アスラン・ザラ。 自分よりも一回りも年下の――それは《キラ》と同じ年だと言うことだ――イージスのパイロット。 それがフラガの新しい上司だった。 若いからと言って、彼が無能であるわけではない。むしろ《軍人》としての意識が確立しているだけ、フラガとしては過ごしやすい。そして、何よりも彼には自分に対する好意らしきものすら感じられた。 「……どうして、と、お聞きしてかまわないのでしょうか?」 彼と二人だけで話機会を得たとき、フラガは思わずこう問いかけてしまう。 「どう、とは?」 その言葉に、アスランは不思議そうなまなざしでフラガを見つめる。 「……自分は、もう少し監視されるかと思っていたのですが。でなければ、行動を制限されるとか」 実際、死罪は免除されたとしても、もう少し悲惨な環境に置かれたとしても誰も文句は言わないだろう。ところが、ここでは最初から予想以上の厚遇を与えられていると言っていい。 さすがにそれなりの制限はある。 例えば、まだアークエンジェルのメンバーと自由に連絡を取り合うことは許されていない。それは彼らがまだ自分たちを完全に信頼していないからだろうとフラガが思っていた。同時に、それだけの脅威を自分たちは彼らに与えていたのだと。もっとも、それは自分たちの実力ではなく《キラ》の存在がもたらしたものだと、フラガは知っていた。 「有能な人材は、どこに行っても必要とされる……と言うことですよ」 それにアスランは微笑みとともにこう言い返す。 「貴方の実力は、あの戦いの中で十分わかっていますし……下手に弾圧をして再び敵対されては困りますから」 そんなフラガに、アスランは苦笑を向ける。 「……そこまでバカじゃないつもりだがな、俺は」 フラガがほんの少しだけむっとした口調で言葉を返した。 「わかっています。そのような方でしたら、私の隊には来て頂きませんよ」 アスランは、さらに笑みを深める。 「それに……私個人としては、ぜひ貴方とお話をさせて頂きたいことがありましたので」 その表情のまま告げられた言葉に、フラガは器用に片眉だけ上げて見せた。 「自分が貴方とお話でる事は、せいぜい、戦いのことぐらいだと思いますが?」 「個人的に、あの戦いの中のことでお聞きしたいことがあるのですよ」 そう言うと、アスランはふっと視線をそらす。その先に何があるのか、フラガにもさすがにわからない。 「……恨み辛みをお聞きする覚悟はありますが……」 敵対していた自分にはそのぐらいことは最初から覚悟していた、とフラガは心の中で付け加える。 「いえ。それに関してはもう決着が付いていますし……今更蒸し返すことはないでしょう。あなた方は十分、それに対する負債を背負っておいでですから」 アスランが言っている負債。 それは、フラガ達の子供は必ずコーディネイトするようにとのことだろうか。 「それは……当然のことだと理解していますが?」 戦争に勝ったとは言え、コーディネイターはナチュラルと比べると圧倒的に数が少ない。新しい血を求めなければならない以上、フラガ達の子供をコーディネイターにすることは当然だろう。もっとも、ブルーコスモスよりの連中にとって見れば耐えられない話だろうが。 「……まぁ、子供なんぞ、当分考えられませんが」 自分の遺伝子を持った子供よりも、先に取り戻したい『オコサマ』の存在がフラガにはある。 最後まで自分を信じ切ったまなざしで見つめていた彼。 自分たち以外からの誰からも忘れ去られ、ひっそりと時を止められている少年を再び世界の中へ帰してやるまでは、自分たちの幸せはない。 フラガはラミアスと別れる際、それだけは確認してある。 「そうですか。難しいものですね」 苦笑とともにアスランはフラガへと視線を戻した。 「あなたの子供であれば、かなり優秀でしょうに」 遺伝子を操作され、優秀な知力と体力を与えられたコーディネイターとは言え、やはり多少の優劣は存在している。第一世代であればなおさらだ。それが両親の遺伝子に起因していることは既にわかっていた。 「……約束をしたんですよ。恋人と……我々が戦争に巻き込んだ子供達が全員幸せになるまでは自分のことは後回しにしようと」 ですから、お気遣いなく……とフラガは付け加える。 「そうですか」 アスランは小さく呟く。 「……お互い、多くの者を失ったのかもしれませんね」 アスランのこの言葉の裏に隠された意味を、フラガはまだ知らない。 それも無理はないだろう。 彼らのつながりを知らないのだから…… 「それが戦争でしょう」 フラガはアークエンジェルの中でキラに向かって言った言葉をアスランへと告げた。 |