仕事中にラミアスから連絡が来たことなど、今まで一度もない。そんなことをする相手でもないことを知っている。視線でアスランに断りを入れると、彼らから離れる。そして携帯端末の通話ボタンを押した。
「……どうしたんだ、一体……」
 フラガは眉を潜めながら言葉を返す。
「俺だ……何かあったのか?」
 だが、次の瞬間、彼の表情が一変した。
「何だって? もう一度言ってくれないか?」
 周囲に響き渡る声でフラガがこう口にする。そんな彼に周囲から視線が集まった。だが、それを気にする様子を彼は見せない。
「襲われている? 誰に? って、わからないのか……キラとラクス嬢は無事なんだな?」
 フラガの口から次々と飛び出す言葉に、アスランが即座に彼へと駆け寄った。
「……わかった。こっちに向かっていると……あぁ、出られるようならすぐにフォローに行く。心配するな、とキラには言っておいてくれ」
 言葉とともに、フラガは通話を終わらせた。
「……キラ達が?」
「えぇ。何者かに追われているそうです。こちらに向かっているそうですが……」
 それだけでアスランには状況が理解できたらしい。即座に振り向くと、
「出ます。誰か、車の用意を!」
 周囲に響き渡る声でこういった。
 即座に周囲の者たちが動き出す。
「あぁ……誰かクルーゼ隊長にも連絡を。キラ・ヤマトはクルーゼ隊長に呼ばれていたはずなので」
 心配されるといけない、とアスランは口にした。だが、それが別の意味を含ませていると言うことを誰もがわかっている。
 あちらからも人員を出して貰おうというのだろう。
「……上手く行けば……挟み撃ちが出来るか」
 ラミアスが連絡してきた場所、そして、自分たちやあちらの位置関係を脳裏に描いて、フラガが呟く。
「そうですね。一体誰がこんな事を企てたのか、調べないと……」
 キラを狙っている者たちが複数いるところまでは確認できた。今回、彼らを襲っている者たちがその中のどれなのか、とアスランは思う。
「コーディネイター……ではないと思いますがね。少なくとも、ラクス嬢と一緒の所を襲ったのですから」
 彼女がプラントでどのような立場にあるのか知っているのであれば、そんな無謀な真似をするはずがない、とフラガはアスランへ告げる。
「……もっとも、それを逆手にとって……と言う可能性があることまでは否定しませんが」
 そう言いながらもフラガは手元の端末で何かを確認していた。おそらく、ラミアスのそれを使って彼らの居場所をフォローしているのだろう。
「準備が出来ました」
 部下の言葉が彼らの耳に届く。
「行きましょう。ラクスやラミアスさんはともかく……キラはかなり不安を感じているのではないかと……」
 残りの二人は、この手のテロに何度か巻き込まれているから……と告げるアスランの言葉に嘘はないだろう。だが、それは逆にキラの不安を駆り立てることでもあるのだ。
「……しかし、本国でこんな事件とは……ここだけは平和だと思っていたんですけどね」
「俺もですよ」
 だから、キラをここに連れてくることに反対しなかったのだ……とアスランは付け加える。でなければ、いくら命令だったからとは言え、本国へ連れては来なかった。カガリから手を回して貰ってオーブへキラが眠っていた装置を運ぶという選択もあったのだから。
「ともかく……急ぎましょう」
 フラガかすかに歩調を早めながらこう言う。その彼の視線の先では、アスランの部下達が準備を完全に整え二人の到着を待っている。
「ですね。ラクスが一緒だから心配はしていませんが……今のキラにストレスは禁物でしょう」
 間違いなく食欲がなくなるはず……というアスランの言葉にフラガは大きく頷いた。実際、そんなシーンを何度も見かけているのだ。
「倒れて、再び病院に逆戻りというのも、可哀相ですからね」
 これからがキラが自分のために使える時間なのだから……とフラガが口にする。
「えぇ……だから、誰も二度とそんな気を起こさないように、今回の件はきっちりと処理をさせて貰わないとね」
 アスランが口元にうっすらと微笑みを浮かべながらこう言った。その瞬間、フラガは愛いてが気の毒になってくる。彼がこういう表情を作ったときは要注意なのだと、この三年間の間にしっかりと身にしみていたのだ――ついでに言えば、最近は彼の暴走を止めるのもフラガの役目になりつつあるらしい。単に他の人間が嫌がっているだけとも言えるが――
 だからといって、相手に同情をする気はない。
 今回の件に関してはアスランと同じ程度にはフラガも怒っていたのだ。
「隊長! ニコルさんとイザークさん、ディアッカさんがあちらから出たそうです」
 二人が軍用のエレカへ乗り込むと同時に、報告が届く。
「……ニコルはともかく……あいつらも一緒か……」
 それはそれで一悶着ありそうだな……とアスランが呟くのがフラガの耳に届いた。
「それに関しては、終わってから考えましょう。ラクス嬢が一緒であれば、彼らも無理は言わないのではないかと……」
 半分は希望だが、そう口にするしかないと言うのもまた事実だ。
「ですね。出してくれ。連中に後れを取ったら、後で何を言われるかわからないぞ」
 アスランの一言で、周囲が動き出す。次々と門から出て行くエレカを見ながらアスランが小さく呟く。
「……キラ……無事でいてくれ」
 と。
「無事だと信じてやりましょう」
 少なくとも、今は一人ではないのだから……とフラガが言えば、アスランが小さく頷いた。