アスラン達は、誰にも知られないようにヘリオポリスへと侵入を果たしていた。後数分で、ヴェサリウスとガモフが陽動をしかけてくるだろう。
「……ともかく、民間人の被害は最低限に抑えるんだ……」
 その中に、キラがいないとも限らないのだから……とアスランが告げれば、他の3人も頷き返してくる。
「わかっている。キラ自身がいなくても、あいつは知人が巻き込まれる可能性もある。万が一、気に入らないナチュラルでも、そう言う奴らが傷つけば、あいつは嘆くだろうし」
 それで嫌われるのはごめんだからな……とイザークも頷いた。
「……いつもこうだと楽なのにな……」
 本当に、と二人の間に挟まれる格好になるディアッカがため息をつく。
「キラさんが関わらなければ、無理ですよ」
 だから、彼にはなんとしても無事でいて貰わなければならないのだ、とニコルが口にする。二人のためだけではなく自分たちのためにも、と。
「だな」
 自分たちにとっても、彼の微笑みは失うことができないものだから、と二人も頷きあう。
「見かけ次第、拉致る、と……連れて帰るのが一番無難だからな」
 自分たちがいつでも守れる状況に置くことが、といいながら、ディアッカが行動を開始する。
「と言っても、僕たちの誰が欠けてもキラさんに衝撃を与えることは事実ですからね」
 無様でもいいから、生き残ることを考えよう……とニコルも動き出す。
「……お前らにそうまで言わせる奴、会ってみたいよな」
 紅をまとっているメンバーの中で、唯一、キラとの面識がないラスティが苦笑を浮かべながらアスランに声をかけてきた。
「会えば気に入るだろうが……だからといって、そう簡単に仲良くなれると思うなよ? あいつは人一倍人見知りが激しい」
 知らない人間相手では緊張と気遣いで倒れることすらある……とアスランは言い返す。
「自然に笑いかけて貰うまでにかなり時間がかかりましたしね」
 だから、そう簡単に微笑んで貰えるなよ、とニコルも微笑みと共にアスランに付け加えた。
「……これは……牽制されているのか、俺は……」
 ぼそっとラスティが呟く。
「まぁ、そう言うことだな」
 ぽんっと、彼の肩を叩きながらディアッカが苦笑を向ける。
「だがな……ここにラクス嬢がいないだけマシだぞ」
 彼女がいればこんなものではすまない、とささやかながら忠告も付け加えてやった。
「……そう言う奴なわけね……了解……」
 要注意人物だな、それは……とため息をつく。
「だからといって、特別扱いするなよ。本人がいやがる」
 アスランが爆弾をしかけながらこんなセリフを口にした。
「あいつは、自分を自分自身として見て欲しいと思っているしな。人見知りが激しいのは、ある事件の影響があるせいだ」
 あれでかなり精神的に負担がかかったんだ、とアスランは事態をぼやかしつつ説明をする。
「ついでに、俺の家族で甘やかしまくったからな」
 セットが終わったぞ、と付け加えながら、アスランが立ち上がった。同時に、ニコルも立ち上がる。
「あれは甘やかす、と言うよりは過保護と言った方が正しいのではありませんか?」
 まぁ、僕もラクスさんも同じ状況でしたから文句は言いませんが……とニコルがアスランに言い返した。キラを見ていれば、その気持ちもわからなくはないから、と。
「……と言うことだ……キラさえ味方につければ、こちらの被害は最小限ですむぞ」
 ぼそっとイザークが呟く。その声の大きさは、少なくともニコルに聞こえない程度に抑えられている。それだけで、ラスティもなんの被害についてなのかわかったようだ。
「……お前らが無事に《キラ》を保護してくれることを期待するよ、マジで」
 そうすれば、絶対、隊の中が平穏になる……とラスティが呟く。その言葉は、ミゲルがぼやいたのと同じセリフだ、と本人は知らないだろう。
「そう願うよ、俺も。お前とは理由が違うがな」
 しっかりと話を聞いていたぞ、と言外に滲ませながらアスランがミゲルに声をかけてくる。その瞬間、ラスティの額に冷や汗が浮かんだような気がしたのは気のせいだろうか。
「と言う話は終わりにして……時間だが、準備はいいな?」
 緊張は十分に取れたようだが、とアスランが唇をゆがめる。その表情がラスティには逆効果だ、と、もちろん本人は自覚しているだろう。当然、ニコル達にも伝わっているはずだ。しかし、それに対する注意がイザークの口からでない、と言うことは、彼らもアスランの行動を許容している、と言うことなのだろう。
「……ともかく、貰うもん貰って、さっさと帰還しようぜ」
 そうしてしまえば、これ以上彼らから牽制を受けなくてすむのではないだろうか。あるいは、ミゲルあたりが――話題の本人をほどできれば彼が――仲裁に入ってくれるとかするのではないかとラスティは思う。そうすれば、これ以上の恐怖を感じなくてすむだろう、とも。
「そうだな」
 アスランは時計を見ながら頷く。
 その時だ。
 外部から爆発によるものらしい震動が伝わってきた。
「始まったな」
 誰と言うことなく、呟きが漏れる。
 そのまま視線を合わせると、頷きあう。
「行くぞ!」
 アスランが言葉と共にセットした爆薬を爆発させた。この程度のものであれば、外のそれに紛れてしまうだろう。だから、自分たちがここから侵入したことはばれないはずだ。
 背中につけたバーニアをふかすと、アスラン達は次々と内部へと飛び込んでいく。そして、そのまま目的の工場へ向けて移動する。
 彼らの目に、横たえられた機体が飛び込んできた。それに、本当に完成させていたのか、と誰もが驚きを隠せない。しかも、その独特のフォルムからそれぞれが違う目的のために作られたのだろうと推測できる。
「運べない部品と工場施設は全て破壊だ!」
 イザークが周囲の者へと指示を出す。
「報告では5機あるはずだが……後の2機はまだなかか?」
 あれは1機も地球軍の手に残すわけにはいかないのだ、とイザークが言外に告げてきた。
「俺とラスティの班で行く。イザーク達はそっちの3機を!」
 アスランがこう叫ぶと共にラスティへと合図を送る。そうすれば、彼も同意を返してくる。
「OK、任せよう! やられるなよ!」
 キラのためにも……と言う言葉の裏に隠されている意味に、アスランはしっかりと気がつく。もし、彼を保護することができれば、その時は衝撃的な事実を告げなければならないのだ。その場に自分がいなければ、キラがどうなるか……アスラン出なくても想像がつくというものだろう。
「わかっている」
 お前達もな……とアスランは言葉を返した。
 そして、そのまま工場の中へと飛び込んでいく。
 激しい銃弾の嵐の中、目的の機体らしきものが見える。
 アスランは、手にしていた銃を握り直した……

 カトーの客だ、と言う少女を追いかけてキラが見たのは、データーだけだと思っていた機体が完成した姿だった。
「……これって……」
 しかも、それを挟んで戦っているのはオーブの者たちではない。
「地球軍の新型機動兵器……お父様の、裏切り者!」
 少女の叫びが、何故かキラの心に突き刺さった……



かなり改変中……次回はとうとう再会です。