翌日からキラは、フラガ達とともにザフト本部の開発局へと足を運んでいた。その主な理由は、ストライクのOSに関してのことだ。 「大丈夫か?」 あれこれ質問攻めにされたキラに向かって、フラガはドリンクを差し出しながら問いかける。 「……はい……」 少しやつれた表情で、それでもキラはかすかに微笑みながら頷いてみせた。 「無理はしなくていいですからね、キラさん」 アスランの代わりに彼らとキラの仲立ちをしているニコルも、こう声をかけてくる。 「急がなければならないわけではないですから」 彼らのは間違いなくただの好奇心ですし、と言う彼に、キラは苦笑を作った。 「ですが……他のMSに応用できるのであれば……」 皆さんの命を守ることになるのでは……とキラは口にする。 「……本当にお前は」 そう言うところが可愛いんだが、といいながらもフラガは小さくため息をついた。 「……イザークと足してニで割ると丁度いいんでしょうけどね……」 本当に、といいながらも、ニコルがキラを見つめる瞳は優しい。どうやら、本気でキラが気に入っているらしいとその態度からわかる。それはキラにとって間違いなくプラスだろう。こうしている間にも質問を浴びせかけさせたいと思っているらしい研究者達も、ニコルに気兼ねしているのか、遠巻きにしているだけだ。 「イザークさん、ですか?」 「えぇ。彼の場合はまさしく唯我独尊ですから」 フォローする副官が鷹揚な人でないとね、といいながらも、ニコルは周囲の様子に気を配っていた。 「あの……何か?」 それに気がついたキラが問いかける。 「いえ……隊長が顔を見せるとおっしゃっていたので、そろそろいらっしゃるかと思っただけです」 にっこりと微笑むニコルの言葉をキラは素直に信じたようだ。だが、フラガはそれが口実でしかないと気づいてしまう。だが、それをキラの前で問いかけるわけにはいかないだろう。そうすれば、間違いなく不安にさせてしまうに決まっているのだ。 「……来るのか、あいつ……」 その代わりというように彼はこうぼやく。 「フラガさんは、クルーゼ隊長さんがお嫌いでしたっけ?」 この言葉に、キラが目を丸くしながらフラガを見上げてきた。 「てっきり、仲がいいんだとばかり思っていましたが」 この言葉にフラガは思わず苦笑を浮かべてしまう。 「言ったろう? お互い複雑なんだって」 性別のことではなく、お互いがそれ以降に取らざるを得なかった立場という関係で……とフラガは付け加える。 「なんせ、一度は本気で殺しあったしなぁ……」 その瞬間、キラは目を伏せた。 「フラガさん!」 ニコルが刺を含んだ声で彼の名を呼ぶ。それを耳にしなくても、フラガはしまったという表情を作っていたが。 「悪い……」 「……いえ……本当のことですから……」 キラがその場にいたものの予想に反して冷静な声で言葉を返す。 「僕たちが戦ったのも、そうなる道を選んだのも……間違いなく、あの時、僕が選択した結果ですから……」 だから……というキラが、実はかなり無理をしていると言うことは誰にもわかってしまう。 「それは……」 ニコルがともかく何かを言わなければと言う表情で口を開こうとした。 その瞬間だった。 「何?」 キラがびくっと体を震わせる。 「大丈夫だ」 咄嗟にフラガはその体を抱きしめた。そして、視線だけでニコルと会話を交わす。 「今確認してきますね。誤作動の可能性もありますし……あぁ、念のために、フラガさんから離れないでくださいね。それと、お前達! 僕が戻るまでキラさんの安全を確保しておくように!」 キラに対するのとは打ってかわった口調で、ニコルは自分の部下達にこう命じる。 「ニコルさん」 「キラさんもいいですね? でないと、僕はアスランにしかられて、ラクスさんに振られてしまいますから」 しっかりとキラに釘を刺すとニコルはこの場を離れていく。 「……また、なのでしょうか」 その背を見送りながら、キラが小さな声で言葉をつづった。 「正直に言って、わからん。可能性としては否定できないが、一応、ここはザフト本部だしなぁ」 怪しい連中がそうそう入り込めるわけがない、とフラガはキラを少しでも安心させようと言葉を口にする。 「そうです。それに、ここには我々もいますから」 ここ数日のキラの態度でかつて戦っていたと言うこだわりを捨てたらしい一般兵もこう声をかけてきた。 「あ、りがとうございます」 それにキラはうっすらと微笑み返す。 「ともかく……ニコルも言っていたように俺から離れるな。いいな?」 フラガのこの言葉に、キラは小さく頷いた。 |