一体どこに潜んでいたのか。
 ここしばらく、地球連合軍の残党――と言うよりはブルーコスモスと言い直すべきだろうか――があちらこちらで騒動を起こしてくれていた。そのおかげで、アスランの隊もかなりあちらこちらへと飛ばされることになっている。
 だが、逆に言えば、この忙しさが今のフラガにはありがたかった。
 アスランと個人的な話をする時間が減るからである。
 彼と話していると、どうしても罪悪感を感じずにはいられないのだ。
 それはキラを戦いに巻き込んでしまったということに関してだけではない。まだ彼のことを大切に思っているらしいアスランに、彼の行方について教えることが出来ない……と言うこともだ。
「……しかし、あいつらも諦めればいいものを……」
 少なくとも、コーディネイターに対し叛意を表に出さなければ、さほど差別をされることはない。それどころか、ナチュラルでも経験や技量を持っている者はそれなりの敬意を受けることすら可能なのだ。派閥と言ったものがないだけ昔よりも環境がいいと思う者も多いのではないだろうか。フラガのようにコーディネイターにこだわりを持っていない者たちは特に。
 しかし、それを認められない者もいる。
 その多くは連合の中で主流派に属していた者たちだ。
 彼らは『ナチュラル』が『コーディネイター』よりも優位に立っていなければ気が済まないらしい。
「馬鹿馬鹿しいったらありゃしないよな」
 そうしてまた戦争を起こすのか……と考えるとため息が出てしまう。
 その結果、苦しむのは『少年』達なのだ。
 また『彼ら』のような被害者を増やすつもりなのか……と思うと、怒りがわいてくる。
「そう言う馬鹿は、やっぱり早々につぶしておくに限るよな」
 うっそりと笑いながらフラガがそう呟いたときだ。
「その意見には賛成ですね」
 アスランの声が背中に向かって飛んでくる。
「……一体どこから聞いていたのですか?」
 彼に視線を向けながらフラガは思わずこう問いかけてしまう。
「そうですね……諦めればいいものを……というあたりでしょうか」
 その答えに、フラガはアスランの気配に気がつかなかったと言うことにショックを覚えると同時に、その前に呟いていたあれこれを聞かれなくてよかったと思ってしまった。
「そうですか。で、何か?」
 とりあえず機体の整備をしていればいい自分とは違って、アスランには隊長としてあれこれ仕事があるはずなのだ。そんな彼がわざわざ自分に声をかけてきたのは何か用事があるに決まっている、と判断してこう問いかける。
「何かと言われても……姿を見かけたので声をかけただけなのですが」
 いけませんでしたか? と問いかけられて、フラガは困ってしまう。そう言ったアスランの表情がどこか《キラ》を思わせるものだったのだ。
「いえ、そう言うわけでは……ただ、忙しいのではないかと思っていましたので」
 声をかけられるとは思っていなかった……とフラガは苦笑とともに告げる。
「ですので、気分転換に付き合って頂こうかと」
 さすがに息が詰まってきたので、と付け加えられてはフラガとしても頷かないわけにはいかない。それと同じ気持ちは自分も何度か味わったことがあるのだ。
「かまいませんが」
 そう言いながら、フラガは今まで腰を下ろしていた床から立ち上がる。
「ラクスから、ぜひ聞いておいて欲しいと言われていることもありますし」
 アスランが苦笑を返しつつフラガに言葉をかけてきた。
「……また答えられないようなことを……」
 聞いてきたな、とフラガが小声で付け加える。
「まぁ、それも彼女の親愛表現だと思ってください」
 悪気はないので……と付け加えるアスランの言葉に、フラガは最初に彼女と会ったときのことを思い出す。
 ふわふわとつかみ所がない、だが、その裏では何かしっかりとした意思を感じさせた少女。憎めない、と言うのがフラガの第一印象だった。
「喜ぶべきなのでしょうね……ザフトの歌姫の親愛表現は……」
 プラントの象徴でもある彼女に好意を向けられているというのは、自分にとってプラス材料であると言うことをフラガもわかっている。だが、それでも限度があって欲しいと思うのはわがままなのだろうか。
「そのうち慣れますよ」
 たぶん……と付け加えるアスランの口調にほんの少しだけあきらめが滲んでいるような気がしたのは、フラガの気のせいだろうか。
「……お姫様と初対面で平然と付き合っていられるのは、やっぱり坊主だけか……」
「キラなら、ラクスでも平気でしょうね」
 フラガの呟きにアスランも同意を示す。
「……坊主とお姫様はどこか似ているところがあるからな」
 何気なく自分が口にした言葉に、アスランが一瞬、何かを考えるような表情を作ったことにフラガは気がつかなかった。