「……僕、このままオーブに行っちゃだめだよね……」
 キラがことあるごとにこう言い始めたのは、これから起こるであろう騒動を予想してのことだろうか。
 もっとも、そのおかげでキラが部屋から――顔見知りしか使わないパイロット控え室とは言え――出てこられるようになったのだからよかったのかもしれないが、とは思う。思うのだが……
「本当に父上は……」
 とんでもない爆弾発言をしてくれたものだ……とアスランはため息をついてしまう。しかし、キラの希望でも叶えてやれないこともまた事実だ。
「……ともかく、諦めてくれ、キラ」
 キラと気軽に連絡が取れなくなる状況だけは避けたい、とアスランは思う。いや、そう思っているのは彼だけではない。
「そうですよ、キラさん。ようやく帰ってきてくれたのに、またどこかに行ってしまわれるなんて我慢できません!」
 ニコルが身を乗り出すようにしてこう主張する。
「そうだな。本国にいれば安心できるが……オーブでは不安で任務に身が入らないかもしれない」
 イザークはいつもの口調でこう告げた。他人が耳にすれば脅迫とも思える内容だが、なれているキラ達は気にする様子も見せない。
「っていうか、キラの顔が見れれば、すさんだ心が癒されるからさ。いつでも連絡が取れる場所にいて欲しいって言うのが本音なんだけど?」
 さらにディアッカまでこう言えば、キラは困ったような表情になる。
「……そうなんだけど……本国に行けば、僕一人なんだよ? アイリーン様とラクスの舌戦に、おじさまが頼りになると思う?」
 最悪、それにルイーズやエザリアまで参戦するのは目に見えているのだ、とキラは言外に主張した。その瞬間、思わず視線をそらしたのはそのエザリアの一人息子である。
「母上は……キラのこととなると時々理性が行方不明になるからな」
 息子としての愛情なのか。イザークは控えめな表現でこう付け加える。それを耳にしたアスラン達が『時々ではなくいつもだろう』と心の中で呟いたのは事実だ。もっとも、それを本人に告げないだけの配慮は彼らにもある。
「まぁ……父上にしても五十歩百歩だし……」
 それでも、キラ自身には危害が加えられないことは間違いない。誰かが何かをしようとすれば、彼らは一丸となってキラを守ることは分かり切っているのだ。
「何より、キラがオーブに行けば、もれなく父上達も着いていくぞ」
 そうなれば、本国のあれこれが滞る……とアスランはため息混じりに指摘をする。
「……いくら何でも、そこまでは……」
 しないんじゃないかな……とキラは不安に呟く。その瞬間、アスランだけではなく他の三人も一斉に首を横に振って見せた。
「お前がヘリオポリスに行っていた間、大変だったんだぞ」
 いろいろな意味で……と付け加えれば、キラはますます困ったように眉をハの字にしてしまった。
「オーブも本国も駄目なら、ここに残留すればいいんじゃないのか?」
 そんな彼らの耳に、お気楽とも言えるラスティの声が届く。
「ラスティ!」
「キラは第一世代だ、と言っただろうが!」
 そんな彼に対し、即座に非難と抗議の声が投げつけられる。
「……別にザフトに入隊しろっていうわけじゃないって……単に、いてくれると嬉しいかなって思っただけなんだけど……」
 そうすれば、みんなの志気も上がるし、お前らだって万々歳だろう? と言う提案に、アスランは一瞬頷きかけてしまう。もっとも、即座にそんな自分の行動を押しとどめたが。
「キラに戦場暮らしは無理だ」
 そして、こう言い切る。
「アスラン?」
 キラが驚いたような表情を作った。
「どうしてだ? 俺達が守ってやればいいだけのことだろう?」
 ラスティもまた不審そうな表情で聞き返してくる。
「キラ自身の身柄はな」
 そんな彼に対し、ため息混じりにイザークがアスランに味方をするような口調で言葉を口にする。その事実に、ラスティの表情はさらに信じられない、と言うものへと変化してしまった。
「ラスティはキラさんと出逢ったばかりだから、仕方がないのでしょうけど」
 さらに、ニコルが意味ありげな口調でこう言ってくる。
「おっ……おい……」
 さすが普段は決して仲がいいとは言えない彼らのこの様子に恐怖を覚えたのだろうか。ラスティが一番人当たりが良さそうなディアッカへと助けを求めた。
「それに関しては俺も同意見だな。キラは、自分の目の前で誰かが傷つくことに耐えられる性格じゃない。もちろん、俺達は死ぬつもりはないが……他の連中もそうだ、とは言い切れないからな」
 そして、そんなことになれば、キラが傷つくに決まっている……とディアッカはラスティに説明してやる。
 彼の言葉を聞きながら、キラが複雑な表情を作っているのがアスランから見えた。
「何、キラ?」
 どうかした? とアスランが問いかければ、
「僕って、みんなからそう思われていたのかって思っただけ」
 と苦笑混じりに言葉を返してくる。
「いいんだよ、キラはそれで……でないと、困るからね」
 みんながみんな、自分やイザークみたいであれば争いが絶えないだろうし……とアスランは苦笑混じりに口にした。
「それに、そう言うキラだから大好きなんだよ、俺は」
 さりげなくアスランが付け加えた言葉に、キラは頬を真っ赤に染める。
「……アスラン……」
 そして、何と言えばいいのかわからない……というように彼の顔を見つめてきた。そんなキラにアスランは極上の笑みを返す。
「アスラン……抜け駆けは卑怯ですよ?」
「俺達だって、今のキラが気に入っているんだ」
「悩むことはない。お前はお前だからいいんだ」
 他のメンバーにまでこう言われては、キラとしても頷かないわけにはいかない。
「それにな……ブリッジ要員のためにも一度は本国に戻って貰わないとまずいんだって」
 一体どこから話を聞いていたのか。ミゲルまでが参戦してきた。
「何でまた……」
 しかも、キラとほとんど関わり合いがないブリッジ要員が……とアスランは彼に問いかける。
「ほぼ1時間おきに、本国から通信が入るんだよ。それも、最高評議会議員の皆様方から個別にな」
 キラの様子を確認するために……とミゲルは苦笑混じりに説明の言葉を口にした。
「まぁ、ラクス嬢も顔を出すから、ファンの連中は喜んでいるが……そろそろ任務に支障を来しそうなんだよ」
 こうなれば、原因を彼らの前に差し出すしかないだろうとミゲルが付け加えた瞬間だ。キラの表情がこわばる。そして、その目尻には涙が浮かんできた。
「やっぱり……僕、父さんと母さんの所に……」
 行きたいとその表情のままアスランに訴えてくる。その様子はまさに捨てられた子犬のようだ。
「……諦めろ……オーブまで巻き込むつもりか」
 下手をすれば国交問題だぞ……と心を鬼にしてアスランは口にする。
「……僕……」
 これなら、好かれなくてもよかったかもしれない……と呟くキラに罪はないだろう。誰もが彼を慰めるにはどうしたらいいのかと頭を悩ませ始めた。



キャラクターねつ造中……身けるはともかく、ラスティなんてCD以外の資料がないんですもの……