「キラ!」
 言葉とともにアスランが駆け寄ってくる。その姿に、フラガがかすかに安堵のため息を漏らしたのがキラの耳に届いた。
「何が起きているのか、聞いてもかまいませんか?」
 キラの前で立ち止まったアスランに、フラガがこう問いかける。
「でなければ、こちらとしても動きようがありませんので」
 アスランがこの場に駆けつけたのであれば、自分は必要と思われる装備を手配してこようかと思う、とフラガは付け加えた。
「それはそうだが……ともかく、キラの側から離れるのは得策じゃないだろうな。どうやら、連中はMSまで持ちだしているらしい」
 ニコルが今確認に言っている、とアスランは眉をひそめる。
「MSですか」
 一体どこから……とフラガは顔をしかめた。
「……だからといって、コーディネイターだとは言い切れませんからね、犯人が」
 キラがオーブで手がけたナチュラル用のOS。それが連合軍に流れて量産機が作られたのは事実だ。戦争後、あちらこちらに流出したらしいジンをナチュラルが操縦していると言うこともないわけではない、とフラガはキラに説明をした。
「……僕が、あれを作ったから……」
 キラが即座にこう口にする。
「じゃないだろう。あの時、お前がモルゲンレーテに協力してくれたから、俺たちは補給も修理も受けられた。それを勝手に使っている連中のことまで責任を持たなくていい」
 そこまで誰もお前に責任を取れなんて言わないから、とフラガはキラに言い聞かせた。
「そうだな。あの頃は仕方がなかった。大切なのはこれからのことだろう?」
 キラがこれからどうしていくか、が大切なのだ……とアスランも口にする。
「そのための手伝いならいくらでもして上げるから」
 ね、と言われて、キラは小さく頷く。
「ともかく……キラは何も心配しなくていい。ただ、俺たちから離れないで」
 でないと守ってやれないから……と言う彼に、
「僕だって……」
 とキラは何かを言い返そうとした。
「やめとけ」
「キラには無理だよ。人間に銃口を向けられないだろう?」
 だが、二人から即座に否定の言葉が投げかけられる。
「……それよりも、いっそ、あの中に閉じこもるか? そうすれば、間違っても拉致されることはないか」
 狭いが、その気になれば二人でも大丈夫だろう……とフラガが指を指したのはストライクだった。
「得意だろう、お前。あの中にいるのは」
 フラガがキラの気分を引き立てようとこんなセリフを口にする。
「……別に得意なわけじゃ……」
 彼の言葉が何を指しているのか、キラにはわかったのだろう。即座に言い返そうと口を開く。
「だが、しょっちゅう籠もっていたよな? マードックが困って俺に相談を持ちかけてくる程度には」
 まぁ、その瞬間、キラの頬に朱が散る。
「そう言うことをしていたんだ」
 あきれたのかなんなのか、複雑な視線をアスランはキラへと向けた。
「でも、確かにあの中が一番安全かもしれないね……ニコルが戻ってきたら、一緒にコクピットに籠城するか」
 その方が守りやすいかもしれない、とアスランが考え込む。
「ですな。俺の方はニコルの方へ行きますから」
 さすがに三人は無理だろうとフラガが笑う。
「でも、フラガさん……」
「大丈夫だ。お前が安全なところにいてくれれば、多少の無理も出来るしな」
 キラに向かって、フラガは微笑む。
「俺は一応軍人としての訓練を受けている。お前さんを放り出すよりマシだろう。それに、いざとなったら、あれで援護してくれればいい」
 頼むな、と、あの頃と変わらない笑顔で言われれば、キラに逆らえるわけがない。
「……わかりました。でも、無理はしないでくださいね。怪我をしたりしたら、悲しいですから」
 これだけは譲れない……というようにキラはフラガをまっすぐに見つめる。
「わかってるって。そんなことになったら、お前を守ってもやれなくなるからな」
 それよりも、自分の方こそ無理をするな、と言われて、キラは素直に頷く。ここでこれ以上だだをこねても、事態が好転しないと判断したのだ。
 同時に、MSが動いているのであれば、いつでもストライクを起動できる状況にいる方がいいだろうと判断したのもまた事実である。
 もっとも問題がないわけではない。
 一緒に乗り込むアスランが、果たして『キラがストライクを操縦する』ことを許してくれるだろうか。
「そうですね。俺としても、今フラガさんにいなくなられるとあれこれ困りますから」
 そんなことを考えていたキラの耳に、アスランのセリフが届く。それは、彼に対する信頼感があふれていた。
「これは……意地でも怪我できないってことか……それで失敗しても怒らないでくださいよ」
 フラガの口調はあくまでも軽い。
「今回は仕方がないですからね。ニコルにもそう言っておきましょう」
 こちらはラクスが怖いといい返すアスランの口調も軽いものだった。二人のそれがわざとだろうとキラは思っている。だが、それを指摘することは彼らの好意を無駄にすることだともわかっていた。
「……こんな事、早く終わればいいのに……」
 その代わりというように、キラはこう呟く。
「大丈夫だ。直ぐに終わらせる」
 そのために、自分たちは戦ってきたのだから……とアスランが微笑んだ。