「見つけた!」 キラがようやく目的のものに関わるデーターに辿り着き、喜びに包まれたときだった。 「キラ君! 大変よ!」 そこにこう叫びながら彼女が飛び込んでくる。 「……どうかしたのですか?」 視線を向けた瞬間、キラは表情をこわばらせた。普段あまり取り乱すことはない彼女なのに、今は顔面が蒼白だ。それほどのショックを彼女に与えるとは一体どれほどのことが起きたのだろう、とも思う。 「いいから、来て!」 説明するよりもそちらの方が早い、と言う言葉にキラは渋々ながら立ち上がった。できれば、もう少し詳しく確認をしたかった……というのがその理由だ。 不安と怒りとためらいが綯い交ぜになった表情のまま、キラは彼女の後に続いてリビングへと移動をする。 壁一面に取り付けられたモニター。 それが、ある光景を映し出している。 「……なに……」 見慣れている、と言ってもいいその光景。 それなのに、何かが違う。違和感を感じる原因は何なのか……とキラが確認しようとしたときだ。 『地球軍の核攻撃により、ユニウスセブンは……』 モニターの脇につけられたスピーカーから、驚愕を隠すことができないらしいアナウンサーの言葉が響いてくる。 「……ユニウスセブン……レノアおばさま!」 彼女はあそこで仕事をしていることが多い。それは、キラ達が成人して手がかからなくなったからだ。元々仕事が好きな彼女だから、それは当然だとキラも思っていた。しかし、まさか……という思いがキラの中に膨れあがる。 「何とかして、確認しないと……」 ふらふらとキラは端末へと歩み寄っていく。そして、そのままプラントへと連絡を取ろうとした。 「無理なの……」 そんなキラの背に彼女の声が届く。 「……無理?」 何が、とキラは感情がどこかに行ってしまったような声で聞き返す。 「プラントどころか、オーブ本国にも連絡が取れないわ。どうやら、地球軍が自分たちの行動を悟られないようにジャマー粒子をばらまいたようなの。それがどうにかなるまで、私達はどこにも連絡を取れないわ」 マルキオにも連絡が取れなかったのだ、と彼女はため息と共に教えてくれた。 「……そんな……」 せっかく両親の手がかりを掴んだのに、レノアがいなくなっては意味がないのではないだろうか。キラと同じくらい両親に会いたいと思っていたはずなのだ、レノアは。 「おばさま……」 まさに崩れ落ちるように、キラは膝をつく。 「……アスランやおじさまも……」 この光景を見ているのだろうか。そして、自分と同じように――いや、それ以上に――衝撃を受けているのだろうか、とキラは呟く。 「どう、しよう……」 どうすればいいのだろう、とキラは思う。 今すぐプラントに戻るか、それとも、このままここにいるべきか。その判断もしなければならないだろう。 「……ともかく、できる限りの手段を使って情報を集めるわ。だから、貴方は今やっていることを続けなさいな。そのために、ここに来たのでしょう?」 そして、彼らもそのために送り出してくれたのでしょう……と彼女がそんなキラの肩にそうっと触れてくる。 「でなければ、今までの時間が無駄になってしまうのではなくて?」 違う? と言う言葉はもっともなものだろう。 しかし、今はそれを行う気力が出てこない。 一瞬感じた喜びすら、キラの中からかき消されてしまった。それは間違いのない事実だ。 「……戦争が、始まるのかもしれない……」 そうすれば、オーブは……自分たちはどうなのだろうか。 両親を助け出しても《ナチュラル》だと言うだけで、パトリックが二人の存在を否定をするかもしれない。 いや、それだけならばまだいいかもしれない。 プラントに住むコーディネイター達が全て、ナチュラルに対する嫌悪感を抱き始めたらどうなるのだろうか、とキラは恐怖すら覚えてしまう。 「そうすれば……今以上に溝が広がってしまうかも……」 自分たちの同胞が傷つけられれば、オーブ国籍のナチュラルだってコーディネイター排斥に動くかもしれない。そうすれば、同じ国内で戦闘が起きるかもしれない。 「……僕たちは……」 どこに行けばいいのだろうか、とキラは小さな声で呟いた。 「その答えを知っているものは、誰もいないわ……残念だけど」 自分たちですら、これからどうなっていくのか自信が持てないのだ、と彼女は口にする。 「私達は貴方をよく知っているから、貴方を嫌いになることはないと思うの。でも、他のコーディネイターに関してはどうなるか……」 偏見を持ってしまう可能性は否定できない、と正直に言ってくれる彼女は信頼できる、とキラは思う。 「でも、オーブはこれからも表向きは中立を保つはずだわ。だから、戦争になっても攻撃を受けることはない。だから、それほどひどいことにはならないはずよ。マルキオ様だって動かれるはずだもの」 だから、最悪のことにはならないはずだ、と彼女は微笑んでくれる。誰よりも、キラがそう信じていなければ駄目なのだ、とも。 それが、自分を気遣ってくれているからこそ出た言葉なのだろう、とはキラにもわかっている。そして、彼女の言葉通り、マルキオがいれば最悪の事態だけは避けられるだろう。 「……そう、ですね……マルキオさまがいらっしゃれば、オーブとプラントは最悪のことにはならないですよね」 彼女の言葉に頷く、と言うよりは自分に言い聞かせるようにキラはこう口にした。 「そうよ。マルキオ様なら、きっと何とかしてくださるわ」 だから、自分がしなければならないことをしょう。こう囁かれて、キラは頷く。 「……まずは、情報集めですね」 両親のことだけではなくその他のことも。そう言えば、彼女も頷いて見せた。 「そう。何をするにしても情報が少なければ正しい判断はできないわね。だから、少しでも多くの情報を集めましょう」 と言っても、キラの才能をあてにすることになってしまうけど……と彼女は微苦笑を浮かべる。 「それはかまいません。僕に出来ることはそれですし……その代わり、あれこれフォローして頂かなければなりませんが」 「それこそ、それが私の仕事でしょう? 体調さえ崩さなければ、大概のことはフォローしてあげられるわ。だから、任せておいて」 ちゃんとご飯も食べさせてあげるから、と笑いながら付け加えられた言葉に、キラは思わず視線をそらしてしまう。自分でも、一番不安なことはそれだ、とわかっていたのだ。だが、それを面と向かってしてされるのは図星であるが故に辛いとも思ってしまう。 「……お手柔らかにお願いします……」 ため息と共にキラがこう言えば、彼女はわざとらしいほど明るい微笑みを作る。それはキラを安心させるのと同時に、自分を鼓舞するためなのかもしれない。 「考えておくわ」 この言葉に、キラも無理矢理微笑みを作った…… と言うわけで、《血のバレンタイン》が起こってしまいました。と言うことで、あと一息の予定なのですが…… |