「一体何事だ!」 この警報は当然クルーゼ達の耳にも届いていた。 「わかりません。どうやら小規模な爆発があったようですが、どう考えても起こるはずのない場所でのものでしたので、今確認を……」 彼の言葉に、控えていた兵士が答えを返す。 「大至急だ」 そう言いながら、クルーゼはふと何かを考えるような表情を作った。 爆発する要因がないというのであれば、故意に引き起こされたことだと考えるのが妥当だろう。 そして、誰が行ったのかはわからないが、意味のない行為とは思えない。あるいは、自分たちの目を引き付ける陽動という可能性もあるのではないか、と言う可能性は否定できないだろう。 「それと、開発局へ連絡。キラ・ヤマトから目を離すな、とニコルに告げろ!」 もし、相手の目的が自分たちの視線を一カ所に集める事なのだとすれば、何から視線をそらせたいのか。 そう考えれば、導き出される答えは現在、一つしかないだろう。 キラから全員の視線をそらす。 その隙に、その身柄を拉致しようと考えたのではないか。 クルーゼはそう判断をしたのだ。 「……もっとも、それが事実なのだとしたら、我々も馬鹿にされたものだな」 確かに、一瞬はキラから目が離されるかもしれない。だが、全員のそれが離れるとは限らないのだ。どれだけ大人数で来られたとしても、他の者たちが応援に駆けつけるまで、持ちこたえられるだろう。 そして、少なくとも今キラとともにいるフラガが、この状況でも目を離すとは思えないのだ。 そう信じられる程度には彼のことを信頼していると言っていい。 彼がキラのことを大切にしていることは間違いのない事実だ。そして、本人もそれを隠そうとはしない。いや、彼だけではなく、キラの周囲にいる者たちは皆その感情を隠そうなどとは思っていないようだ。 それがキラに『自分が必要とされている』と自覚させるためだと言うことはクルーゼも知っていた。 でなければ、キラは自分自身を否定しそうだと言うことも、その言葉の端々から伝わってきていたのだから。 「本当、世の中はままならないものだな」 平和に暮らしたいと願っている者の安全すら確保できない可能性があるとは、とクルーゼは自嘲の笑みを口元に浮かべる。 「アスラン・ザラから連絡。開発局へ到着したそうです。以後、ニコル・アマルフィーと行動をともにすると」 先ほどとは別の兵士がクルーゼへと報告の言葉を投げかけてきた。 「そうか。では、そちらは彼に任せよう。爆発の原因を特定することに集中させろ」 刻々と変わる状況を分析しながら、クルーゼは次の指示を口にする。 「……隊長!」 その彼の耳に、驚愕を隠せないと言う声が届いた。 「何だ?」 「MSが攻撃をしかけてきているそうです!」 信じられないという感情が如実に表れている声に、さすがのクルーゼも注意をすることは出来ない。 「MSとは……やはり、ザフト内に奴らの手先がいると言うことだな」 ストライクをはじめとするGのデーターは終戦時に全て破棄させた。そして、その製造のための物資はオーブとともにプラントが厳重に管理している。どこかで不正が行われていなければ、MSが反乱分子の手に渡ることはないはずなのだ。 「ともかく、現状を何とかしなければならないか。イザークとディアッカ達の隊に連絡をしろ。早急に戻ってくるようにと」 外の者たちは彼らに任せればいいだろうと言うクルーゼの言葉はあくまでも冷静だ。それが部下を落ち着かせると知っていての行動である。 指揮官があくまでも冷静だからだろうか。周囲の者たちにも冷静さが戻り始める。 「……了解しました。後、待機しているMSを発進させます」 自分たちの判断でそれぞれのなすべきことを判断し始めた部下達に、クルーゼは満足そうな微笑みを浮かべる。 「任せる」 彼らが自分で判断を出来るのであれば、その間、自分はさらに大局的な視点で状況を判断できるだろう。 「さて……このままでは終わるまいな」 後はお前達次第か……と呟く言葉が誰に向けられたものか、それはクルーゼ以外知るものはいなかった。 「本国が敵襲を受けている?」 イザークは一瞬自分の耳が信じられないという表情を作った。 「はい。何者かはわかりませんが、MSを有していると……」 その言葉に、イザークはさらに渋面を深める。それが自分の周囲にいる者たちにどのような反応をもたらすかわかっていてもだ。 「……最大船速で戻れば、どれだけで辿り着ける?」 その問いかけに、即座に航法担当の兵士が計算を始める。 「3時間以内には……」 この言葉はイザークにとって満足出来るものではなかった。だが、自分が乗っている艦の性能を考えれば仕方がないことだろう。 「……デュエルだけなら、どれだけかかる?」 ふっと思いついたというように、イザークが次の問いかけを口にした。 「2時間弱です」 ただ、バッテリーの残量は確約できないと彼は口にする。 「では意味がないな。本国の守備隊が持ちこたえていることを期待するか。多少艦が壊れてもかまわん。全速で本国へ戻れ!」 二度とそんな気を起こす者がいないように、徹底的に叩くぞ……と言う言葉は彼らしいとしか言いようがないだろう。 「了解しました」 それは、この間に乗り込んでいるコーディネイター達の総意だったと言っていい。即座に彼らは行動を開始する。 「……しかし、何が目的だ? 撃破されることは目に見えているだろうに……」 それとも、他の目的があるのか。 こう考えた瞬間、イザークの脳裏に浮かんだのは一つの面影。 「……まさか、な……」 だが、可能性を否定できないとも思ってしまう。 「アスランとニコルが側にいる以上、誰であろうとそう簡単には手出しできないだろうが……」 それにしても難儀なことだ、と脳裏に浮かんでいる面影に向かってイザークは苦笑を向けた。 「事態を動かすきっかけになったとは」 本人はそんなこと、まったく望んでいないと言うのに、と思う。 「まぁいい。これを最後にしてやるさ」 キラだけではなく平和を望んでいる全ての者たちのために……とイザークは口にする。 「そのためにも、早く戻らないとな」 自分のこの呟きがブリッジ内を氷点下にたたき落とすとは思っていないイザークだった。 |