「おい!」
 ザフト本部の通路を歩いていたアスランの肩を掴むと、イザークが声をかけてくる。視線を向ければ、他の二人もしっかりとその背後に控えていた。
「何だ?」
 ようやく会議も終わり、キラの所へ行こうかと思っていたのに……とアスランは心の中で毒づく。
「……ストライクのパイロット……キラ・ヤマトだったな。退院したと聞いたが?」
 この問いかけに、アスランは思わず眉を寄せてしまう。
「……一体どこから情報が漏れたんだか……」
 キラのことは自分とラクスで全て内密に進めていたはずなのに……とアスランは心の中で付け加える。
「すみません、アスラン……てっきりみんな知っているものだと思って……」
 そう言いながら首をすくめたのはニコルだった。
「ニコルか……と言うことは、ラクスかクルーゼ隊長だな、出所は……」
 ため息とともにアスランは言葉を口にする。
「で? キラがどうかしたのか?」
 仕方がないというようにアスランはイザークとディアッカを見つめながら問いかけの言葉を口にした。
「会わせろ、と言うだけだ」
 当然のような表情でイザークはこう言ってくる。
「さすがに入院中は遠慮していたが、退院したならかまわないだろう?」
 キラが普通の状態ならそれもかまわないだろう……とアスランは心の中で呟く。だが、今の『キラ』の精神状態ではどうだろうか、と思ってしまう。
「断る。退院したとは言え、ようやく精神状態が落ち着いてきた状況で余計な刺激を与えたくない。別の問題も持ち上がっている状況だしな」
 せめて、後数日は……とアスランは付け加えた。
「三年間のギャップは、さすがに大きいようだしな」
 それ以上の話をする気はない、とアスランは態度で告げる。
「それで納得できると思うか?」
 だが、それで引き下がるようなイザークではない。不満そうな表情を作るとともにアスランの襟首を掴む。
「イザーク!」
「ダメですよ、イザーク。あの人に関してはアスランに全権があるのですから。まだダメだと言われるのであれば、納得しないわけにはいかないでしょう」
 そんなイザークを慌てて残りの二人がアスランから引きはがそうとする。
「だからといって、あいつにだな!」
 イザークがなおも言葉を口にしようとしたときだった。
「そこまでだ」
 静かな声が彼らの元へと届く。
「クルーゼ隊長!」
 既にニコル以外の者は彼の隊ではないのだが、だからといって彼の存在が軽くなったわけではない。それどころか、逆に重くなっているのではないだろうか、と誰もが思ってしまう。
 渋々というようにイザークがアスランから手を離す。それに満足そうに微笑むと、クルーゼは視線をアスランへと向けた。
「キラ君が退院したそうだな。あちらに関して結論は?」
 そして問いかけの言葉を口にする。
「……まだ、のようです。ドクターも、時間をかけてでもいいから本人が納得するまでは無理強いをしないようにとおっしゃっておられましたので……」
 とりあえず、環境になれるまでは余計な刺激を与えないようにしようかと……とアスランはクルーゼに説明をした。
「そうか……まぁ、無理もないだろう。また機会があれば、私が話したいと言っていたと伝えてくれ」
 前回出来なかった話を含めてな、と付け加える彼に、アスランは素直に首を縦に振った。キラが彼に信頼感を抱き始めていたことを感じていたからでもあるし、同時にキラの味方を増やしたいという思いもあったことをアスランは否定しない。
「……何の話なんだ?」
「さぁ……あいつに関してはアスランとラクス嬢が完全に情報をシャットアウトしているからな。俺が知っているわけないだろう?」
 イザークとディアッカがぼそぼそと会話を交わしあう。
「……お前は知らないのか?」
 ラクス嬢と仲がいいだろうとイザークが視線をニコルへと向けた。
「何でも……別の問題が持ち上がったらしいですけど……それに関してはラクスさんも教えてくれませんでした」
 ご本人のプライバシーに関わる問題だから……とニコルが付け加える。それがますます二人の疑念を深めることになったのは言うまでもないだろう。
「ともかく、お前がキラ君の支えになってやることだな」
 これからいろいろと大変だろうし……と告げるクルーゼに、
「もちろん、そのつもりです」
「ならいい。きな臭い噂も聞こえてきている。出来るだけキラ君から視線を離さないように」
 あの男にもそう伝えておくのだな……と言うと同時に、クルーゼはアスランの肩を叩く。そしてそのまま彼はきびすを返した。
「……きな臭い噂……というのは、あれか」
 その背が見えなくなったところでアスランが呟く。
「あれ、ですか? 連合軍の残党の……」
「だろうな」
 キラを狙っているらしいと言う噂はアスランの耳にも届いていた。だから、今日もフラガにキラを迎えに行って貰ったのだ。
「……俺たちを協力させたいなら、早々に会わせるんだな」
 それを聞きつけたらしいイザークがしっかりとこう口を挟んでくる。
「ラクスに頼むんだな」
 彼女がいいというのであれば、かまわない……とアスランが言った瞬間、イザークが言葉に詰まる。それを尻目に、アスランはさっさと歩き始めた。