「……やっぱり……少し買いすぎたんじゃ……」
 キラが不安そうな表情とともに言葉を口にする。
「あら……そんなことありませんわ」
「……まぁ、キラ君がそう言いたくなるのはわかるけど……あのくらい、普通よ」
 まぁ、金額の方はちょっとね……と笑うラミアスに、キラの瞳に浮かんでいた不安の色がさらに強くなる。
「お金の方はご心配いりませんわ。アスランと私からのプレゼントですもの。それに、カガリさんからも言われておりますの。キラ様にはいい物をそろえてあげてくれって」
 お金は三人で折半ですし……とラクスは微笑む。
「でも……」
 もっと安いものでよかったのに、とキラは付け加える。
「あら。あれでも安い方ですわよ」
 ラクスのこの言葉に、キラとラミアスは、根本的な価値観が違うのだとようやく理解をした。
「……ご存じなかったのですか?」
 キラが思わずラミアスに問いかければ、
「買い物まではおつき合いしたことがなかったもの……」
 苦笑とともに彼女はこう言い返してくる。
「まぁ、いい物は大切にすれば一生使えるって言うし……ね」
 ラクスを説得するよりキラを説得した方が早いとわかっているのだろう。ラミアスは苦笑を深めるとこう言ってきた。
「……そうかもしれないですけど……」
 考えてみれば、アスランもそうだった……とキラは一瞬遠い目をする。やはり、自分とは住んでいた世界が違うのかも……と呟くキラに、ラミアスが気の毒そうな視線を向けた。
「それより、これから、クルーゼ隊長の所へ行かれるのですよね? 何かありましたの?」
「……じゃなくて……多分、OSのことじゃないかと……前にその話でいらして頂いたんだけど……結局別の話になっちゃったから……」
 自分なんかが役に立つとは思えないが、今の状況では協力をしないわけにはいかないだろう……とキラは判断していた。それがアスランやフラガの命を救うことになるかもしれないなら余計に、と。
「ならよろしいのですけど……キラ様。おいやでしたらお断りされてもかまいませんのよ?」
 そうなっても、キラを守る程度の権力は自分も持っているとラクスは告げる。
「でも……アスランやフラガさん、他の人たちの命を守れるかもしれないなら……」
 話だけでも聞くべきだよね、と言うキラにラクスは小さくため息をついた。
「本当にキラ様は、ご自分のことを後回しにされてしまいますのね」
 そして、ラクスはこういう。
 その時だった。
 三人が乗っていたエレカがいきなり大きく蛇行をし始める。
「何事なの?」
 咄嗟にラクスの体をキラが支えたことを確認して、ラミアスが運転席へと問いかけの言葉を口にした。
「わかりません。ただ、何者かがこちらを無理矢理停止させようとしているので……出来ればシートベルトをしていてください。ちょっと荒っぽい運転になります」
 その代わり、振り切れなくても逃げ切ってみせる……と彼は付け加える。
「ラミアスさん……」
 ラクスの体を抱きしめながら――だが、どう見ても反対に思えてしまう――キラがラミアスを不安そうに見つめてきた。
「大丈夫よ。彼はコーディネイターの中でもトップクラスなの。ラクスさんの専属運転手を務められるくらいにね」
 それに、元MSのパイロットだったそうだし……と明るい口調を作りながら、ラミアスはキラに微笑みかける。
「……でも、何が目的で……」
 ラクスだろうか、とキラは口の中だけで付け加えた。
「それはわからないわね……でも、このまま、ザフトの基地内まで逃げ切れれば、何とかなるはずよ。あぁ、事前にムウに連絡をしておいて手を回して貰うという手もあったわ」
 ようやくかつての指揮官としての意識が戻ってきたのか。それとも、キラ達を守らなければならないと判断したのか。ラミアスは毅然とした態度を取り戻す。
「連絡、取れるのですか?」
 どうやら、キラの中ではフラガは特別の位置にいるらしい――おそらく、彼とともにアスランがいるだろうということも関係しているのだろうが――その理由がわかっているだけに、ラミアスはしっかりと頷いて見せた。
「一応、婚約者よ、私は」
 公認で連絡が取れるわ、とラミアスが微笑めば、キラはほっとしたような表情を作る。
「と言うわけで、キラ君。言われたとおりにしておいてね」
 揺れるから……とラミアスが口にすれば、キラは素直に頷いた。そして、自分の分だけではなくラクスの分も手慣れた仕草でシートベルトを締める。
 それを待っていたかのように、車体が大きく揺れた。
「あら……今日は揺れますのね」
 ラクスがキラの腕の中でいつもの口調を崩すことなくこういう。そんな彼女の態度は、ある意味立派だとしか言いようがないだろう。
「……ラクス……」
「大丈夫ですわ、キラ様。このエレカは特別製です。ぶつけられようが撃ってこられようが、車体が壊れることはありませんもの」
 それに、すぐにザフトから救援が来るに決まっている、と言い切る彼女の言葉に嘘偽りは感じられない。
「アスランが……来て、くれるよね……」
 キラも、小さな声でこう呟く。
「もちろんですわ。アスランのことですから、連絡があり次第、仕事を放り出してきますわよ」
「……それはそれで問題じゃない?」
 自分たちのために仕事を放り出すというのは……とキラが言い返せば、
「アスランにとって、キラ様以上に大切なもの何てありませんもの」
 ラクスが微笑みを深めながら言葉を口にする。
「ですから、安心して待っていましょう?」
 この言葉に、キラは素直に頷いた。