キラ達の願いとは反して、戦況はどんどん悪化していく。 そのせいだろうか。 今までは簡単に侵入することができた場所もかなりセキュリティが厳しくなっていた。 「……でも、何とかしないと……」 両親達ではないか、と思って目星をつけていた人たちも、どうやら移動をさせられているらしい。せっかく見つけたのに見失ってしまった事実が悔しい、と思いながら、キラは彼らの居場所を懸命にさがしつづけていた。 いや、そうしなければ日常生活を送ることすら難しい、と言う方が正しいのかもしれない。 こうして動いている間は、それ以外に意識を向けずにすむのだ。 ひょっとしたら、この戦争で顔見知りの誰かが死んでしまっているかもしれない。 ひょっとしたら、あの事件で大切な誰かが死んでいたかもしれない…… ひょっとしたら…… 「……駄目だ、考えちゃ……」 そうすれば、今必死に押さえつけているドアが開いてしまうだろう。 その奧には、キラがあの日からずっと目をそらしてきた《恐怖》が生息している。それが、今、どれほど成長しているか、キラ自身にもわからないのだ。 ただ、これだけは知っている。 それが表に出てきた場合、間違いなく《キラ》はそれにの見込まれてしまうだろう。最悪の場合、自我すらも残らないのではないか、と…… 「アスランが、悲しむ」 あの時ですら、自分の言動に対して一喜一憂していた幼なじみの姿をキラは明確に思い出すことができる。そして、今そんな状況になってしまえば、彼もまた後を追いかけてくるのではないだろうか。 「……アスラン……」 自分の中で、彼の存在が大きな位置を占めている。それに気がついたのは、あの事件以降だ。一緒にいた頃は全く気にしたこともなかったのに……とキラは心の中に彼の面影を描きながらその名を口にした。 ノックと共にドアが開かれる。 「キラ君……食事にしましょう?」 そして、こんな言葉がキラの耳に届いた。その瞬間、キラの意識は《日常》へと引き戻される。 「……僕は……」 今は食欲はない……と、キラは言いかける。 「相談しなければならないこともあるの……マルキオ様から連絡が入ったわ」 そのことで、キラを交えて三人で話し合いをしたいのだ……と彼女が伝えてきた。 「わかりました」 食事よりもそちらの方が重要なのだろう……とキラは判断をする。マルキオが連絡をしてきたのであればなおさらだ。 「でも、軽いものだけでいいです、僕は……」 たくさんは食べられない、とキラはしっかりと主張しておく。でなければ、彼女はそれ子をキラに食べさせようと山のように彼の皿に料理を盛ってくれるのだ。 「……残念……今日こそはしっかりと食べて貰おうと思っていたのに……」 ぼそっと呟かれた言葉を耳にした瞬間、キラは口にしておいてよかった……と本気で思ってしまう。でなければ、食べきれない分をどうすればいいのかわからずに、固まっていたところだ。 「でも、無理に食べても逆効果だものね」 仕方がないわね、と彼女はため息をつく。 「そう思って頂ければ嬉しいです……」 こう口にしながら、キラは今まで立ち上げていたツールを全て終了させた。 これで、彼以外の人間がプログラムを立ち上げようとしてもパスワードを知らなければ不可能だと言っていい。この家の中に誰かが侵入してくるとは思えないが、念には念を入れておく、と言う癖が完全に身に付いてしまっている。 ヘリオポリスに来る前はそんなことなかったのにな……と思いながら、キラは作業を終えた。そして、そのまま立ち上がる。 「……本当、やせたわね……」 身長が伸びたせいもあるだろう。しかし、それ以上に戦争が始まってからの心労のせいで食欲が落ちたのがキラがやせた理由だ。 その事実を、彼女が気に病んでいることもキラは知っている。 しかし、戦争が続く限り、このままだろうという予感もあった。 あるいは、それがマルキオの耳に届いたのかもしれない……と思いながら、キラは彼女の後を付いて部屋から出る。 そのままリビングへ行けば、久々に彼女の旦那の顔を見ることができた。 「お仕事の方はよろしいのですか?」 キラは笑顔を作りながら彼に問いかける。 「今日はね。仕事のしすぎだ……と言うことで追い返されてしまったよ」 そう言えば、彼は苦笑と共にこう言い返してきた。もちろん、言葉通り受け止めるべきではない、とキラは思っている。逆に言えば、それだけ重要なことなのだろうと。 「そうですか」 苦笑を浮かべながらもキラは自分の席へと腰を下ろす。そうすれば、即座に彼の前にクリームシチューが盛られた皿が置かれた。その次には彼の前に、最後に自分の前へと置いて彼女も腰を下ろす。 「……あの……」 「そのくらいはがんばって食べてね。お願いだから」 キラが『減らして欲しい』、と言うよりも早く彼女は微笑みと共にこう告げる。 「それでも少ない、と思うんだが……」 その上、彼にまでこう言われてはキラに反論をする余地は残されていない、と言うことだ。仕方がない、と言うようにキラはため息をついてしまう。 「……と言うことはこれまでにしておいて……早々に本題に入ろうか」 その方が良さそうだ……と彼が言えば、 「駄目よ。食べ終わってからにして」 と即座に反論が返る。 「でないと、ますます食欲がなくなるわよ、この子」 話が終わった瞬間、食べたくないと言われるのは困る……と言う言葉に、キラは苦笑を浮かべてしまう。自分にしても、そうなる可能性は否定できないのだ。 「……仕方がないな。それ以上細くなられては、私がマルキオ様に怒られるか」 しかし、ここまで自分の食欲が重要事項なのだろうか、とキラは悩んでしまう。 「別に話ながらでもかまいませんが」 時間がないのではないか……と思いつつ、キラは言葉を口にした。 「駄目。食べるときには食べることに集中して」 でなければ駄目よ、と告げる口調には逆らうことを許さないという響きがある。 「……キラ君……まずは皿を空にしてしまおう……」 それでなければ、何もできない……と彼が苦笑混じりに声をかけてきた。自分よりも長く彼女の付き合っている彼がそう言うのであればそうなのだろう……とキラは判断をする。 「……仕方がないですね……」 小さくため息をつくと、キラはスプーンを握りしめた。 キラの側にいる人たちは皆、過保護になる運命のようです、家のサイトでは(^_^; |