「おじさま……お話があります」 こう言いながらキラが歩み寄ってくる。 「今、お時間、よろしいでしょうか?」 その瞳に、何やら決意の色を認めてパトリックは表情を引き締めた。 「かまわないよ」 どうかしたのかな……と問いかければ、キラはまっすぐに彼の瞳を見つめてくる。 「……まずは、これを見ていただけますか?」 そう言いながら、キラは彼に向かってデーターカードを差し出してきた。どうやら、これが関係しているらしい……とパトリックは判断をする。黙って受け取ると、パトリックは手元のカードリーダーへとそれを差し込む。 いくつかキーを操作して、モニターへとその中身を表示させた瞬間、彼の眉が寄った。 「……これは……」 一体どこから……とパトリックはキラに問いかける。もっとも、視線はモニターから放せなかったが。 「地球軍の……マザーからです」 ハッキングしたときに見つけました、とキラは正直に告げる。その内容はもちろん、キラの実力に改めて感心させられた。 「それで……公式にこれについて地球連合を糾弾して欲しいのかな?」 それと、オーブの上層部を……とパトリックは口にしながら、ようやくキラへと視線を向ける。そう言う政治的な手段を執って欲しいから自分に相談してきたのだろうと判断したのだ。 「いえ……違います」 だが、キラは即座にパトリックの言葉を否定してくる。 「そうしたら……多分、みんな殺されちゃいますよね?」 それでは意味がないのだ、とキラは付け加えた。 「……連中なら、そうするだろうな」 口封じのために、同胞であろうと処分する。それは、今までの歴史からしても十分考えられることだ。 「なので……おじさまに――ザフトに協力していただきたいんです……戦争を引き起こさない方法で」 「と、言うと?」 何をさせたいのか……とパトリックはキラに問いかける。 「……マルキオさまにお願いして、ヘリオポリスのカレッジに入学できるように手はずを整えていただきました。そこで、もう少しいろいろと調べてみたいと思います」 どこにいるか確証がもてたら、ザフトの人たちに救出をして欲しい、とキラは口にした。同時に、集めたデーターを使って地球軍の上層部がブルーコスモスと癒着していることを糾弾して欲しい、と。 確かに、そうすればプラントにとって有利だ。 助け出された人々は間違いなくザフトに対する感謝を表明してくれるはず。そうすれば、オーブの民間人達はプラント――コーディネイターへの信頼感を増してくれるだろう。 しかし、とパトリックは思う。 「危険だよ」 これがアスランであれば条件付きで行かせたかもしれない。だが、キラでは不安の方が先に立ってしまう。 「わかっています」 キラはきっぱりとした口調で言葉をつづる。 「でも……黙って待っているだけなんて、もう、いやなんです。父さんと母さんの手がかりが掴めたのだから……僕自身が迎えに行きたいんです」 だから行かせて欲しい、とキラはパトリックへ訴えた。 「……少し、考えさせてくれるかな?」 国防委員長という立場であれば、無条件で許可を出さなければならないことはわかっている。しかし、友人の息子を預かっている身としてはそう簡単に頷くことができない。いや、できるなら今すぐにでもキラを説得してやめさせたい、とすら考えてしまう。 だが……とパトリックは心の中で呟いた。 それでは、キラの決意を否定してしまうことになる。 いや、それだけではない。 キラから預かったデーターを見れば、彼がどれだけの時間、この事を調べていたのかわかる。その時間までも否定することになるだろう。 あるいは、彼の両親に対する気持ちまで否定してしまうことになるのではないだろうか。 そう考えれば、むげに反対するわけにもいかない。 「おじさま」 パトリックの態度に不安を覚えたのだろう。キラが呼びかけてきた。 「個人的に言えば、大反対だよ……だが、それではキラ君のためにはならない。そして、私が反対した程度では諦めるつもりはないのだろう?」 違うかね、と問いかければ、キラは大きく頷いてみせる。 「と、言うことは……最悪、家出をされてしまう、と言うことだ。それでは、キラ君に何かあったとき対処ができない」 それでは、キラまで失ってしまう可能性がある、とパトリックは付け加えた。そして、内心、そのようなことになればアスランがどうなるか不安だ……という思いもある。いや、彼だけではない。ラクスやニコル達も、とんでもない行動に出ることが簡単に予想できてしまう。 いや、正確に言えば自分が耐えられないのだ、とパトリックは苦笑を浮かべる。 「だから……せめて、君の安全を確保できるように手を回すだけの時間が欲しい」 そして、何かあったとき、直ぐにキラを救いにいけるような……とパトリックは付け加えた。 「おじさま、それは……」 万が一の時にプラントに迷惑がかかる、とキラは口にする。だから、気にしなくていいと。 「それを受け入れてもらえないのであれば、どのような手段を使ってでも邪魔させてもらうよ?」 それがどこかに監禁するといったような実力行使でもだ、とパトリックはキラを見つめながら告げる。 「……それは……」 「確かに、脅迫だろうね。だが、君は私にとってもう一人の息子みたいなものだ。その安全を確保するのは私の義務、だからね」 違うかな? と言えば、キラは視線を伏せた。 「そのお気持ちは嬉しいと思います。でも……公私混同になるのではないですか?」 そしてこう言ってくる。あるいは、パトリックの言葉にどう反応をすればいいのか彼も悩んでいるのかもしれない。 「何。同じ結論を出すのは私だけではないだろうからね。マルキオ氏が絡んでいるのであれば、シーゲルやアイリーンも関わっている、と言う可能性もある」 違うか、と言えば、キラがさりげなく視線をそらした。どうやら図星だったらしい、とパトリックは思う。もっとも、本来の目的まで知らされているかどうか、判断は付きかねたが。 「第一、キラ君を一人でそんなところに行かせた……とレノア達が知ればどうなると思う?」 嫌われるだけですめばましな方だ。最悪、アスランを連れて出て行く、と言う行動に出るだろう、とパトリックはわざとらしいため息と共に告げた。 「……まさか、おばさまが……」 そんなことをするだろうか……とキラが小首をかしげてみせる。 「レノアも、キラ君のこととなると理性が飛んでいくようだからね」 可能性は否定できない、とパトリックは言い切った。 「だからね。そのくらいはさせてくれ。我々が安心できるように」 そして、君が無事に戻ってくるように……と付け加えれば、キラは小さく頷いてみせる。その事実に、パトリックは安心した。 「そう時間をかけるつもりはない。だから、もう少し、待っていてくれ」 他人が聞けば目を丸くするであろう口調でパトリックは彼に頼む。 「……わかりました」 頷いて見せたキラに、パトリックは安心させるように笑みを向ける。そして、立ち上がると彼の肩を叩いてやった。 キラがとうとうパトリックに宣言しました。と言うことは次はあの嵐ですね(^_^; |