数分も経たないうちにイザーク達が部屋へとやってきた。
 いや、彼らだけではない。
 キラがあったことがないメンバーもいる。軍艦で、しかもアスランの仲間達なのだから仕方がない、と思っては見ても、キラはこの事実に思わず彼にすがりついてしまった。
「……ミゲルやラスティはともかく、隊長までとは……」
 ずらりと顔をそろえたメンバーを見て、アスランがキラの背中を抱きながら呆れたようにこう言う。
「せめて、隊長以外の二人はシャットアウトできなかったのか?」
 アスランが比較的近いところにいるディアッカにこう囁く。
「悪い……そのつもりだったんだが……先手を打たれていた……」
 クルーゼに許可を取り付けていたのだ、とディアッカがため息と共に告げた。
「なぁ……そいつ、どうしたんだ?」
 顔に包帯を巻き、左腕をつったままの姿でラスティがキラの顔を覗き込もうとする。その瞬間、キラはアスランにすがりつく腕の力を強めてしまう。
「ラスティ! キラは人見知りが激しいんだ。驚かさないでやってくれ」
 そんなキラを自分の全身でラスティたちの視線から隠すようにしながらアスランが言葉を口にした。
「そうですよ。早く離れてください!」
 キラさんが怖がっているでしょう、とニコルも叫ぶ。だけではなく、もし退かなければ蹴り飛ばすぐらいしそうな勢いでキラ達とラスティの間に割って入った。
「そいつはようやく目覚めたが、まだ落ち着いているわけでも何でもない。少しは遠慮しろ」
 さらに普段はアスランと反発ばかりしているイザークにまでこう言われて、ラスティは目を丸くしてしまう。
「そこまでだ、皆」
 様子を観察していたのか。それとも、口を挟む隙を見つけられなかったのか。今まで口を開かなかったクルーゼが言葉を発する。それだけでこの場の雰囲気が一変した。
「キラ君だったね。君のことを考えずにこのような行動に出たことは許して欲しい。ただ、ザラ国防委員長から君の様子を知らせて欲しいと要請があったのでね。私としても、本国までの間とはいえ共に過ごす以上は挨拶だけはさせて貰おうと思ったのだよ」
 彼らにしても、顔を合わせる機会が多いだろうしね、とクルーゼが口元に優しげな笑みを浮かべながら告げてきた。
「……はい……申し訳、ありません……」
 まだアスランにすがりついたまま、キラはそれでも彼にこう言い返す。
「無理をしなくてもいいんだぞ。隊長はともかく、こいつらのことは気にしなくていい」
 別段、顔を合わせたくなければそうできるようにしてやるから、とディアッカがキラのを場に寄ってきた。
「今回は隊長命令だったから連れてきたが、でなければ、拒否してやるからさ」
 ディアッカもキラに向かってこう言ってくる。
「キラさんが倒れられる方が大変ですしね」
 ラクスさんにばれればさらに厄介なことになる……とニコルが真顔で付け加えた瞬間、アスラン達は小さくため息をつく。
「……歌姫がどうかしたのか?」
 どうやら彼女のファンらしい――と言ってもばれていないと思っているのは本人だけだ――ラスティが反射的に言葉を投げかけてきた。
「キラさんをお好きなんですよ、ラクスさん。僕たちの中であの方に対抗できるのはアスランだけです」
 いじめるとものすごい報復が降りかかってきますからね……と言う言葉は彼に対する牽制なのだろうか。それとも、とキラは小首をかしげる。
「覚悟しておくんだな、キラ」
 そんなキラの仕草に気がついたのだろう。アスランが苦笑と共に囁いてきた。
「お前と連絡が取れなくなってから、ラクスもものすごく心配していたからな。本国に戻ったら、当分側から放してもらえないと思え」
 本当であればそんなことはさせたくないが、自分たちは戦場にいる以上、仕方がないとため息と共に付け加える。その言葉を耳にした瞬間、キラは眉をひそめた。
「お前は……気にすることはない。本国で安全な場所にいてくれれば、それだけでいいんだ」
 それに気づいたのだろう。アスランは即座にこう声をかける。
「ラクスも心細がっているからな。それに、父上もキラが側にいてくれた方がいい」
「……おじさま達、ご無事なの?」
 アスランの言葉に、キラは思わずこう聞き返してしまう。その瞬間、アスランがしまったというような表情を作る。それはキラの疑念が確信に代わるには十分なものだった。
 やはり、彼女はあの場にいたのだろう。
 そして……
「キラ……」
 とっさにアスランの腕がキラの体を抱きしめてくる。
「今は……今は、俺達のこと以外は何も考えなくていい……そして、まずは体調を戻すんだ」
 パトリック達には通信で連絡が取れるから……とアスランは付け加えた。
「……そうしたら、教えてくれるの?」
 キラは震える声でこう問いかける。
「……キラの様子を見てからね……たくさんの人が死んだから……」
 知り合いもたくさんいる……とだけアスランは囁いてきた。
「そうですね。その方がいいですよ」
「お前に倒れられれば、俺達が安心できないからな」
 アスランの言葉に、ニコルとイザークも同意を見せる。いや、キラからは見えないが、ディアッカも同じように頷いているだろう。
「……言っちゃ悪いが……過保護?」
 ミゲルの言葉がキラの耳に届く。その瞬間、キラがアスランの腕の中で体をこわばらせればそんなことはないと言うようにアスランが背を優しく叩いてくれる。
「キラはお前と違って繊細なんだ! 人が死ぬことに耐えられない……」
 だからこそ、できれば戦争には関わらせたくなかったのだ、とイザークは付け加えた。そして、それは地球軍が愚行を起こさなければ叶えられたはずなのだ、とミゲルを睨み付けている。
「キラ君は、幼い頃に降りかかってきた事件の影響でトラウマを持っているのだそうだ。アスラン達が心配しているのは、それが再発しないかどうか、と言うことなのではないか?」
 ミゲルをたしなめるかのようにクルーゼが口を開く。
 彼の言葉にアスランが即座に首を縦に振って見せた。その状態にいたキラを一番よく知っているのが彼なのだ。その時のことを思い出せば、キラは本当に彼に迷惑をかけていたと思う。そして、これからさらに迷惑をかけてしまうのではないか、とも……
「それは……知らなかったとは言え、申し訳ないことを言ったな」
 そんなキラの様子に気づかないのだろう。ミゲルはあっさりと謝罪の言葉を口にする。
「さっき、余計な戦闘に巻き込んでしまったのは事実だからな」
 本来であれば、キラが巻き込まれるはずではなかったのではないか、とミゲルは付け加ええた。地球軍があそこでMSさえ開発していなければ……と、ここまでミゲルが口にしたときのことだ。アスランの腕の中で、キラは今までとは違った意味で体を震わせる。
「キラ?」
 どうしたんだ、とアスランがキラの顔を覗き込んできた。その翡翠の瞳に映る自分の姿を見て、キラは恐怖すら感じてしまう。
「……僕は……」
 知らなかったとは言え、あれらのOSを作ったのは自分だ、とキラは口にする。カトーがモルゲンレーテからそれを引き受け、ゼミの一員であったキラにデーターの解析だといって任せたのだと。
「僕が、みんなを危険に巻き込んだの?」
 キラはこの呟きと共にアスランの腕の中で意識が遠くなっていくのを感じていた。
「キラ!」
 崩れ落ちていくキラに、アスラン達が驚きの声を上げる。それすらも、キラの意識を引き留めることはできなかった……



ストライクの中で何があったのかの答えがこれです。