オーブ上層部と地球軍の癒着――と言うよりは、自国を守るための必要悪――というのがあの事件の真相なのかもしれない。同時に、より高い技術を開発するための資本を獲得するという目的か。
「だからといって……許せることじゃない……」
 そのために自分たち家族は引き離されたのか……とキラは呟く。同時に、何としても両親を取り戻してみせる、と思う。だが、
「これ以上は、ここにいては不可能かな」
 と言うこともまた事実だ。
「……おじさまに相談してみるしかないのかも……」
 これから自分がやりたいと思っていることを考えれば……とキラは呟く。黙ってやる、と言う方法もあるだろうが、それはそれで大騒動になるだろうと判断したのだ。
「今日は帰っていらっしゃるんだっけ?」
 聞けばわかるかな……と言いながらキラはいすから立ち上がる。そして、そのまま部屋の外へ出ようとした。
『トリィ?』
 その後を、当然のようにトリィが追いかけてくる。そんなトリィの行動に、キラはふわりと微笑みを口元に浮かべた。
「一緒に行く?」
 言葉と共に手をを差し出す。そうすれば、トリィは当然のようにそこに舞い降りてくる。
「本当に、お前はいつでも側にいてくれるね」
 アスランがどのような機能を持たせているのかちょっと不安にはなるものの、それでも側にいてくれるのは嬉しい、とキラは思う。トリィの仕草のおかげで、ほっとできる……というのもまた事実なのだ。
「……みんな、忙しいのはわかっているんだけど……たまに寂しくなるんだよね」
 その時に、誰か側にいてくれればいいんだけど……と言いながらキラは再び歩き出す。抱きしめてもらえれば安心できるんだけど、と付け加える言葉は、間違いなく自分の本音だ、とキラにもわかっていた。
「トリィ」
 自分がここにいる、と言うようにトリィが鳴き声を上げる。
「わかっているよ」
 お前が側にいてくれるよね……と笑いながら、キラはザラ家の執事の所へ行こうとした。だが、それよりも早く彼がキラの方へと駆け寄ってくる。
「キラ様!」
 キラの姿を見つけた瞬間、彼がほっとしたような表情を作った。
「どうかしたのですか? 今行こうと思っていたのですけど……」
 お聞きしたいことがあったので……というキラに、彼は
「そう言うときは端末で呼び出していただければ……キラ様はアスラン様と同じと考えろとパトリック様から言われておりますから……」
 と困ったような表情を作る。
「そうですけど……どうしても慣れないので……」
 誰かに命令をすると言う立場が……とキラは苦笑を浮かべた。自分でできることは自分でするように育てられてきたのだから、と。
「そのお気持ちはわかりますが、みなさまのお世話をすることも私達の仕事ですので」
 ですから……と微笑まれては、頷くしかできない。
「ところで、僕に何か用でも?」
 ふっと思い出したというようにキラは彼に問いかけた。
「あぁ、そうでした……ラクス・クライン様がおいでになると連絡があったのですが、あいにく、パトリック様もアスラン様もおいでになりませんので……ラクス様はキラ様がおいでになればかまわないとおっしゃっておられるのですが……」
 いかが致しましょうか……と彼が問いかけてくる。
「ラクスが?」
 一体どうしたというのだろうか……とキラは小首をかしげる。
「そう言えば、ザフトの本部で歌を歌うって言ってたようだけど……」
 そのついでに来るつもりなのかな? とキラは付け加えた。
「そのようにおっしゃっておられましたが……」
 どうしましょうか……と彼は問いかけてくる。そう言われても、キラだって困る。アスランがいれば彼に判断を求めるところなのだが、いない以上仕方がないだろう。
「……知らない相手じゃないし……おじさまだって、駄目だとはおっしゃらないと思うから……お茶の支度はできるんだよね?」
 簡単なデザートぐらいであれば、厨房の料理人が直ぐに作ってくれるはずだ、とキラは思いながらこう問いかけた。
「もちろんでございます。キラ様がお望みだと伝えれば、喜んで用意してくれます」
 ですから、そちらに関しては心配がいらないと彼は付け加えた。
「なら、お願いします。ラクスが来たら……リビングでかまわないですよね? そちらに……それと、今日はおじさま達はお帰りになるのかな?」
 なら、食事も誘った方がいいのだろうか、とキラはさりげなく聞こうとしていたことを口にする。
「アスラン様はお戻りになるはずでございます。レノア様は今日も研究室にお泊まりになると連絡がございましたし……パトリック様は一度顔を出されるご予定だと伺っておりますが……」
 どうなるかはわからない、と彼は答えを返してきた。
「そうですか……では、三人分、夕食を用意してくれるようにお願いしてください。僕は……ちょっと調べたいことがありますから、書斎の方にいます。ラクスが着いたら連絡をしてください」
 では、上手く行けば今日中にパトリックを捕まえられるかもしれない。そう思いながらキラは言葉を口にする。
「かしこまりました」
 言葉と共に頭を下げてくる彼に、どうしても慣れることができないな……と思いながら、キラはその場を後にした。
「……本当にどうしたんだろう、ラクス……」
 こんなにいきなり訪ねてくることなんて、今までなかったのに……とキラは小首をかしげる。もっとも、今の気持ちからすればありがたいと思ってしまうのは事実だ。
「ラクスもニコル君も、成人したら忙しくなっちゃって……なかなか会えなくなっちゃったもんね」
 こちらから会いに行きたくてもスケジュールがなかなか合わないのだ。自分のようにかなり融通が利く立場ではなく、カレッジに通いながらコンサート活動をしているのだから仕方がないのだろうとは思う。それでも、たまには寂しいと思うのだ。
「何か、今日は弱音ばかり言っているような気がする」
 それとも、これから自分がしようとしていることが関係しているのか。
 キラ自身、その答えを知っているわけではない。
「でも……今日だけにしておかないとね」
 今計画していることが実現すれば、敢えないどころか誰にも連絡が取れなくなるだろう。それでも、もう一度優しかった両親と再会できるのであれば、我慢しなければならない。
「トリィ?」
 そんなキラの言葉を不審に思ったのだろうか。トリィが問いかけるように鳴き声を上げた。
「何でもないよ、トリィ……いつまでも寂しいなんて言っていられないって思っただけ」
 男だしね、僕だって……とキラは口にする。それはトリィに向けて、と言うよりは自分に言い聞かせているようでもあった。
「それよりも、オーブに関する事を調べないと……オーブ籍だって言うのに、僕は何も知らないに等しいんだよね、考えてみれば」
 プラントのことであれば、普通は知らないであろうことまで知っているのに……とキラは苦笑を浮かべる。
 それもこれも、ザラ家に引き取られたからだろうと。
 もちろん、そのことに関して異を唱えるつもりは全くない。むしろ、そうしてもらえて嬉しいというのは事実だ。誰よりも好きなアスランと、優しいレノア、そして、不器用に自分を甘やかしてくれるパトリックの存在が、自分を閉じた世界から連れ出してくれたのだから、と。
 しかし、本当にこのままでいいのかと思う気持ちも変わらずにキラの中には存在していた。
「ついでに、あるなら地球連合についても調べてみようかな……何も知らない、って言うのは、ある意味恥ずかしいことかもしれないし……」
 今後の行動に関わってくるかもしれない、とキラは心の中だけで付け加える。
 そして、書斎のドアへと手をかけた……



そろそろラストパート突入でしょうか(^_^;