表向きは、カレッジにいるカトー教授の講義を受けたくてやってきた学生。
 だが、そんな立場が心地いいかもしれない……とキラは思う。
 そして、ここでも新しい友人が何人かできた。彼らはキラがコーディネイターでも気にすることなく普通に接してくれる。だから、そう感じるのだろうか、とキラは思う。
 もちろん、アスラン達と彼らとは比べものにならない。他の学生達の中には中にはコーディネイターに対する侮蔑を隠さないものも多いのだ。だから、キラは必要最低限の相手以外には自分が《コーディネイター》だと教えないようにしていた。
「本当は、隠したくなんかないんだけどね……」
 だが、そのせいでブルーコスモに狙われるのはごめんだし……とキラは小さくため息をつく。
 その時だった。
「どうしたの、キラ?」
 キラの耳に柔らかな少女の声が届く。
「またなんか厄介事か?」
 そして、明るい少年の声。
 それが誰のものなのか、キラには確認しなくてもわかってしまう。
「ニュースを見ていたんだけどね……」
 こう言いながら、キラは彼らにモニターが見えるようにパソコンの位置を変える。
「……またブルーコスモスかよ……」
 そうすれば、ため息をと共にこう吐き出す声が聞こえた。
「コーディネイターだって、ナチュラルと同じなのにね」
 こう言ってくれる人間がどれだけいるか……と思いながら、キラは彼らへと視線を向ける。そうすれば、微妙に色調が違う茶色の髪をしたカップルの姿がキラの瞳に映し出された。
「そう言ってくれるのは、トールとミリィだけだって……」
 二人に微笑みを向ける。次の瞬間、キラはも悲しげに瞳を伏せた。
「キラ……」
「……また、カズイが何か言ったのか?」
 そのキラの表情を見て、彼らが慌てたように声をかけてくる。同時に、トールが手をキラの肩に優しく置いた。
「カズイの言葉は……深い意味を持っていないから……」
 彼の場合、周囲の言葉に流されているだけだとわかっている、とキラは言葉を返す。それでも、まだ視線をあげようとはしない。
「それが一番悪いと思うんだけど」
 自分の意見を持っていないと言うことでしょう、とミリアリアが憤りの言葉を口にした。
「いっそ、自分は嫌いだから……というなら、まだ納得できるわよ」
 こちらもそうすればこちらとしてもそれなりの対処が取れるのだ……と彼女は付け加える。
「あいつの場合は、本当に流されやすいんだよな……」
 それさえ直せばいい奴なのに、とトールも頷いているらしい。
「だから、あんまり気にするなよ、キラ」
 な、と言う言葉に、キラはようやく顔を上げた。
「本当……みんながトール達みたいならよかったのに……」
 そうすれば、絶対戦争なんて起きないのにね……とキラは微苦笑を浮かべてみせる。そうすれば、二人はお互いの顔を見つめた。
「そう言ってくれるけどさ……俺達は、キラだからこんなかもしれないぞ」
 他の奴なら違う反応をしているかもしれない、とトールが頬をかきながら呟く。
「でも、それは僕を僕としてみてくれるからでしょう? コーディネイターとかナチュラルとか、関係なく、一人の人間として。それが僕としては嬉しいんだけど」
 同じ種族でも馬が合わない人がいるのだから……とキラは言葉を口にした。そして、違うか……というように小首をかしげてみせる。
「……キラって……」
 そんなキラの様子に、ミリアリアが何か感心したというような口調で言葉を口にし始めた。だが、上手い表現が見つからないのか、言葉に詰まっている。
「ミリィ?」
「どうしたんだ?」
 その彼女の態度に、キラだけではなくトールもびっくりしたように声をかけた。
「キラって、どうしてこんなに可愛いのよ!」
 本当に……と言いながら、ミリアリアはキラを抱きしめる。
「ミリィってば!」
 ちょっと……とキラが目を白黒した。
「そういうことはトールとした方が……」
 そう言う問題ではないのではないだろうか。そうは思うのだが、キラ自身かなり焦っているらしい。訳のわからないセリフを口にしてしまう。
「だって、トールよりキラの方が可愛いんだもの!」
 ミリアリアはミリアリアで、理由にならないセリフを口にしながら、キラを抱きしめている腕にさらに力を込める。
「キラ……諦めてくれ」
 そんなキラの耳に、トールの申し訳なさそうな声が届いた。
「こうなったときのミリィは、俺でも、止められない……」
 唯一の解決方法は、ミリィが正気に戻るまで大人しく見守ることだ……と本気で申し訳ないという表情を作っている。と言うことは、これはいつものことなのだろうか。
「……でも、僕だって男、なんだよ?」
 可愛いって言われて喜べると思うか、とキラはトールに向かって言外に問いかけた。ミリアリアには何を言っても無駄だろうとわかっているから敢えて何も言わない。
「……女の子の『可愛い』にそんな区別があると思うか?」
 教授の禿頭すら可愛いと言うんだぞ……と言われてしまえば、キラにそれ以上返す言葉はないだろう。
「……でも……」
 それでも納得できないのだ、とキラはため息をつく。
 同時に、こう言ったのがアスランやイザーク、ディアッカならまだ納得できた――それとも諦めることができたと言うべきか――かもしれないとも思う。同じコーディネイターの友人の中でも、ニコルやラクスであれば、やはり複雑な思いを抱いただろうが。
「悩まなくてもいいの! キラは可愛いんだから!」
 そんなキラの言葉を耳にしていたのだろう。ミリィがきっぱりと言い切る。
「……はい、わかりました」
 彼女の勢いに押されるかのようにキラはこう言い返してしまう。
「素直なのが一番だって」
 キラの肩に手を置きながら、トールがアドバイスをくれた。しかし、それがどうしてか『ミリアリアには逆らうな』と聞こえたような気がするのはキラの気のせいだろうか。
「と言うわけで、一緒にご飯を食べに行きましょう?」
「終わったら、今日、出されたレポートについて相談に乗ってくれ」
 その話題はもう終わり、と言うように二人は口々にこう言ってくる。
「それが最初の目的だったわけ?」
 ミリアリアが離れてくれたことで同じように話題を変えた。
「だってさ……キラの説明の方が教授のよりもわかりやすいんだし……」
 俺って、理解するまでに時間がかかるんだって……というトールにキラは笑みを向ける。
「でも、その代わりトールは理解してからの応用が凄いと思うよ」
 彼にこう言いながら、キラは腰を上げた。
「特に駆動系の開発に関しては、僕よりも凄いじゃない」
 だから、自信を持っていい……というセリフを口にしながら、キラはこれはアスランがよく自分に言ってくれたものと同じだ、と思う。
「ご飯、行こうか」
 そして、早く彼の側に戻りたいとも。それを態度に表すことなく、キラは友人達と共に歩き出した。



やはり出てくるこのメンバー……と言うことでミリアリアとトールのカップルです。彼らが出てこないと書きにくいという話は否定しません(^_^;