「……そうか……マルキオ氏はキラ君のご両親とお知り合いだったのか」
 家に帰ってきたアスラン達の話を聞いて、パトリックが呟く。
「であれば、私も顔を出すべきだったか」
 この言葉の裏に、キラの両親に対する親愛の情をアスランは感じ取っていた。
「そうなさればよかったのに……生まれたばかりのキラの話とか、お聞きしてきましたよ」
 機会があれば、データーもくださるそうです……とアスランはパトリックに告げる。
「アスラン!」
 そんな彼の声を遮るかのようにキラのそれが室内に響いた。どうやらその話題について触れて欲しくないらしい。
「いいじゃないか。父上だって、キラが赤ちゃんの時の話を知りたいのでしょう?」
 自分のことばかり知られていては癪だ、と言う意味を込めつつ、アスランはパトリックへと話題を振った。
「そうだな。月にいた頃の写真であれば我が家にもあるが、それ以前のものは手元にないし……キラ君にしても持っていた方がいいだろう?」
 そのころの写真や何かは……とパトリックはアスランとは違う意味でキラに告げる。
「……そう、かもしれないですけど……」
 でも、見られたくはないのだ……と言うキラの言葉の裏には、マルキオから聞かされた話に対する衝撃が見え隠れしていた。それは無理はないだろう……とアスランは心の中で付け加える。自分でも、そんな写真があるのであれば見たくはない……というのが本音なのだ。
 しかし、パトリックの言葉も納得できるものだろう。
 キラが生まれて直ぐの写真はここにはない。そして、キラにとってそれは自分が望まれて生まれてきた……という証拠になるはずなのだ。
「キラ……貰うだけ貰っておいて、仕舞っておく……という方法もあるだろう?」
 見られないのは残念だけど……と付け加えながら、アスランは彼に微笑みかける。
「……欲しいのは事実なんだけど……」
 でも、人に見られるのはいやだ……とキラは呟くように口にした。
「それは少し残念な気もするが……キラ君が見せたくないのでは仕方がないかな?」
 パトリックが微笑みながらキラに向けて言葉を告げる。
「だが、ご両親にしても懐かしいものだろうからね。いただけるのなら貰っておきなさい」
 そうすれば、いつでも眺めることもできるよ……と優しい声でパトリックがキラを諭していた。それを耳にして、キラも納得したのだろう。小さく頷き返している。
「ともかく……そう言う話が聞くことができるのであれば、次の機会に顔を合わせてみるのもいいだろうな」
 パトリックがそんなキラの様子に目を細めながらさらにこう告げる。その言葉の裏に隠されているものにアスランはおや、っと思う。
 シーゲルと父は仲が良かったはずなのだ。
 しかし、今の言葉の裏には微かだが《刺》のようなものが感じられた。
 二人の間に何かあったのかもしれない。だがそれをパトリックに問いかけてもはぐらかされてしまうだろう……とアスランは心の中で呟く。
「おじさまは……マルキオさまがお嫌いなのですか?」
 こういう点に関しては、アスランよりもキラの方が怖いもの知らず……といえるのかもしれない。あるいは、単に無邪気なだけなのだろうか。きょとんとした表情で彼はパトリックにこんな問いかけを投げつけた。
「どうして、そう思ったのかな?」
 パトリックが微かに焦りを滲ませながら逆に聞き返す。
「何か上手く言えないんですけど……おじさまにしては、珍しくもためらっていらっしゃるようでしたから……僕も会いたくない人に会うときに、そんな感じになるので……」
 間違っていたらごめんなさい……と付け加えながら、キラはこう口にした。
「いや……当たっているかもしれないな……」
 しかし、パトリックは苦笑と共にこんなセリフを返す。
「ちょっと、地球連合の者たちの馬鹿ぶりにいらついていたのでね。ナチュラルと言うだけで敬遠をしていただけだ。考えてみれば、シーゲルがそのような相手を紹介したい……と言うはずがないし、それにハルマたちの……キラ君のご両親の知り合いでもあるのであれば、なおさらだな……と思ったのだよ」
 ナチュラルが全て馬鹿だとは限らない、と言う事実を忘れていたのだ……と言う言葉に、キラは小首をかしげてみせる。
「おじさま……お仕事、大変なのですか?」
 それほど状況は悪くなっているのか……とキラは口にした。
「……父上?」
 それに関してはアスランも不安に思っている。だから、彼もこう問いかけた。
「まだ、最悪と言うところまで入っていない。オーブががんばってくれているからな。しかし、あちらが聞く耳を持たなければ、時間の問題かもしれん」
 そうならないよう、最善の努力を続けるが……と言うパトリックは疲れ切っているように思える。と言うことは、かなり状況は悪いのだろう。アスランはそう感じていた。
「アスランやキラ君が心配するようなことはまだ起きないよ……だから、安心していい」
 自分が道を外しかけても、二人やレノアがいれば引き戻してくれるようだからな……とパトリックは微笑む。
「父上……」
「……おじさま……」
 そんな彼に向かって、アスラン達は何も言うことができない。何かを言わなければならないと思うのに、だ。
「そう言う辛気くさい話はここまでにしておこう」
 だが、パトリックは明るい口調を作るとこう言ってくる。
「キラ君が見せたがらない……と言うことは、女の子の服でも着ていた写真でもあったのかな?」
 こう言われた瞬間、キラが顔を赤くした。
「キラ……それじゃ父上にばらしているようなものだって……」
 アスランは苦笑と共にこう指摘してやる。
「……アスランはいいよ……そんな写真ないんでしょう?」
 いくら自分が女顔だからって、そんなもの見たくない……とキラは呟く。それが、自分の記憶に残らないほど幼い頃でも、だ。そう付け加えたときだ。
「そう思うかね、キラ君?」
 パトリックが意味ありげなセリフを口にする。
「父上、まさか……」
 アスランはアスランで、そんな父の態度に嫌なものを感じてしまった。
「あのデーターは、破棄されたのではないんですか!」
 そしてこう叫ぶ。
「……あのデーター?」
 何のこと、とキラがアスランにと視線を向けた。このシチュエーションででたのだから、自分の女装と同じかそれ以上にインパクトがあるものだろうと彼が思っていることはその表情から見て取れる。
「父上……」
 彼が余計なことを言わなければ……キラが興味を持つことがなかったのに……とアスランは言外に父を非難した。
「キラ君のことだけを告げて、自分のことを隠そうとするのは卑怯ではないのか?」
 違うのか、と言う父の言葉は間違いなく正論だと言っていい。しかし、自分にだってキラには知られたくないことがあるのだ。
「……そうですけど……」
 だからといって……とアスランはさらに口を開こうとする。
「諦めるのだな。あの調子ではどこからかキラ君の耳に届くに決まっているぞ」
 それよりは自分の口から告げた方がいいのではないのか? といいながら、どこか楽しんでいるような色が彼の瞳には浮かんでいる。
「アスラン?」
 キラもアスランの顔をまっすぐに覗き込んできた。
「……恨みますからね、父上……」
 アスランは小さくため息をつく。そして、自分の恥ずかしい過去について白状をし始めたのだった。



ザラパパ一勝(苦笑)でしょうか。ちなみに、アスランが騒いだのはもちろん女装写真です。それも、幼年学校に入った後の……