「言われてみれば……その可能性は否定できないな……」 アスランの言葉を耳にしたクルーゼがため息混じりに頷いている。 「あそこに駐留しているのは……シラー隊長の隊だったな。彼がここ最近、本国へ戻ってきているとは聞いたことがない。会議にも回線越しに参加しているだけだ」 それがCGでないとは言い切れないか……とクルーゼは眉を寄せた。 「ですが、もしそうだとすると……かなりの技術者があちらにいる……と言うことになりますね」 誰が見ても違和感がない画像に音声まで……とニコルが考え込む。 「……もっといや〜な可能性を思いついたんだが……」 そんな彼らの耳に、フラガのこんな言葉が届く。 「聞かせて貰おうか」 お前が連中の思考を一番よく知っているだろうからな、とクルーゼが言葉を返す。 「不本意だがな」 ナチュラルである以上、文句は言えないか……とフラガは付け加える。 「命はあるが生きているとは限らないって言う可能性、だよ」 お前もその実験は見たことがあるだろう、とフラガはクルーゼへと言葉を投げつけた。 「……あれか……」 それに答えるかのように、クルーゼが言葉を吐き出す。その口調からは嫌悪しか感じ取れない。 「確かにあれなら、CGなどより手軽だろうな」 もっとも、そうだとしたら殺してやった方が本人のためだろうが……とクルーゼは付け加える。 「クルーゼ隊長? フラガさん?」 しかし、アスラン達には彼らが何にあれだけ嫌悪を感じているのかわからない。 「……詳しい話を教えて頂けますか?」 それがどんなに嫌悪を催すものだとしても聞かないわけにはいかないだろう。アスラン達の瞳がそれを告げている。 「聞かない方が身のためだと思うがな、俺は」 それに対するフラガの言葉はこれだった。 「お前達が知る必要がない内容だ。と言うより、それに関して広めるわけにはいかない……と言った方が正しい事柄だとも言えるが」 彼らのこの言葉がアスラン達にそれ以上の質問を許さない。 「と言うことは、なんだ? 確認するにしても、俺が行くしかないのか」 今気がついたというようにフラガが言葉を口にする。 「お前を野放しにできるか! 第一、お前ではシラー隊長に面会をすることもできまい。私が行こう。もっとも、付き合って貰うが」 他にも、あの件に関わったものを選別する必要があるな……とクルーゼは考え込む。 「……何か、厄介なことのようですね」 「あぁ……そして、俺たちが知らなくていいこと……と言うことは、キラにとっては余計に……と言うことなんだろうな」 どのような非道な実験だったのか。それを問いかけたい気持ちはもちろんアスランにもある。だがそれ以上に、自分が知ったことでキラが悲しむのであれば知らないままにしておいた方がいいだろうとも思う。 そこまで考えた瞬間、アスランは自嘲の笑みを口元に浮かべてしまった。結局、自分はあくまでも『キラ』中心に生きているのかと。キラに受け入れて貰った日からそれがさらにひどくなったような気がするのは気のせいではないだろう。それを後悔する気はさらさら無いが。 「でしょうね……しかし、クルーゼ隊長がご自分で動かれるとは……あの時以来ですか」 「だな……ことが大きくならなければいいが」 これ幸いと本国を狙ってくるものもいるのではないか、とアスランは付け加える。 「それはそれでいいのですけどね。はじめからそれを見通して対処を考えておけばいいのですから」 クルーゼのことだ。最初からそうするつもりなのだろうとニコルは口にした。 「逆にそうして貰った方がいいとも言えると?」 「えぇ」 罠をしかけられますから、と微笑むにこるにアスランは苦笑を返す。 「では、そちらに関してはニコルに任せよう。俺は……キラに付き合ってあの無人機に対する対処法を探すか」 それだけでかなり違うはずだ……とアスランが口にすれば、ニコルも頷く。 「……となると、病室内だけでは不都合が出ますね……やはりキラさんにはまた、本部に来て頂くことになりますか」 ラクスが怖い、とため息をつくニコルに、アスランは同意をするしかない。昼間はキラを独り占めできる――と言っても、側にはラミアスがいるが――ことを楽しみにしている彼女から、キラを引き離すとなると、また一悶着起きるのは目に見えていた。だが、現状では仕方がない。 「……あるいは、あそこに予備の施設を作ってしまうか、だな。そうすれば、ニコルもあそこで仕事ができるぞ」 「あぁ、それはいい考えですね」 ついでに、ブリッツも待機させておきましょうか……と告げる彼に、アスランは笑顔で頷き返した。 二人が言ったことに、キラは目を丸くし、ラミアスはため息をついている。ただ一人、ラクスだけが喜んでいた。 「二人が一緒でしたら、キラ様の食もお進みになりますでしょう? 本当はフラガさまもご一緒の方がよろしいのでしょうけど……お仕事では仕方がありませんものね」 あのふわふわとした微笑みを浮かべながら、彼女はこう告げる。 「……フラガさん、どうして……」 アスランじゃなくクルーゼ隊長さんと一緒なのかな……とキラは疑問を抱いているようだった。ニコルが残っているというのも、それに拍車をかけているのかもしれない。 真実をキラに告げるわけにはいかないだろう。だからといって、適当な理由ではキラが納得するわけがない。 さて、どうしようか……とアスランは悩む。 「クルーゼ隊長の任務に、あの方の知識が必要なのだそうですよ。でも、あの方がいなくなられるとキラさんに万が一のことがあったとき手が足りなくなると言うことで、僕が居残りになったわけです」 一時的なポジションチェンジですよ、とニコルが微笑んだ。その内容にはキラも文句がつけられなかったらしい。 「……直ぐに戻ってきてくれればいいんだけど……」 こう呟くだけでキラはそれ以上の質問を口にしようとしなかった。 「なんだ? キラは側にいるのが俺だけじゃ不安だとでも?」 キラの気持ちを少しでも明るくしようと、アスランはからかうような口調でこう問いかける。 「違うよ……ただ……」 即座に否定しかけて、キラは口をつぐむ。 「ただ、どうなさいましたの?」 そんなキラにラクスが即座に問いかけの言葉を投げかけた。 「多分気のせいだと思うんだけど……ちょっと不安を感じただけだから……」 何でもないならいいんだけど……とキラはため息混じりに付け加える。そのセリフに、アスランはさりげなくニコルと視線を合わせた。そして小さく頷きあう。 「何かあっても大丈夫だ。フラガさんの実力はキラも知っているだろう? それに、あの人のMSにはキラが作ったOSが搭載されている。それでかなり性能がアップしていることは事実だよ」 それに、クルーゼも一緒だから心配いらない、とアスランはキラに言い聞かせた。もしここにいるのが自分たちだけであれば、その体をきつく抱きしめてキラが納得するまで囁いていたことだろう。 「僕が作ったOSなんて……」 たいしたことはないとキラは視線を落とす。 「そんなことないですよ。キラさんが作ったOSはザフトの開発局でも高く評価されています。自信を持ってください」 「ニコルがこういうのでしたら間違いありませんわね。キラ様、少しはご自分に自信を持たれた方がよろしいですわ」 二人にこう言われて、キラは困ったようにアスランを見つめる。 「俺も二人と同じ意見だよ、キラ」 そんなキラにアスランが苦笑を返した。 「キラの実力は俺たちと比較しても劣っているわけじゃない。だから、もっと自信を持っていいんだ。もっとも……高慢になっちゃダメだけどね」 キラの性格だとそれは考えられないか……とアスランは付け加える。 「ともかく、フラガさんのことは気にしなくていい。他のメンバーも皆熟練の兵士だ。何かあっても他の隊が駆けつけるまでは持ちこたえられるはずだ」 それに、イザーク達と合流するのも容易だし……と言われて、キラはようやくほっとしたような表情を浮かべた。 「ラクス……すみませんが、これからちょっと機密事項を含んだ話になりますので」 席を外してもらえないか、とニコルが告げる。 「お仕事では仕方がありませんわね。ラミアスさんのお手伝いをしてまいりますわ」 ラクスは微笑みを浮かべるとこう頷いてみせた。そしてそのまま部屋から出て行く。このあたりの割り切りの良さは彼女だからだろうか。 「アスラン? ニコルさん?」 キラの表情にまた不安がよぎる。 「この前の無人機のOS……その中からリモートコントロール部分に関する部分を探して欲しいんだ。それを使って、こちらで対処を考える」 妨害をして、動きを止められれば、それだけでこちらの負担が軽くなる、とアスランがキラに説明をした。 「あるいは、キラさんに一緒に一度プラントの外に出ていただこうかと……さすがにこれを彼女の前で言うと怖いので」 ちょっと席を外して貰ったのだ、とニコルは苦笑混じりに口にする。 「ラクスって……そんなに怖いの?」 そうは見えない、とキラは本気で悩み始めた。その悩みの原因がかなりずれているような気がするのはアスラン達の気のせいではないだろう。だが、それもまた《キラ》らしいとアスランは思ってしまった。 「キラさんには向けないでしょうけどね。起こらせると怖いです、彼女」 そこがまた魅力的なのですが……とニコルが微笑んでいる。 「そういえるのはニコルだけだよ」 アスランはこの一言でそれ以上の言及を避けた。 「……アスラン? 何かおっしゃりたいことがあるのであれば、はっきりと言って頂けます?」 ニコルが笑顔を張り付かせながらこう口にする。 「キラ。あまり無理はしなくていいからな」 それを聞こえなかったことにして、アスランはキラにこう呼びかけた。 「無理……はしていないつもりなんだけど……」 いつも、と付け加えながら、キラは既にパソコンを起動させ始めている。キラが愛用しているノートパソコンには、増設用のコードが接続されていた。それはここ数日で増やされたものだ。 キラがザフトに協力をしていなければ――あるいはあのOSのベースががキラ達のものでなければ――必要なかったそれらに、アスランはかすかに眉を寄せる。 だが、今の状況ではキラからそれらを取り上げることはできない。 「……していないと思っているのはキラだけだって」 苦笑混じりにこう言葉を返しながら、アスランは早くそれらが必要にならないようにしてやらなければ……と思う。 もっとも、キラの才能その他を考えると、ザフトから完全に離れることは不可能だろうが…… 「ともかく、疲れが見えたら即座に休憩させるからな。それと、治療の方はきちんと受けろ」 もっとも、自分が言わなくてもラクスが口を出すだろうが、とアスランは苦笑を浮かべる。 「そうですよ、キラさん。本当はもっと本格的な治療を受けて頂きたいのですが、今の状況では……」 ゆっくりと治療に専念させられず申し訳ない、とニコルが言葉を付け加えた。どうやら、彼の脳裏から先ほどの会話はとりあえず払拭されたらしい。 「気にしないでください。僕のことなんて優先順位は低いですから」 そう微笑むキラに、二人とも返す言葉を失った。 |