「ごめん……もうおなかいっぱいだから……」
 キラは本当にすまなそうな表情と共にスプーンをおいた。その皿の上に残された物を見て、ニコルが微かに眉を寄せている。その事実に、キラはますます申し訳なさそうな表情になってしまう。
「ニコル……無理矢理食べさせても体に悪いだろう? 少なくとも、昨日よりは食べているんだ。妥協してやれ」
 そんなニコルに向かってディアッカがこう言ってくれる。そんな彼にキラは感謝の瞳を向けてしまった。
「わかりました。では、今日はここで妥協をすると言うことで……明日は、僕と一緒に食堂でご飯を食べてくださいね」
 それで妥協をしますと言われた内容がとんでもないことだったのはキラの気のせいだろうか。
「お前……それは抜け駆けだろう! 第一、そんなことをしたら、外野がうるさいだろうが」
 それこそ、キラの食欲がなくなるかもしれないぞ……とイザークがニコルを睨み付ける。
「いや……ちょっと周囲を牽制しておこうかな、と……それに、うるさい人もいますから」
 困ったことに、とニコルが言えば、他の二人は何か思い当たる節があったらしい。小さくため息をついている。
「……どうかしたの?」
 そんな彼らの態度に不安を覚えて、キラがこう問いかけたときだ。端末が呼び出し音を響かせる。
「……誰だ?」
 キラを気にしてか、アスランを呼び出すにしても端末を使うことはなかったはず。それなのに……とイザークが呟く。キラにしても、こうして電子音が鳴り響く状況はいやだ、と思う。今は呼び出しのためのものだが、ここが戦艦である以上、出撃のための物が鳴り響く可能性だってあるのだ。それは、アスラン達が危険の中へと飛び込んでいく、と言うことと同意語だろう。自分の目の前でなければ耐えられるかもしれないその事実もこの場ではいやだ、とキラは思ってしまう。それが自分のワガママだとわかっていてもだ。
「ともかく、誰か応対した方がいいでしょうね。でないと、キラさんの不安がいつまで経っても解消されませんし」
 こうは言うものの、ニコルはキラの前から移動しようとはしない。キラの隣に座っているイザークも同様だ。
「……俺に出ろ、って言いたいわけね、お前らは」
 こうなれば、動くのは当然ディアッカの仕事だろう。彼は小さくため息をつくと端末の前へと移動をした。そして手を伸ばすと操作をする。
「アスラン?」
 だが、すぐに彼の口から驚きの声があがった。
「え? アスラン?」
 どうしたの、と言いながら、キラは慌てて端末へと近づいていく。そして、モニターの中のアスランを見つめた。
『慌てなくていいよ、キラ……父上が職権乱用をしたい、って言っているだけだから』
 いやなら断ってもかまわない、とアスランは付け加える。
「おじさまが? どうして?」
 お忙しいでしょう……とキラは小首をかしげて見せた。
『キラの無事を確認しないとミスをしそうだ……と思っておいでなんだよ、父上は。それに、ルイーズ様達も気にかけていらっしゃるんだし。聞かれたんじゃないのかな?』
 だから、それについては気にしなくていい……とアスランは言葉を返してくる。もちろん、断ってもかまわないよ、とも。
「……おじさまのお仕事のお邪魔にならないなら……かまわないけど……謝らなきゃないこともあるし……」
 自分を信頼して送り出してくれたのに、心配をかけただけかそれを裏切るような真似までしてしまったのだから、キラは心の中で付け加える。それについて、何を言われても反論のしようがないほどだ、と。
『……キラ……また馬鹿なことを考えているな……』
 そんなキラの考えを読んだのだろうか。アスランが盛大にため息をついてみせる。
『まぁいい。それについては、みんなと一緒にゆっくり話し合おう。それよりも、こっちに来られる?』
 それとも回線をそちらに回そうか? とアスランはさりげなく話題を変えようとしてきた。
「……そっちに行った方がいいんだよね」
 いろいろと……とキラはアスランに問いかける。
『無理をしなくてもいいけど……来るなら、誰かに着いてきて貰うんだぞ。一人で移動しようとして迷子になったら困るからね』
 くすりと笑ってアスランはこんなセリフを返してきた。
「アスラン!」
「確かにそうだな。この中は結構複雑だし……探す時間を考えれば一緒に行った方が安全か」
 キラがアスランに文句を言う前に、ディアッカが脇から口を挟んでくる。
「そうですね。その方がいいでしょう。僕もおつき合いしますから」
「途中までなら俺も行けるな」
 その上ニコルとイザークにまでこう言われては、反論することすら難しいだろう。
「……過保護……」
 せめてもの抗議の印としてこう呟くのが精一杯だった。



短い(T_T)
しかし、キリがいい場所がここまでだったので……次回はもう少し長いです(^_^;