翌日、キラはパトリックと共に評議会本部があるアプリリウス市へとシャトルで向かった。プラントの中でも一番初期に作られたコロニーは、自然と人工が見事な調和を作り出している。その事実に、キラは目を丸くする。
「見事だろう?」
 そんなキラの様子を微笑みながら見つめていたパトリックがこう問いかけてきた。それに、キラは首を縦に振ることで答える。目の前の光景に声を出すことができなかったのだ。
「ここは、古いだけに建物も多い。それに、面白いものもあるからね」
 後で見せてあげようといいながら、パトリックはキラの体を膝の上にのせる。
「それよりも疲れていないかな?」
 疲れると直ぐに熱を出すからね、君は……と言う言葉に、キラは思わず視線を伏せてしまう。
「……ごめんなさい……」
「こらこら。それは仕方がないことだろう? キラ君の場合第一世代で、しかもまだ子供だからね」
 体の方が上手くバランスが取れないのだろう、とパトリックは優しい口調で声をかけてくる。
「大きくなれば大丈夫だよ。コーディネーターと言っても、多少の差違はあるのだから」
 その分、キラ君は知力的には高いのだしね……と言う言葉にキラは直ぐに頷けない。それでも、パトリックが自分を心配して、そして慰めてくれている、と言うのはわかった。だから、小さく頷いてみせる。
「いい子だね、キラ君は……まぁ、もう少しちゃんと食べられるようになるのがその第一歩だろうがね」
 この言葉にはキラも納得しないわけにはいかない。
「……がんばります……」
「無理はしなくていい。逆に体調を崩しかねないからね」
 キラの言葉に、パトリックがこう言って微笑んだときだ。彼らを乗せたエレカが静かに停車をする。
「着いたようだ」
 その事実はキラにもわかった。だから、彼の膝から降りようとしたのだが……
「かまわないよ」
 この言葉と共にパトリックはキラを抱えて車を降りてしまう。当然のように周囲からは信じられないと言う視線がとんできた。
「あの、僕、自分で」
 歩けます、と、キラは口にしようとした。だが、
「それではよく見えないのではないのかな」
 バトリックに微笑みながら反論を封じられてしまう。こう言われてはキラが納得するしかないと知っていての言動だろう。こういうところはアスランと彼はよく似ていると、キラは思う。親子なのだから当然なのかもしれないが。
「それに、ここには入るといけない部屋もあるからね。キラ君は迷子になるのが得意なようだし」
 このパトリックの言葉にキラは頬を赤らめる。
 キラ本人にしてもその自覚はあるのだ。アスランがキラに一緒に行こうと言った理由の一つにはそれもあるに決まっている、とキラは思っている。
 しかし、それを面と向かって指摘されるのは恥ずかしい。
「ごめんなさい」
 キラはついついこう口にしてしまう。
「それこそ、謝ることではないだろう? キラ君の年齢ではよくあることだ」
 パトリックはそんなキラを慰めるかのように微笑んで見せる。
「それに、大人になれば直るよ」
 ただ、ここではこの方が都合がいいからね、と言う彼にキラは素直に従うことにする。自分のせいでここにいる者達の仕事を邪魔してはいけないと判断したのだ。それに、パトリックの言葉通り、この方が周囲がよく見える。
 キラが素直に抱っこされているのに気をよくしたのだろう。
「さて……まずはどこから案内するのがいいのかな?」
 キラ君の興味を惹きそうなところと言うと……と言いながらパトリックは歩き出す。そんな彼の様子が信じられないのか、周囲はさらに目を丸くしている。
「……おじさま?」
 ひょっとしてパトリックの評判を下げてしまうことになるのではないか、とキラは彼に声をかけた。
「キラ君が気にすることではない」
 堂々とした態度でパトリックは足を進めていく。
「キラ君が可愛いから、みんな見ているだけだ」
 この言葉を、キラは信じられないと思う。
「……可愛いって言うのは、ニコル君のことで……美人ならアスランだと思いますけど?」
 少なくともその範疇に自分は入っていない、とキラは言外に告げた。
「見た目と性格は違う。アスランもニコル君も、外見ではなく中身は『可愛い』と表現できない。もっとも、それが当然なのだがな」
 だから、そんな彼らのためにもキラは『可愛い』性格でいてくれた方がいいのだ、と柔らかな笑みをパトリックは浮かべながら言う。
「キラ君のその性格がアスランにとっては救いになっているようだしな」
 自分のおかげで、アスランが本心を見せてくれるようになった、と付け加えられて、キラはそうなのだろうかと小首をかしげる。キラが知っているアスランは、出逢ったときからずっとそうだったのだ。
「と言う話は置いておいて……ごらん。あそこがここの警備システムを監視している所だよ」
 この建物に入る人間は、ここで全てIDをチェックされ、不審な点があれば即座に捕縛されるのだ、とパトリックは説明の言葉を口にする。
「ここのシステムは、プラントに適応するように改変されてはいるが、元はと言えば、キラ君のお父さんが作られたものだ」
 ナチュラルであろうと、才能がある方は認められる。キラも、そんな父を誇りに思いなさい、と付け加えられれば知らず知らずのうちに微笑みが浮かんでしまう。
「……パパのお仕事って、他にも人の役に立っているんでしょうか?」
 その表情のまま、キラはパトリックに問いかける。
「もちろんだとも。と言っても、ここにあるのは警備システムだけだが……後で調べておいてあげよう」
 見学できるところであれば連れて行ってあげようという言葉に、さらにキラの笑みは深まっていく。
「と言うことで、中を少し見てみるかね? モニターに映っているところで行きたいところを見つけてみるのもいいかもしれないな」
 そうすれば、効率的に回れる経路を考えられるし、自分が見せたい場所だけではなく、キラが見たい場所にも行くことができるだろう、とパトリックは付け加える。
「そんなに、いろいろなところがあるのですか?」
「もちろんだよ。ここは、プラントの全てを決定する場所でもあるからね」
 ここ以外にも警備のシステムはあるが、そこは見学できないのだ……とパトリックは説明してくれた。
「普通の人には内緒にしておいた方がいいだろう?」
 違うかな、と言われて、キラは小首をかしげて考える。
「誰かが、会議の様子をこっそりと覗いたりしないように、ですか?」
 それとも、誰かがパトリック達を傷つけたりしないようにだろうか……とキラは思う。でもそんなことをする人はここにはいないと信じているのだが。
「まぁ、そんなところだよ」
 キラの答えに、パトリックは頷いてみせる。
「ほかにもね。キラ君みたいに好奇心旺盛な人間がハッキングなんかをしてくる可能性もあるしね」
 微笑みと共に付け加えられたこの言葉に、キラは体をこわばらせてしまう。まさかばれていたとは思わなかったのだ。
「マザーに侵入さえしなければ、多少のことは大目に見てあげよう。子供にハッキングされるようでは、結局はそこのシステムが甘いと言うことだ」
 そのくらい好奇心旺盛の方が、将来見込みがあると言うことだ、と付け加える彼に、キラはますます言葉を失ってしまう。
「……おじさま……」
「さて、次は議場かな? それとも、控え室の方がいいか」
 そちらはそちらで楽しいモノがいろいろとあるのだよ、とパトリックはいいながら、再び歩き出す。
 そんな彼の腕の中で、キラはあれこれ考え込んでしまう。だが、彼の説明を聞いているうちにそのことに関しては、直ぐ頭の隅に追いやられてしまった。



アスランがいないから、遠慮なくキラを甘やかしています、ザラパパ……いいのか、それで(^_^;