「今日はどうしたの?」 女の子は少し会わないだけでずいぶん印象が代わる……と思いながら、キラはラクスに問いかけた。 「ザフトの本部で歌わせていただく予定だったのですが……何かおありになったらしくて、中止になってしまいましたの。それでどうしようかと思っておりましたら、パトリック様がキラ様がいらっしゃるはずだから、と教えてくださいましたの」 だから、会いに来たのだ……と彼女はいつもの微笑みを浮かべてみせる。 「おじさまの差し金だったんだ」 ひょっとして、彼は自分が何をしようとしているのか知っているのか、とキラは思う。そして、それを阻もうとしているのか、とも。 もちろん、ただの考えすぎ、と言うことも否定できない。 「えぇ。最近、お一人の時間が多いとか……だから、寂しがっておいでかもしれないとお聞きしましたわ」 私もキラ様に会えなくて寂しく思っておりましたし……と微笑む彼女に、キラも微笑みを返す。 「僕の方は、ラクスの姿と歌だけはしょっちゅう目にしているけどね」 それはそれだけ彼女の仕事が忙しい……と言うことでもあろう。あちらこちらで注目を浴びているからこそ、それだけマスコミに出る機会が多いのだ。 「あらあら……お恥ずかしいですわ」 そう言いながらも、ラクスは嬉しそうな表情を作っている。 「そう? いつも美人に映っているよ? カレッジの友達にも、ラクスの映像を集めている人がいるし……でも、本人の方がいいけど、僕は」 こうして会いに来てもらえる人間の特権なのかもしれないけど……とキラは舌を出す。 「そう思って頂けて、嬉しいですわ」 私も、キラ様の実物がいいです……と微笑む。 「歌を歌うのも大好きですけど、同じくらいにキラ様も好きですから、私」 だから、本当はいつでも側にいて欲しいのだ、とラクスは付け加えた。 「でも、仕方がないよ。僕がやりたいこととラクスがやりたいことは違うんだから」 夫婦になっても、専門が違えば一緒にいられない……というのはレノアとパトリックを見ていればわかる、とキラは告げる。それでも、お互いのことを尊敬できていればいいじゃないか、と思う。 「そうですが……でも、寂しいものは寂しいですわ」 「それは否定しないけど」 と言うよりも、いつも感じていたことだ……とキラは心の中で付け加える。だが、それを目の前の相手に告げればとんでもないことになりそうで敢えて口には出さない。 「でも、僕は歌っているときのラクスはすてきだと思うな」 側にいてくれるときは安心できるけど……とその代わりに告げた。 「あらあら……では、歌の方ももっとがんばらなければいけませんわね」 自分もキラの側にいれば安心できるが……と付け加えながら、ラクスはさらに笑みを深める。 「でも、私はアスランの次、なのでしょう?」 キラ様の一番はアスラン、ですものね……というセリフに、キラは目を丸くした。 「そう見える?」 自分では自覚していなかったんだけど、とキラは素直に口にする。 「でも、アスランとは一緒にいるから……そのせいでそう見えるのかもしれないね」 違うかな……というキラに、ラクスはわざとらしいため息をついて見せた。 「自覚されていなかったのですね。キラ様、アスラン以外に甘えられていませんわよ」 自分たちの前では、一生懸命虚勢を張っているように見えるとラクスは付け加える。自分では全く自覚していなかった事実をはっきりと告げられて、キラは思わず視線を泳がせてしまった。 「……だって、ラクスは年下だし……女の子だし……」 僕にだってプライドというものが……とキラは呟くように付け加える。 「それは理解できますけど。でも、やっぱり寂しいですわ」 自分がキラに甘えるように、キラにも自分に甘えて欲しいのだ、とラクスは口にした。 「それに、アスランには知られたくないこともおありになるのではないですか?」 違いまして、と言う言葉に、キラは思わず頷いてしまう。そして、次の瞬間、しまったという表情を作ってしまった。 「……ラクス、あのね……」 「わかっておりますわ。アスランには内緒、でしょう?」 くすくすと笑いを漏らしながらラクスは頷いてみせる 「でも、その代わりに、キラ様が何をしようとしていらっしゃるのか、私に教えてくださいませ」 この言葉に、キラは体をこわばらせてしまう。 自分がしようとしていて、アスランに知られたくないこと……と言えばあれだ。だが、それを聞けばラクスも反対するに決まっている。 だが、目の前の彼女は、キラが白状しなければ許してくれそうにないのだ。 「私は、キラ様が何をなさろうとしても、決して邪魔だけはいたしません。これだけはお約束しますわ」 信じてくださいませ、とラクスはさらに付け加えた。 「……本当に?」 キラは確認するようにこう問いかける。それにラクスはきっぱりと頷いて見せた。 「……おじさまに相談しようと思っていたんだけど……」 その機会がなかったから……と言いながらキラはゆっくりと口を開く。 「僕……一度オーブへ戻ろうかと思っている。あちらで確かめたいことがあるんだ」 キラの言葉にラクスは息を飲む。だが、約束通りキラを押しとどめるような言葉は口にしない。 「……マルキオさまに身元保証人をお願いすれば何とかなると思うんだよね。僕はまだ、オーブ国籍の人間だし……」 アスランやラクス達と離れるのは寂しいけど……とキラは付け加えた。 「マルキオ様でしたら、信頼できますし……私どもとも連絡を取っていただけるとはわかっておりますが……」 ますます、寂しくなられますわね……とラクスはため息をつく。 「ですが、キラ様がお決めになられたことでしたら、私がどうこう申し上げることではありませんわ」 アスランや他の者たちについてはどうかわからないが……とラクスは微笑みに苦いものを含ませる。 「やっぱりそう思う?」 アスランだけではなく、他の男性陣もキラを邪魔するは目に見えていた。だから、早々に手はずを整えて、誰も文句を言えない状況にしてから告げようか、それともいっそ内緒で出かけてしまおうかとまでキラは思っていたのだ。 「もちろんですわ。みなさま、キラ様がいてくださるから交流を持っていらっしゃるのですもの」 キラがいなくなれば、元々親交があった者以外は連絡すら取らなくなるのではないだろうか、とラクスは口にする。それが、プラントの未来にとっていいことなのかどうかはわからないが……とも。 「そんなこと、ないと思うけどな」 口ではこう言いながらも、アスランは絶対イザークと連絡を取らなくなるだろう……とキラも思う。どうしたことか、彼らは馬が合わないようなのだ。そのくせ、キラに対する態度はよく似ている。本当に《過保護》としか言いようがないのだ、彼らは。 「……もしそれが本当だ、としても……諦めるつもりはないしね」 そのくらいで諦めるようなら、最初から考えない、とキラは付け加える。 「わかっておりますわ。そうですわね……私の方でもマルキオさまに声をかけておきましょう……それと、オーブにいらっしゃる方で、キラ様のおそばにいてくださる方も探しておきますわ」 できるだけキラが、こちらと連絡を取れるように……とラクスは付け加える。その口調は、いつもの彼女とどこか違っているような気がしてならない。 「ラクス……」 「私は、キラ様の味方ですもの。キラ様が本当になさりたいことをお手伝いさせていただきますわ」 同時に、こう言って微笑んでくれる彼女が、初めて頼もしいと思える。 「……共犯者、よろしくね」 だから、彼女に向けてこう声をかけた。 「もちろんですわ、キラ様」 任せておいてください、とラクスも頷く。そして、キラに向かってとっておきの微笑みを見せたのだった。 ラクスを味方につければ怖いものなし……でしょうかね(^_^; |