さすがクライン家令嬢の誕生パーティーと言うべきなのだろうか。集まった人の地位はもちろん、その数もキラには信じられないと思えるものだった。しかも、これでもあくまでも《知人》だけ、なのだという。 「……僕……」 やはり場違いだったのではないだろうか……とキラは思ってしまった。今すぐ、部屋に戻りたいとも。しかし、アスランやラクス、それにニコルから自分たちが側に行くまでいなくなるな、と厳命をされている。それでなくても、パトリックも含めた者たちがことあるごとに視線を向けてくるのだ。逃げ出すわけにもいかないだろう。 あるいは、キラの側に来ようとしているのもしれない。だが、周囲を取り巻く人が多すぎてできない……とでも言うのだろうか。 「目立たない所ってどこだろう……」 ともかく、少しでも人目につかない場所に移動できればそれで妥協しよう……とキラが判断したときだ。 「キラ君、ここにいたのね」 言葉と共にルイーズが顔を出す。 「ルイーズ様」 声をかけてきたのが知らない相手でないことにほっとしながら、キラは笑顔を浮かべた。 「いらしていたんですね。気がつきませんでした」 すみません……と付け加えれば、彼女は、 「いいのよ。こんなに人が多いんですもの……それにしても、アスラン達も大人気だこと」 キラ君を放っておくのも仕方がないのかしら……と言いながら、キラの髪をそうっと撫でてくれる。 「実はね。キラ君を紹介して欲しいという者がいるの。会ってくれるかしら?」 彼女のこの言葉にキラは軽く小首をかしげて見せた。パトリックやアスラン、あるいはニコルやラクスであればそう言われても仕方がないだろう。しかし、ザラ家に居候しているだけの自分にそんなことを言われるはずがない、と思ったのだ。だが、ルイーズが嘘を言うはずもない。 「僕はかまいませんが……おじさま達がなんておっしゃるか……」 言外に、彼らが否定をするような相手なら困る……とキラは告げる。 「パトリックなら大丈夫なはずよ。彼も知っている相手ですもの」 だから安心して言い、と言う彼女にキラはようやく頷いた。そうすればルイーズも微笑んでみせる。 「ちょっと待っていてね。今連れてくるわ」 そして、こういうと一端キラから離れていこうとした。 「あの……僕も一緒に……」 「いいの。目立ちたくないのでしょう?」 それに、動かないと太るわ……と笑いながら付け加える彼女に、キラはどう言い返していいのか迷ってしまう。まさかこんなセリフが返ってくるとは思わなかったのだ。 「ルイーズ様?」 「女性はね、幾つになっても美しくありたいものなのよ」 くすくすと笑うと、彼女はキラの髪を撫でる。そして、待っていてね、と言い残すとそのままキラから離れていった。 だが、直ぐに目的の人物が見つかったのだろう。誰かを手招くと戻ってくる。その相手は、濃いブロンドの、キラ達からすれば十も離れていないのではないか、と思える女性だった。 「はじめまして。あなたがキラ君ね?」 彼女はキラの前に立つと秀麗な笑みを浮かべてこう問いかけてくる。 「はい。僕がキラ・ヤマトです。はじめまして」 キラも微笑みを浮かべると、できるだけ礼儀正しい口調で言葉を返す。 「お名前をお聞きしてもかまいませんか?」 「アイリーンよ。アイリーン・カナーバ。パトリックやルイーズと同じく評議会の一員をしているわ」 こう言われて、彼女がルイーズやこの前あったエザリアが噂をしていた女性なのか、とキラは心の中で呟く。 「本当に素直で可愛いわね……こんな子が側にいるから、最近のパトリックは穏やかなのかしらね」 うらやましいと言いながら、アイリーンがさらに顔を近づけてくる。それにキラは思わず後ずさってしまった。 「キラ?」 どうやらようやく人混みを抜け出すことができたのだろう。視界の端に近づいてくるアスランの姿が映った。その彼の姿に、キラの口元に安堵の笑みが浮かぶ。 「……いっそ、お婿に来ない?」 その瞬間、アイリーンのこんなセリフが耳に届いた。 「あらあら……」 いくら何でも、とルイーズが笑っている。しかし、キラにはとても笑うことができない。冗談にしても、まさかそんなことを言われるとは思っても見なかったのだ。 「いくら気に入っても、それはちょっと無理でしょう?」 まだキラ君は成人前よ……とルイーズが言葉をかけている。 「でも、どうせならこんな相手と結婚したいですわ、ルイーズ。婚約、と言う形だけでもいいから、パトリックに頼んでみようかしら」 彼の養い子であれば問題はないだろうし……と彼女は付け加える。しかし、彼女のこのセリフでキラの完全に思考はストップしてしまった。断らなければいけないのだろうが、どうすればいいのかわからないのだ。 「アイリーン様……お願いですから、キラを混乱させないでください」 ようやく辿り着いたアスランがキラを抱きしめながらこう口にする。 「その手の冗談に、キラは、慣れていないので」 本気であれば、余計に困る……とアスランが言外に付け加えた。 「……それに卑怯ですわ、アイリーン様」 さらにラクスの声までがキラの耳に届く。 「キラ様のことを考えて、私でさえ言っていないのに……」 自分だってキラをお婿に迎えたい、とラクスは言い切る。 「キラ君、もてるわね」 果たしてこの一言で片づけていいものか。それとも、そう言いきれるルイーズはさすがに大人の余裕があると言うべきなのか、とキラは思う。 「本気だったのだが……こうもライバルが多かったとは」 予想外だったわね……とアイリーンは苦笑を浮かべている。 「……ともかく、キラに関しては父か母を通してください。本来であればキラのご両親に……と言いたいところですが、今は無理ですから」 どうしてもとおっしゃるなら、ご自分でキラの両親を捜してくださいね……とアスランが微笑みと共に口にした。どうして、彼は大人相手でもこう言い返せるのだろうか、とキラは思う。それとも、言い返せない自分の方がおかしいのか、と。 「残念だけれども、その言葉は聞いておかないといけないようだわ」 くすりと笑いながらアイリーンが頷いている。 「困らせてごめんなさいね。でも、側にいて欲しいと思ったのは本当なの」 早めに声をかけておかないと競争率が高そうだし……と言いながら、アイリーンが脇の方を指さした。一体何事かと、キラだけではなくアスランとラクスもそちらに視線を向ける。そうすれば、エザリアがキラ達と同じ年齢の子供を二人連れてやってくるのが見えた。 「どうやら、彼女も自分の子供を君に紹介したいらしいね」 アスラン君もがんばらなければ、キラ君を持って行かれてしまうかもしれないわよ……とルイーズが微笑む。 「キラの親友の座は誰にも渡すつもりはありませんから」 絶対に、と言うアスランに、そんなこと当然だろうとキラは思う。しかし、彼の決意を邪魔してはいけないのではないか、と判断をして敢えて口には出さない。その代わりというように、キラはアスランの瞳を見つめると微笑んで見せた。そして、アスランにはそれだけで伝わったらしい。同じように微笑み返してくれる。 「キラを守れるようにならないといけないからね、俺は」 そして、小声でこう囁いてきた。 「アスランは……いつでも守ってくれているじゃないか」 自分が困っているときには直ぐにとんできてくれるし……とキラは言葉を返す。 「でも、それだけじゃ足りないだろう?」 だから、そのための努力をするのだ……とアスランは言い切る。こうまで言われてしまっては、キラは彼を応援するしかできないだろう。 「……じゃ、僕も負けないようにしないと……」 アスランの側にいても何も言われないように……とキラは言い返す。 「そうだね」 こう言いながらアスランがキラの体をさらに自分の方へと引き寄せたときだった。 「キラ君、それにアスラン君にラクスさん? 私の息子とダット・エルスマンの息子を紹介させてね」 できれば仲良くして欲しいけど……と言いながら、エザリアが微笑みかけてくる。 そんな彼らに向かって、キラが微笑みを向けた。 主要キャラがこれでほとんど出そろった……と言うところですね。今回、どうしても使いたかったセリフをようやく使えてよかったよかった(^_^; さて、どのセリフでしょう(苦笑) |