いくらザフトの一員となったからとは言え、元は同じ軍に所属していた者と戦うことに抵抗があるのだろうか。ナチュラルの兵士達は微妙に志気が下がっているようにアスランには思えた。
「……フラガさんだけは、さすが……と言うべきなのだろうがな」
 彼は根っからの軍人なのだろう。
 それとも、連合軍の中では異端の存在だったからなのか。
 普段と変わらない様子で、淡々と命じられた任務をこなしている。それがまたコーディネイター達の中で彼の信頼感をます働きをしていたのは事実だ。
「それとも、彼らに含むところがあるのか……」
 地球軍が《キラ》に行おうとしたことを考えれば当然かもしれない、とアスランは思う。それに彼がどれだけ憤りを感じていたかも、彼の言葉の端々から推測をすることが出来たのだから。
 その時だった。
 アスランの耳に端末からの呼び出し音が届く。
「アスラン・ザラだ」
 即座に端末を操作し、用件を尋ねる。
『ニコル・アマルフィーから通信が入っております』
 一瞬何があったのだろうか……と思ってしまう。だが、それを表情に出すことなくアスランは頷く。
「つないでくれ」
 こう命じれば、即座に端末のモニターに映し出されていた顔がニコルのそれへと変わる。
『すみません。休憩中でしたか?』
 こう言いながら、ニコルはあの人をほっとさせるような微笑みを浮かべて見せた。
「いや。今のところは何もないし……たいていのことはフラガ氏が俺の代わりを務めてくれるからな」
 それだけ信頼を置ける相手だ、とアスランは笑いながら付け加える。
『さすがは《エンデュミオンの鷹》って言うことか』
 アスランのこの言葉に答えを返してきたのはニコルではなかった。
「……ディアッカもそこにいるのか?」
 珍しいこともあるものだ、と思いながらアスランは確認の言葉を口にする。
『いや。ちょっとクルーゼ隊長の所へ報告をしに、な』
 姿を見せたディアッカがく苦笑を浮かべながら言葉を口にし始めた。
『で、うちの所にいる整備の――マードックか。元足つきの整備主任だった奴なんだが、妙なことを口走ってくれてな……』
 気を許し始めてくれたのか、口を滑らせたんだろうな……とディアッカは笑う。
「……キラが……生きているとでも言ったのか?」
 アスランが、ふっとこう呟く。
『何だ……知っていたのか』
 それにディアッカがあからさまに残念という表情を作る。
「知っているわけじゃない。そうじゃないか……と思っていただけだ」
 フラガの言葉から……とアスランは付け加えた。
『あの方がそんなミスを?』
 信じられないと言うようにニコルが問いかけてくる。
「と言うより、無意識なんだろうな。絶対あの人はキラのことを過去形で話さないんだ」
 一度も……それがキラが生きているという証拠だろうと、アスランは続けた。
『なるほどな。マードックと同じか。彼は、キラ・ヤマトは何があってもあいつらに協力しないと言い切ったんだよ。出来ない、じゃなくてな』
 その言葉尻を捕まえて問いつめたのだ、とディアッカが告げる。
「……で、キラが生きていることを認めたと」
『あぁ……ただし、どこにいるかは知らないらしい。知っているのは、上の二人だけだそうだ』
 そのうちの一人がフラガであることは言うまでもない。もう一人は、ラミアスだろう。
「……俺たちは、彼らの待遇に関して大きなミスを犯したのかもしれないな……」
 ふっとアスランは言葉を口にする。
『アスラン?』
 一体どういう意味だ、と二人が無言で問いつめてきた。
「今、あちらこちらで馬鹿な事をしている連中のような行動を取らせないように、と、彼らの個人的な連絡を制限してきたが……それが逆に彼らの意思疎通を阻んでいたのかもしれないな、と。そのせいで、キラのこともどうするべきか判断できないでいるのかもしれない……」
 もし、ザフト側が彼らをどう扱っているか、共通認識がはかられていたら、彼らはもっと早く自分たちに《キラ》のことを打ち明けてくれていたかもしれない、とアスランは付け加える。
『その可能性はありますね……彼らの今の態度を確認してから、その規制を解除するかどうか、検討するように上申してみましょう』
 ニコルが納得したというように言葉を口にした。
『そうだな。他の連中の状況を知りたがっていたし……』
 あいつらはもう現状をひっくり返そうなんて事は考えていない、とディアッカも頷いている。
「でないと、結婚ができないと言っている方もいるしな」
 雰囲気を変えようとするかのようにアスランはこういった。
『そうなのですか? それはまずいですね……あれからもう2年以上ですし……女性の方が心変わりをすると言う可能性もありますし……』
 即座にニコルが話題に乗ってくる。
「あぁ……フラガさんはラミアスさんと将来を誓い合っているんだそうだが、今の状況ではラブレターもままならないとおっしゃっていたな。一応、ラクス経由で何とか連絡を取り合っては貰っているが」
 オフレコだぞ、と笑いながらアスランが言葉を口にした。
 その後は、それぞれの隊にいる者たちの話題が会話に上る。それを伝えたら、フラガはよろこぶだろうか……と思うくらい、アスランは彼を気に入っている自分に気がついていた。