同じ頃、イザークとニコルはディアッカが運転するエレカの中にいた。
「まさか……昨日の今日で動く連中がいたとはな……」
 ディアッカの言葉に、他の二人も頷かずにはいられない。
「それだけ、あいつの存在が重要視されている……というわけか」
 それも、本人が絶対望まないであろう連中に……とイザークが口にする。
「キラさんのお名前は、良くも悪くも一人歩きしていましたからね」
 《キラ・ヤマト》と言う名は知らなくても《ストライクのパイロット》の存在は知っているものが多いのだ。その多くは、ナチュラルの友人を人質に取られて連合軍に無理矢理協力をさせられた挙句、最後には処分されかけた悲劇の第一世代……という程度だが。
 だが、連合軍の残党やザフトに関わり合いがあった者たちはもっと詳しい情報を持っている。キラのプログラミングの能力やパイロットしての実力を、だ。
 それを自分たちの利益のためだけに使おうとしている者がいたとしてもおかしくはない。
 だが、それを認められるかというと、話は別だろう。本人が戦いを厭うていると言うのなら、余計にだ。
 望まずに戦いに巻き込まれ、そのせいで傷ついたというのであれば、その傷を癒す時間が必要だろう。それが三人の一致した意見でもある。
「しかし、ラクス嬢と一緒の所を狙うとはな」
「……命が惜しくない方々のようですね」
 ニコルがにっこりと微笑みながら――だが、彼の瞳には冷たい光が浮かんでいる――こう言った。
「彼女も、見た目だけはおとなしいお嬢様だからな」
 本性はともかく、とディアッカがまるでどこかの肉食獣のような笑みを浮かべる。
「その上、アスラン達も動いているんだ。まぁ、命までは取らないと思うが……死んだ方がましという状況には追い込まれるかもな」
 今回ばかりはフラガもアスランを止めないだろうと付け加える彼の認識は正しいものだと言っていい。
「……その上、ラクス嬢にニコルか……精神的に地獄を見るな……」
 イザークが苦笑とともに付け加える。
「それって、どういう意味ですか?」
 その微笑みがはっきり言って怖い。
「誰もストッパーがいないと言うことだ。いつもならアスランを押さえるフラガ氏にしても今回はアクセルにしかならないだろう?」
 その笑みの意味を知っているイザークは咄嗟にこう言い返す。
「当たり前です。女性を襲うなんて、最低な人間のすることです」
 自分も一見すると女性のような容貌をしている人間がこんなセリフを口にすれば、過去に何かあったのだろうか、と思ってしまう。そうでないことを知っている二人はそれ以上突っ込むのをやめた。
「しかし……一体どこから情報が漏れたんだ?」
 話題を変えるかのように、イザークがこう口にする。
「言われてみればそうですね……キラさんのことは一応重要機密扱いになっていたはずです……僕たちはアスランとラクスさんからの両方から情報が来ていますけど……足つきの元乗組員達も、キラさんが今日、買い物に行くことは知らないはずです」
 居場所ぐらいは知っているだろうが、フラガの家はアスランの所有地内にあるのだから、自由に出入りが出来ないはず……とニコルは付け加える。
「それもすごいな……まぁ、あの男の実力と勤務態度などを考えれば当然か」
 奥方になる予定のラミアスがラクスの護衛であればなおさら……とディアッカが呟く。
「信頼できそうだからな、あいつらは」
 ナチュラルの中でも、とイザークも納得したように頷いている。そう思われるだけのことを、フラガもラミアスもしてきた……というのが正しいのだが。
「だが、確かにどこから情報が漏れたのかは気になるな。犯人が吐けばいいが……でなければ調べる必要がある」
 ザフト内から重要機密を漏らすような奴がいるのは我慢できない、とイザークは口にした。
「それよりも先に、ラクスさんとキラさんの安全の確保です。それが出来なければ、出てきた意味がありませんよ」
 ニコルの言葉はもっともなものだ。
「だよな。指揮官である俺たちが遅れたら意味がないか」
 一番先に行って状況を確認しなければ……というのは、ある意味クルーゼから学んだことだと言っていい。もっとも、部下達が信頼できるようになれば、彼は滅多に前線に出なくなったが。だが、まだ若い自分たちは率先して動かなければならないだろうと三人は思っていた。
「それに、アスランに貸しを作っておきたいしな」
 イザークのこの言葉に、ディアッカとニコルの口元に苦笑が浮かんだ。
「まだこだわっているんですか?」
 意外に根に持つ性格だったんですね、とニコルがわざとらしいため息をついてみせる。
「そんなの、分かり切っていたことだろう? 結局、戦争が終わってもしばらくはストライクのパイロットにつけられた傷を消さなかった奴だ」
 あの時、クルーゼに言われなかったら今でも傷を消さなかったのではないか、とディアッカが笑う。
「あぁ、そう言えばそうでしたね」
 忘れていました、とニコルが朗らかに言い返した。
「……お前ら……言いたいことはそれだけか?」
 イザークが怒りを抑えきれないという口調でこう告げる。
「その怒りはぜ〜んぶ、あちらに向けてくださいね」
 ニコルがこう言い返す。そんな彼の態度に言葉を失ってしまうイザークだった。