しかし、ようとして大人達の行方はしれない。 プラントだけではなく、オーブも捜索に動いている、というのにだ。 その事実を知っているのかいないのか。キラは表面上、普通にしているように見える。もっとも、それが見せかけである、とアスランは気づいていた。 いや、アスランだけではないだろう。 しかし、それを本人に指摘することは、キラのためにはならない、と言うこともアスランは知っている。だから、こっそりと母にだけ報告をすることにしていた。 と言っても、アスランが学校に行っている間のことはわからない。キラはまだ、家の中から一歩も外に出られないのだ。そのために、キラはパトリックが手を回して自宅学習を受けている。だから、学業的には問題はないとは言え、やはり、何とか外へ連れ出したいとアスラン達は本気で思っていた。 「アスラン、それにキラ君? 明日は休みだったね?」 そんなキラが同じように心配なのだろうか。パトリックも以前に比べて自宅にいる時間が長い。だが、実はそれがキラを緊張させているとパトリックは思っていないらしい。 その事実を苦々しく思い始めていたときだった。彼がこんな事を問いかけてくる。 「はい、おじさま」 「それがどうかしたのですか?」 アスランは微かに刺を含ませながら、父に問いかけ返す。 母なら、いくらキラをかまってもかまわない。むしろ、キラのためにはその方がいいだろう、と言うことをアスランは肌で感じていた。 しかし、キラのことを考えれば、父には放っておいて欲しいところだ。それに早く気がつけ、とアスランは心の中で毒づく。 だが、未だにそれは成功していない。 「……マイウスにな、新しいテーマパークができると言うことは知っているだろう? そのプレイベントに来ないか、と誘われているのだが」 一緒に行くかな? と彼にしては柔らかい口調で問いかけてくる。どうやら、彼は彼なりにキラのことを心配しているらしい。 「……なら、もう少し話し方も変えればいいのに……」 ぼそっと口の中だけでアスランは呟いた。だが、それは 「それって、あれですよね。ニュースで話題になっている」 と言うキラの嬉しそうな声にかき消された。それはありがたいとアスランは思ってしまう。こんな事でキラの目の前で父とケンカをするよりはマシだろうと判断したのだ。 「そうだよ。行ってみるかい?」 先ほどよりも柔らかな声でパトリックはキラに問いかけてくる。そうすれば、キラはどうしようかというようにアスランを見つめてきた。 プレイベントであれば、普通に開園する時よりは人が少ないのだろうか。ただ、別の意味で問題がありそうな気がする……とはアスランも思う。しかし、それはパトリックに何とかして貰えばいいか、と脳裏で考える。 「俺も一緒に行って上げるから……家の中だけにいると良くないよ?」 だから、行こう? とアスランはキラに誘いの言葉をかけた。 「……でも……」 だが、キラは何かを言いかけてやめる。 「キラ?」 いいから、ちゃんと最後まで言って、とアスランは彼の顔を覗き込んだ。 「何を言っても怒らないから、話してごらん?」 パトリックもまた、優しい声をかけてくる。そんな彼らに向かって、キラは視線で本当にいいのか、と問いかけてきた。それにアスランがしっかりと頷いたのを見て、ようやく次の言葉を口にする。 「……おじさまの、お仕事の関係の人だけなのでしょう? だったら、僕はお邪魔じゃないかと……」 アスランはいいけど……とキラは付け加えた。 「そんなことはないよ? キラ君は家の子も同然だからね。だから、気にすることはない」 だから、安心しなさい、とパトリックは口にする。 「そうだよ、キラ! キラがいかないから、僕も行かない」 こう言うときだけは父に賛成だ、と思いながらアスランも言葉をキラにかけた。 「……だけど……」 僕は……とキラはさらに言葉を口にしようとする。 「それにね、キラ君。他のメンバーも親戚の子供を連れてくると言っている。どうして私がキラ君を連れて行ってはいけないのかな?」 パトリックの問いかけに、キラはうつむく。おそらく、本音は行きたいのだろう。だが、本当にいいのか、と言う点で悩んでいるのではないか、とアスランは判断した。 「それに、お医者さまが言っていただろう? お外に出てみましょうって……父上のお仕事関係の人たちの子供なら、キラのことをあれこれ言う人なんていないよ? ね、父上?」 事前に手を回してくれるのだろう、とアスランは言外に問いかける。 「キラ君は、当日楽しめばいい。レノアと一緒にいれば大丈夫だろう?」 アスランは私と一緒にあちらこちらに挨拶をして貰わなければならないが……とパトリックが付け加えた瞬間、アスランは思いきり舌打ちをしたくなった。 自分がザラ家の跡取りである以上、他の家の者たちと関わることも義務だ。しかし、あれから初めて家から出かけるキラの側にいてやりたいと思うのもまた事実。 「……母上は父上とご一緒の方がいいでしょう? 子供だけの方がいいこともあるでしょうし……」 第一、母と一緒では逆に目立ってしまうだろう、とアスランは口にした。 「だが……いや、そうかもしれないな」 そんなアスランにパトリックは何かを言いかけてやめる。どうやら、キラの前で言い争えば、せっかくその気になりかけている彼がやめると言い出すと判断したらしい。 「キラも、僕と一緒の方がいいよね?」 ここぞとばかりに、アスランはキラを自分の味方にしようとこう声をかけた。そうすれば、キラは可愛らしい仕草で頷いてみせる。こうなれば、アスランの勝ちだ。 「そうか。では仕方がないな。今回は、キラ君に見せると言うことが第一目的だし……」 同時に、おそらく評議会で親しい者たちに自分を紹介したかったのだろう、とアスランは心の中で呟く。いずれはそうしなければならないのだろうが、今はキラのことだけを優先したい、とアスランは思う。せめて、キラが一人で家の外に出られるようになるまでは、と。 「だが、今回だけだぞ」 パトリックも同じように考えていたのだろう。念を押すように口にした。 「わかっています。当日の、園内だけでかまいませんよ。オープニングレセプションには、キラは参加しなくていいのでしょう?」 ザラ家の嫡男としての義務は、そちらで果たせば角が立たないのではないか、とアスランはパトリックに問いかける。 「そうだな。ただ、その間、キラ君を一人にしてしまうが……」 部屋の中なら、一人で待っていられるかな? とパトリックがキラに視線を向けた。そのセリフに、アスランは思わず顔をしかめる。こう言われて、キラが同意をしないわけがないのだ。 「……多分……」 アスランの予想通り、キラはこう口にする。 「大丈夫だよ、キラ。顔さえ見せ終われば、僕か母上が直ぐに戻るから。父上は無理だろうけど」 でもいいよね、と笑いながら言ったのは、アスランのせめてもの嫌がらせだった。 「だから、一緒に行こうね。キラが好きそうなアトラクションもあるって言っていたしね」 そして、パトリックが何かを口にする前にキラに話しかける。 「……でも、アスラン、苦手だって……」 「大丈夫だよ。キラがずっと手を握っていてくれるなら」 それに、いつまでも苦手だって言っていられないだろうし……と笑えば、キラは小さく頷いて見せた。そんな彼の様子に、アスランはさらに笑みを深める。 「そういうことで決まりだね」 楽しんでこようね、とアスランが言えば、キラがようやく微笑み返してきた。 「……では、準備をするように言っておこう」 同時に、あちらへも連絡を……と言いながらパトリックが立ち上がる。 「おじさま……」 そんな彼の背に向かって、キラが口を開く。 「何かな?」 パトリックが視線を向ければ、 「ありがとうございます」 とキラがとっておきの微笑みを作る。それに、パトリックだけではなくアスランも思わず見とれてしまった。 まだ本調子ではないですね、キラ……というわけで、アスランはちょっと不機嫌かもしれません(^_^; |