毎日のようにアスラン達からは通信が入ってくる。そして、状況を見て、パトリックは両親と連絡を取らせてくれた。 いや、それだけではない。 ラクス達にしても、時間を見つけては顔を出してくれた。 そのおかげ、と言うことか。キラは淋しさを感じるものの不安を抱くことはなかった。 「……でも、やっぱりみんなが側にいてくれるのがいいな」 いつでも顔を合わせることができて話が出来るのがいい……とキラは思う。アスランが一番なのだが、他のメンバーにしても同じだ。 「早く……戦争なんて終わってしまえばいいのに……」 そして、ナチュラルとコーディネイターの間の溝が埋まってくれればいいと思う。そうすれば、もっと自由に行き来することもできるだろうと…… 子供の頃のように、コーディネイターもナチュラルも関係なく笑い会えるような世界になればどんなにいいだろう。こんな事を考えながら、キラは何気なく視線をカレンダーへと向ける。 「……月の桜……咲いているかな?」 そう言えば、いつもこの時期は両親やアスランの家族達と一緒に、近くの公園で桜の花を見ていた、とキラは呟く。日系である父の話だと、A.D時代の日本では夜、桜の木の下でお酒やごちそうを味わっていたのだという。そして、キラとアスランが大人になったら、自分たちもそうしようと約束してくれていたのだ。 その約束が果たされる前に離れ離れになってしまった。 でも……とキラは心の中で呟く。この戦争が終われば何とかなるのではないか、と。 「桜の下で、みんなと一緒に花を見上げたいな」 そして、お酒を飲んでみたい……とキラは小さな声で呟く。 もちろん、その場にいて欲しいのは両親やアスラン、パトリックだけではない。自分が知り合った全ての人々とと思うのはワガママなのだろうか、とキラは心の中で付け加えた。 「キラ様……アスラン様からご連絡が入っておりますが?」 ノックの音と共に、執事がこう声をかけてくる。 「あっ……はい。今行きます」 もうそんな時間か……と思いながら、キラは腰を上げた。そして、そのままドアの方へと駆け寄っていく。 「すみません。呼びに来て頂いて……」 そしてドアを開けながら彼に言葉を返す。 「いえ。ですが、お急ぎくださいませ。何やら、すぐにでもキラ様にお伝えしたいことがあられるのだそうです」 そんなキラに、執事がこう告げてくる。 「……アスランが?」 この言葉に、キラは思わず眉を寄せてしまった。彼がそう言うことをしてきたことは今までないのだ。 あるいは……とキラの中に不安が広がる。何か悪い知らせでもあるのか、と。 「わかりました」 言葉と共に、キラはパトリックの書斎へと駆け出す。途中の階段を普通に下りるのが面倒で、キラは二階からそのまま下へと飛び降りた。 「キラ様!」 二階から執事の声が追いかけてくる。しかし、それに言葉を返す間も惜しいというようにキラは書斎へと飛び込んだ。 『キラ?』 モニター越しにその光景を見ていたアスランが目を丸くしている。 『どうしたんだ? そんなに慌てて……』 肩で息をしているキラに向かって、彼はこう問いかけてきた。 「どうしたって……アスランが『すぐに』って言ったんじゃないの?」 だから急いできたのだ……と付け加えながら、キラは彼には何も起こっていないようだと判断をする。と言うことは、他の誰か、なのだろうかと。 『別にそんなに急がなくても……まぁ、俺としては少しでも早く伝えてやりたいって言うのは本音だけどね』 アスランの口調はあくまでも明るい。と言うことは、自分が考えているような事態ではないのだろうか……とキラは思う。 「……誰かが怪我をしたっていうわけじゃ、ないよね?」 それでも確認しないうちは安心できない……とキラは彼に問いかけた。 『当たり前だろう? あいつらは殺したって死ぬような連中じゃない』 何なら、呼び出すか? と言われて、キラは素直に首を縦に振ってしまう。アスランが嘘を言っているとは思わないが、戦場では何があってもおかしくないのだ。実際に自分の目で確かめたい、と思うのが本音だ。 『本当、キラは心配性だよね』 まぁ、それもキラららしいけど……と付け加えながら、アスランは一度モニターの中から姿を消す。それでも、何やら話をしているらしい声がキラの耳には届いていた。それもキラを安心させるために彼がわざとしているのだろう。そんな心遣いがありがたいとキラは微笑みを浮かべる。 『ニコルとイザークは勤務中だから無理かもしれないが、ディアッカはすぐに来るそうだ』 残りの二人も、時間を見つけて顔だけは出すかもしれない……とアスランが顔を出しながら告げてきた。 「ごめんね、アスラン……」 手間をかけさせて……とキラが言えば、 『気にしなくていいよ。キラの気持ちもよくわかるから』 とアスランは微笑み返してくれた。その表情がいつもよりも軟らかいと思えるのは気のせいだろうか。 『そうだ、キラ……多分、一週間以内に直接会えると思うよ?』 その表情のまま彼はこう言ってくる。 「休暇? すぐに、って言った理由はそれなの?」 前の休暇から、まだ二ヶ月と過ぎていないのに……と不思議そうに聞き返す。 『休暇じゃないよ。とりあえず……その後はしばらく――あるいはずっとかもしれないけど――本国勤務だ、俺達は』 キラの言葉にアスランはさらに笑みを深めながらこう言い返してきた。 その言葉の意味を、キラはすぐには理解できない。 「だって……おじさま達がおっしゃってたよ? アスラン達はザフトのエースだって……それなのに、本国勤務なの?」 どうして……とキラはさらに言葉を重ねかけて、まさか……という表情を作った。 その瞬間だ。 『キラ! 戦争が終わったからな。すぐに帰るぞ!』 この言葉と共にディアッカがモニターに姿を現す。 「終わった? 戦争が?」 それでもまだキラは状況が飲み込めない。ただ、ディアッカの言葉をオウム返しに繰り返すだけだ。 しかし、それも一瞬のこと。 「終わったの? 本当に?」 すぐに叫ぶように確認を求める言葉を口にした。 『あぁ……さっき――と言っても、もう半日前になるのかな――地球軍が降伏をしてきた。後は単発的な抵抗はあるだろうが、俺達でなくても対処できそうだからな』 『まぁ、父上達は逆に忙しくなるだろうが……その代わり、俺達が側にいてやれるからいいよな?』 モニターの向こうで、アスランとディアッカがとっておきの微笑みと共に言葉をかけてくれる。戦争が終わったことと同じくらい、キラには彼らの笑みが嬉しかった。 「うん」 だから、早く帰ってきて欲しい、とキラは少し甘えるような口調で口にする。 『もちろんだよ』 もうすぐ、自分たちの艦は本国へ向けて出発するはずだ……とアスランが頷き返した。 「そうしたら……一緒に、お花見をしてくれるよね?」 両親とはまだ無理だろう。だが、彼らとならば今年の桜は間に合うかもしれない。キラはそう思いながら言葉を口にした。 『お花見? そうか……今は桜の時機か……』 アスランが少し懐かしそうな表情でこう呟く。 『もちろんだよ。キラが望むならね』 お弁当を持って、桜を見に行こう……としっかりと頷いた。 『そうだな。それものんびりとできていいかもしれないな』 ディアッカもまたすぐに同意を示してくれる。もっとも、彼に《花見》の意味が理解できているかどうか、少し疑問が残るが。 『だから、待っていてね』 アスランの言葉に、キラは微笑みと共にしっかりと頷き返した。 ここいら辺は流します(^_^; |