があるのか、と言われて、キラは小さく首を横に振って見せた。もう諦めた方がいいと思った……というのもまた事実だ。
「……そう言えば、メンデルってどうして閉鎖されたんだっけ?」
 知っている、と話題を変えるようにキラは彼に問いかける。
「……バイオ・ハザードがあったとか、ブルーコスモスのテロだ、とかって聞いたけど……」
 詳しいことは自分も知らないのだ……とアスランは答えを返してきた。
「どちらにしても、俺達が生まれた頃の話だから……もう17年近く前の話だね」
「そうなんだ……」
 アスランに頷き返しながらも、キラの中で疑問がさらに大きくなっていく。
「本当、どうしてあそこなんだろうね……」
 キラはまたこう呟く。
「それとも、あそこでなければいけないのかな?」
 両親がこだわったのであれば、そうかもしれない……と。
 カリダが口にした言葉も関係しているのだろうか。
「何でもいいから、早く会いたいな」
 そうすれば、聞きたいことも聞かなければならないことも、全て両親の口から直接説明してもらえるだろう。
 その方がいいに決まっている、とキラは心の中で付け加えた。
「そうだな。俺も、早くおばさま達にお会いしたいよ」
 キラの気持ちを知っているのだろうか。アスランもまた同意を示す。それが嬉しいと思ってしまうキラだった。



なんか、最近ディアッカびいきかも……