「……予想以上にザフトは寛大だった……って事か」
 正確に言えば、前線で戦っていた者たちには……とフラガは心の中で付け加える。
 彼らに与えられた罰――と言っていいのかどうかはわからないが――は、ザフトのためにその一生を捧げること。ただそれだけだった
 いや、もう一つあったが……それはある意味当然だろうとフラガは思う。
「と言っても、連中と連絡が取れないって言うのは辛いな」
 おそらくしばらくの間だけだろうとフラガは判断していた。だが、それでもアークエンジェルで一緒にいたメンバーと隔離されたことだけは辛いと思う。彼らには共通の秘密があるのだから――そして、それは時間制限がある――
 しかし、このままおとなしくしていれば、きっと彼らの警戒心も解けるだろう。そして、自分が知っているメンバーならその日までおとなしくしているだろうとフラガは心の中で付け加える。
 自分たちが守らなければならない存在。
 そして、約束の日まで自分たちが生き続けるための理由。
「まさか坊主に言ったセリフがマジになるとはな」
 あれは間違いなくキラを納得させるために口にしたはずのセリフなのに、とフラガは口元に苦い笑みを浮かべる。
「さて……俺の新しい上官殿は一体どんな相手なんだろうな」
 気持ちを切り替えるように明るい口調を作るとフラガはこういった。
「Gのパイロットねぇ……信用されているのかいないのか」
 エリート部隊だろうと呟くと同時に、それだからこそ自分が回されたのかとも思う。MAとは言え、連合のエースと呼ばれていた自分だから、と。
 自分の存在をそれなりに使いこなせるのは、やはり同じ《パイロット》経験者なのではないか。
 同時に、自分を止められるのはそれなりの存在でなければならない。
「ラウの野郎の下につけられなかっただけマシって事にしておこう」
 そう言いながら、フラガは視線を目の前の建物へと移す。
「……ここ、でいいんだよな?」
 入口の所につけられているプレートの文字を読みながらフラガが呟く。
「貴様! 一体何用だ?」
 そんなフラガの行動を見ていたらしいザフト兵が即座に怒鳴りつけてきた。
「ここに来るようにと言われたんだが……ムウ・ラ・フラガ……と言う」
 連合での階級を言わなかったのは、それが既に意味を持たないとわかっているからだ。だが、相手には違ったらしい。
「ムウ・ラ・フラガ……エンデュミオンの鷹……」
 こう呟いたかと思うといきなり態度を変える。
「失礼した。話は聞いている。今、中と連絡を取るのでしばらくここで待っていて欲しい」
 その口調はどちらかというと丁寧といえるものだ。もちろん、目上の者に対するそれとは違うが、そこはかとなく敬意すら感じられる。
「……なんだかなぁ……」
 予想していたのと全然違うぞ。フラガは小さな声でこう呟く。
「確かに、我々は敵だった。そして、コーディネイターとナチュラルという違いはある。だからといって、優れた者に対する敬意を持っていないわけではない」
 その呟きに、兵士がこう言い返してきた。
「私としては、あのように劣った機体で我々と互角に戦った貴方の実力は、敬意を向けるのに十分なものだと思うしな」
「それは……」
 礼を言うべきなのだろうか、とフラガは悩む。
「……ありがたい、と言うべきなんだろうな……」
 とりあえずこう返せば、その兵士は笑みを返してくる。
「こちらとしても、我々に敵愾心を向けない貴方の存在はありがたいと思うぞ」
 隊長が待っている……と彼は口にすると門を開けた。
「正面にある建物の入り口で、もう一度氏名を名乗れば隊長の所へ案内してくれるはずだ」
 そして、フラガにこう説明をする。
「ありがとう」
 彼にこう声をかけると、フラガは敷地内へと足を踏み入れた。