キラの味方が増えるのはいいのだが、それと比例するかのように邪魔が増えるのは気に入らない……とアスランは思ってしまう。
 今だって、二人でキラが好きなゲームをしていたのに、ラクスからの通信が入ったからと言って中断をさせられてしまったのだ。
「昨日はニコルだったしな」
 夕食までの時間、こうして邪魔されるのはたまらない……とアスランは思う。せっかく、キラと楽しんでいるのに……と。
「……でも、僕の一存じゃ、決められない……」
 その時、アスランの耳にキラのこんなセリフが届く。
「キラ?」
 どうかしたのか、とアスランが問いかける。
「ラクスが……誕生日のパーティーに来てくれって……」
 その声が聞こえたのだろう。キラが今にも泣きそうな表情でこう言ってくる。
「……ちょっと代わって」
 一見穏やかなようでいて実はきつい性格のラクス相手では、キラには荷が重いだろう。そう判断をしてアスランは彼に歩み寄っていく。その瞬間、キラの表情に安堵の色が浮かんだのはアスランの気のせいではないはずだ。
『アスラン様、お久しぶりですわ』
 にっこりと微笑む彼女の背中に《邪魔》と書かれてあるような気がするのも、決してアスランの錯覚ではないだろう。
「えぇ、お久しぶりですね、ラクス・クライン。顔だけはよく拝見させていただいておりますが」
 キラと話しているときは、絶対にアスランのことに注意を向けないのだ、彼女は。それに対する皮肉である。
『それは、失礼をいたしました。キラ様とお話しさせていただいている方が楽しいもので、ついついお声をかけるのを忘れておりましたわ』
 微笑みを深めながらこう言い返してくる彼女もまたさすがだ……と言うべきなのだろう。
「それで、誕生パーティー、とおっしゃっておられましたが?」
 どなたのでしょうか……とアスランは穏やかな口調で問い返す。相手によってはそれを口実に断れるのではないか、と判断したのだ。
『私の、ですわ。ザラさまには既にご許可をいただいておりますの。でも、キラ様がいいとおっしゃったら……と言う条件付きでしたけど』
 どうやら、先手を打たれていたらしい……とアスランは心の中で呟く。それでも、キラに判断させると言ったのは父の配慮なのだろうか、とも思う。彼の立場であれば、問答無用でと言うこともできただろう。しかし、その場合、キラの精神状況がどうなるか簡単に予想がついたが。
「……キラに返事をさせますが……その前に、それが公的なパーティーなのか私的なものなのか、教えていただけますか?」
 前者であれば、間違いなくキラは行きたがらない。それはわかっていた。
『一応、父と私の知り合いだけ……の予定ですが? ですから、ザラさまもおいでくださるはずですけど』
 それが何か、とラクスは小首をかしげてみせる。
 パトリックとラクスの父であるシーゲルは親友同士なのだからそれは当然だろう。しかし、とアスランは思う。いくら《私的》なものだとは言っても、彼らのそれが文字通り受け取れるわけではないと。間違いなく、他に呼ばれるのは評議会関係者やアプリリウス市で重要な地位を占めている者たちの家族だろう。そのようなメンバーの中でキラが浮かび上がらないか、とアスランは心配だ。
「……ニコルも呼ばれているだろう……と言うことだけが微かな救いかな?」
 そして、評議会議員の中にもキラを可愛がってくれている者がいる……と言うことも、だ。
 しかし、それ以上に、キラがストレスを感じてしまうことは目に見えていた。
『心配されなくても、キラ様には身内だけが集まる方の会場に来ていただく予定ですの。もちろん、アスラン様やニコル様も同じ会場に』
 それならご安心なのではありませんか? とラクスは微笑む。前日から来ていれば、他の者たちと顔を合わせずにすむだろうとも。
「……だって、キラ……どうする?」
 それでもいやなら断っていいのだ、とアスランは言外に付け加えた。
「……どうって……」
 どうしたらいいのかわからない……とキラの瞳が告げている。そう言うことに関しては、全てパトリックやアスランに任せてきたのだから、と。
「そんなに難しく考えなくてもいいよ。ラクスのお誕生日を祝ってあげたい?」
 この問いかけには、キラもしっかりと頷いてみせる。しかし、問題はパーティーに自分が行っていいことなのか……とキラの瞳が雄弁に告げていた。
「なら、当日までのキラの体調を見てからだね。それでかまいませんね?」
 ラクス・クライン、とアスランは視線をモニターの中の彼女に移しながら問いかける。
『もちろんですわ。私が無理をもうしてキラ様が倒れられるのはいやですもの』
 そのくらいであれば、自分がディセンベルのザラ家に訪ねていく方がましだ、と彼女は付け加えた。
「だって、キラ。じゃ、とりあえず行くことにしておいていいね?」
 再度アスランが問いかければ、キラは頷いてみせる。
「……でも……僕でいいの?」
 他の人じゃなくて……とキラは呟く。自分では何の役にも立てないよ、と。
「キラ」
 そう言うことを言うんじゃない、とアスランはため息をつく。
『キラ様だからこそ、祝っていただきたいのですわ。キラ様は、私がクライン家の娘でなくても好いていてくださいますでしょう?』
 ラクスにもキラの呟きが届いたのだろう。即座にこう問いかけてくる。
「もちろんだよ。どうして?」
 キラがきょとんとした表情で言葉を返した。
 しかし、それはある意味アスラン達のセリフでもある。
 自分を自分としてみてもらえる、と言うことが嬉しいのだ……とどうしてキラにはわからないのだろうか、と歯がゆく思ってしまうのだ。もっとも、それが周囲の連中のせいだということもわかっているから、アスランは強いことを言えないが。
『義理で祝っていただくよりも、心から祝ってくださる方のお気持ちの方がうれしい……と言うことですわ』
 ですから、ぜひいらしてくださいませ……とラクスは微笑む。
「……わかった……」
 そう言ってくれるなら、顔を出せるようにがんばる……とキラは口にした。
『嬉しいですわ。でも、ご無理はなさらないでくださいませね』
 来ていただけるだけで嬉しいですから……とラクスが言ったときだ。彼女の背後から声がかかる。
『残念ですけど、今日はもう時間ですわ。後で正式な招待状を送らせていただきますわね』
 また後で、と付け加えると、ラクスは通信を終わらせた。その瞬間、キラが小さくため息をつく。
「キラ」
 そんなキラの体をアスランは引き寄せる。そうすれば、キラの方がいつの間にか自分よりも一回り小さくなってしまったことにアスランは気づく。
「無理しなくてもいいんだよ?」
 ラクスだって、わかってくれる……とそのままアスランは囁いた。
「ラクスさんは好きだし……ニコル君にも久しぶりに会いたいし……」
 そんなアスランの言葉にキラはこう言い返してくる。
「……でも、プレゼント、どうしよう……」
 僕のお小遣いだと、そんなにいいものをあげられない……とキラは悩み始めた。
「キラが一生懸命考えた物なら何でも喜ぶと思うけどね」
 自分やニコルと同じように……とアスランは微笑んでみせる。
「でも……ラクスさんは女の子なんだよ?」
 女の子が好きな物はわからない……とキラはさらに困惑の色を深めた。女の子の友達は初めてだから、と。
「そう言われてみれば、そうか」
 考えてみれば、キラと一緒にいるだけでよかったのだ……とアスランは心の中で呟く。キラさえいてくれれば、どんなことでも我慢できる……と言うことは今でも変わらない。だが、自分の立場上、それではいけないのだ。キラを守るためにも、もっと周囲に目を向ける必要があるのだ、とアスランは気づいていた。
「母上に相談してみよう。どうせ、俺も何かプレゼントを考えないといけないんだし……」
 母であれば女性なのだから、何かいいヒントをくれるだろうと思う。
「そうだね。おばさまにお聞きすればいいよね」
 レノアに教えて貰えばいいと言う事に気がついて、キラもほっとしたような表情を作る。
「そうしたら、一緒に買い物に行こう」
 ね、とアスランが口にすれば、キラは即座に頷いた。



かなり複雑な思いを抱えていますね、アスランは……キラのためでなければ、絶対にキレているような気がしますよ、彼