少しずつ、キラのパソコンの中にデーターが増えていく。それと比例するように、キラの中で『何とかしないと……』と言う思いも増えていった。
 しかし、どうすればいいのか……その方法が見つからない。
 そして、ことがことだけに迂闊な相手に相談をすることもできない。
「……もう少し確実なデーターさえあれば……」
 いくらでも説得できるだろうに……とキラはため息をつく。しかし、ザフトのマザーにもそこまでのデーターはない。
「……ヘリオポリス……」
 そこの管理システムであれば、何かデーターがあるのではないだろうか。もちろん、その物ズバリの形であるとは思えない。しかし、何か示唆するようなものがあるのではないか。キラはそう思う。
「侵入、できるかな……」
 システムに、とキラは考え始める。
 ルートさえ見つけてしまえばそれは可能だ。だが、できればプラントが関わっているとは知られたくない。と言うことは、中継ルートも検討しなければならないだろう。
「時間さえかければ……できるとは思うけど……」
 問題は、その間にアスランに気づかれないかどうかだ……と思う。彼に気づかれては、絶対に邪魔されるに決まっている。でなければ、ザフトに任せるように説得してくるか、だ。
 だが、それでは自分が耐えられない。
 今までは情報が与えられなかったからこそ、大人しくしていられたのだ。だが、ほんのわずかでも手かがりとも言えるものを得てしまった以上、黙っていられるわけがない。
「……一番いいのは、アスランの目が届かない場所ですることかな……でも、ルート探しぐらいはごまかせるかも……」
 ハッキング自体は、暇つぶしによくしているし……とキラは呟く。その目的さえ彼に知られなければいいのだ、と。
「開き直ってしまえば勝ちだよね」
 退屈だとか、ファイヤウォールのチェックだと言えばいくらでも言い逃れができるだろう、とキラは心の中で付け加えた。アスランがマイクロユニットを量産しているのと同じことだ、と言い返せばいいだろうと。
「マイクロユニット……って、そう言えば、アスランからプログラムを頼まれてたんだった!」
 ラクスにプレゼントをする奴だから、まじめに作らないと……とキラは慌ててハッキング用のツールを終了させる。その代わりというように、プログラムを組むときに使っているエディタを立ち上げた。
「……ほかにもなんか作っていたようだけど……あっちのはいいのかな?」
 それとも、自分には知られたくないものなのか。
「……それについては追及しない方がいいよね……」
 藪をつついて蛇を出してはいけない、とキラは自分に言い聞かせる。
「えっと……アスランから貰ったメモ……」
 どこ置いたっけ……と言いながら、キラは一時的に意識からハッキングについてのあれこれを追い出す。その代わりというように、アスランから頼まれていたプログラムの仕様について考え始めた。
「それにしても、これ、軍事用……っていうわけじゃないんだよね……って、ラクスの護衛目的ならこのくらい必要なのかな?」
 シーゲルがプラント評議会議長に選出され、その結果、ブルーコスモスのテロの対象になっているのだ。当然、ラクスの周囲も警戒が必要だと言える。しかし、彼女は《歌姫》としての仕事のせいか過剰な護衛を拒んでいるらしいとパトリックがこぼしていた。なら、とアスランが考えてもおかしくはないだろう。
「でも、やっぱり死人を出すのはいけないよね……いくらラクスを守るためでも……」
 そのあたりの妥協点を見いださないと……とキラは呟く。
「しかし、もう少し普通の言葉で書いてくれないかな、アスラン……僕だからまだ意味が読み取れるけど、他の人が見たら、わけわかんないよ、これ」
 こう言いながら、基本部分を作り始めたキラの脳裏ではハッキングについてのことは隅に追いやられていた。

 キラもアスランも成人してからと言うもの、パトリック達は家を空けることが多くなってきた。
 それはそれでかまわないのだが、二人だけの食事というのはどこか寂しいともアスランは思ってしまう。キラがいてくれるだけまだましなのだが……と思いながら、アスランは彼へと視線を向けた。
「……キラ……最近、ちゃんと寝ていないんじゃないのか?」
 そして、いきなりアスランはいきなりキラに向かってこう問いかける。
「そう、でもないと思うけど……何で?」
 きょとんとした表情でキラが逆に聞き返してきた。その表情からは、本当に訳がわからないと彼が思っていることが伝わってくる。
「本当にわかっていないのか、それとも気づいていて知らないふりをしているのか、どっちだ、キラ……」
 アスランはさらにため息をつくと言葉を重ねた。
「だから、どうしてそう思うの、って聞いているんじゃない!」
 キラはキラで、むっとした表情で言い返してくる。と言うことは、本当にわかっていないのか……とアスランは判断をした。
「目が真っ赤だぞ、キラ。寝不足でなければ、即座に病院に行って来い」
 コーディネーターが病気にかかりにくい、とは言え全くかからないわけではないのだ。そして、それが視覚に関することであれば遺伝以外の原因で支障が出てくる可能性が高い。今のうちに手を施しておかなければまずいだろう、とアスランは付け加える。
 もっとも、キラが自分の言葉をどこまで受け入れるか、と言うことには懐疑的だったが。
「……寝不足じゃないとは思うけど……ちょっとモニターを見ている時間が長いかも……」
 しかし、予想に反してキラがこう言う。
「厄介な仕事でも頼まれているのか?」
 それもザフト関係の……とアスランは問いかける。だとすれば、父に一言言っておかなければならないだろうと心の中で呟いた。
「ザフト関係の仕事はこの前ので終わり。今は……アスランが寄越したあれを組んでいるんだけどね……」
 それがなかなか厄介で……とキラはため息をついてみせる。
「……そんなに難しい要求は出していないつもりなんだが……」
「アスランからすればそうかもしれないけどね……僕以外の人間じゃわけわからないよ、あれ。それに、ラクスを守れて、それでいて犯人を殺さない方法も考えておかないとまずいじゃない」
 アスランの言葉に、キラはさらに頬をふくらませながら言い返してきた。
「別段、目の前で犯人が死んでも、ラクスは気にしないともうけど?」
 彼女のことだ。見なかったことにしているかもしれない。そう言う風に教育をされているのだ、ラクスは。
「そうかもしれないけど……やっぱりラクスは女の子だし……それに、犯人が誰の命令で動いているのか、知らないと困るんじゃないの?」
 その後の警備の関係からも……と言うキラの主張は納得できるものだ。
「……と言うことは、大出力のレーダーじゃまずいかな……」
 設計を変更した方がいいかもしれない……とアスランは呟く。
「そんなの、つけるつもりだったの?」
 あきれたようにキラが聞き返してきた。
「どんな大きさになるわけ?」
「どんなって……このくらいかな?」
 アスランはキラの問いかけに掌で大きさを示す。それは、ラクスの両手の中に収まる大きさだ。
 誰にも不審がられずに手元に置いておくにはその程度の大きさがいいのだろうが……
「……無謀……」
 キラはそう判断したらしい。盛大にため息をついて見せた。
「そうでもないけどね……まぁ、出力を小さくすれば他の機能も組み込めるか」
 それで妥協をしよう、とアスランは呟く。実はもっと無謀なものを作っているなど、キラに知られるわけにはいかない。しかも、それに関してはプログラムも自分で行わなければならないのだから。
「でも、そんなに無理をしないでいいからね。ラクスの誕生日までに間に合えばいいんだから」
 それよりも料理が冷める……とアスランは付け加えた。
「そうだね。温かいものは温かいうちに食べるのがおいしいんだよね」
 キラもそれには納得したらしい。スプーンを持ち直した。それを確認してからアスランも料理にてを着け始める。
 お互い、心の中で胸をなで下ろしていた……などと、アスランは思わなかった。



アスランが不気味かもしれない……と言うより、何て言うものを作るのでしょうか、彼は。まぁ、キラに渡す予定の物の方がいろいろとまずい機能があるのは言うまでもないことです、はい(^_^;