だからといって、キラがすぐに事実を受け入れられたわけではない。
「……僕が……女……」
 確かに、ナチュラルの友人達に比べてもよく『華奢だ』とは言われていた。だが、それはあくまでも自分が『コーディネイター』だからだとばかりキラは思っていたのだ。
 それが、自分の遺伝子が『XX』だからだったなどと言われても、すぐに信じられるわけでも認められるわけでもない。
「でも、アスランが嘘を言っている様子はなかったし……先生もそう言ってたし……」
 信じないわけにはいかないのだろう、とキラはため息をつく。
 でも、認めたくないのだ。
 そうすることは自分が生きてきた時間を否定することにもなるのではないかと、そう思えて。
「アスランは、あぁ言ってくれたけど……」
 他の者たちもそう思ってくれるとは限らないのだ。
 せっかく『コーディネイター』の存在を認め始めた者たちが、自分のせいで再び否定してする可能性すらあるのではないだろうか。
「……僕は……」
 それくらいであれば、自分はこのまま『男』でいた方がいいのではないか。例え、そのせいで自分がこれから苦労しようとも。
 少なくとも、どちらを選んでもアスランは側にいてくれるだろう。それだけで自分は満足するべきなのかもしれない、とキラは小さく呟く。
 その時だった。
「入ってもかまわないかね?」
 入口の方からこう声がかけられる。
「あっ、はい……」
 咄嗟にこう答えを返しながら、キラは入口の方へと視線を向けた。だが、そこにいたのは今まであったことがない相手である。アスラン達とは色違いの制服を身にまとっているその人は、顔を半分以上仮面で隠していた。
「驚かせてしまったかな?」
 彼の口元が鮮やかな笑みを作る。
「……いえ……」
 キラは何とかこう答えた。
「気を遣ってくれる必要はない。本当は、アスランか……ムウとともに来ればよかったのだろうがな。二人とも都合がつかない上に、私はすぐに本国を離れるのでね」
 彼の言葉にキラは不思議そうに首をかしげる。
「アスランと……少佐のお知り合いですか?」
 そして、こう問いかけた。
「少佐……というのはムウのことかな?」
 この言葉で、キラは自分が失言をしてしまったことに気づく。
「……す、みません……つい、癖で……」
 即座に謝罪の言葉を口にすれば、彼は低い笑い声を立てた。
「そうだったね。我々の上には3年間と言う時間が過ぎていたが、君にはまだ先日のことだったね」
 まだ慣れなくても仕方がないか、と言いながら、彼は腰を下ろす。
「ごめんなさい」
「君が謝ることではない。謝らなければならないとしたら、元連合の上層部の者たちだろう」
 これから注意をすればいいだけのことだ、と付け加えられて、キラは頷く。
「……あの……」
 何とお呼びすればいいのでしょうか、とキラは彼に問いかけた。
「失礼。そう言えば自己紹介がまだだったね。私はクルーゼだ。ラウ・ル・クルーゼ」
 微笑みを深めたまま彼――クルーゼは自分の名を口にする。
「クルーゼ……隊長さん、ですか?」
 キラは確か彼の立場はそうだったはず……と思いながら言葉を返した。
「どうやら、話だけはアスランかムウから聞いていたようだね。アスランはともかく、あいつが何を言ったかはわからないが」
 どうせ、ろくなことじゃないだろうが……と付け加える彼に、キラはほんの少しだけ警戒心を解く。
「……フラガ……さんは、貴方のことを好敵手だと……」
 言い慣れた階級を口にしないよう注意をしながらキラは彼に言葉を返した。
「そう言っていたのか、あいつは」
 キラの言葉に、彼はかすかに笑みを深める。それは、どこか作り物めいたそれまでの微笑みと違って、彼の本心からのものだろう、とキラは判断する。
「そう言ってもらえるだけ感謝してもらわねばならないのだろうな……私たちの関係であれば」
 何かを懐かしむような口調でクルーゼが言葉をつづる。それがどういう意味を持っているのかキラにはわからない。が、アスランから聞いた『彼もまた自分と同じようにある年齢になってから性別が違っていた』と言うことと関係があるのかもしれない、と言うことだけは想像が出来た。
「……あの……」
「あぁ、申し訳ない。君とはそのことで会いに来たのではなかった。MSのOSに関して、いろいろと話を聞こうと思ったのだが……」
 君の方もいろいろと大変なようだね、とクルーゼは微笑みにかすかに苦いものを含ませた。
「それに関しては、私は君の相談に乗れると思うのだが……」
 その話も聞いているようだし……と言いながら顔を覗き込んでくるクルーゼに、キラはためらうように瞳を伏せた。



クルーゼさん、めちゃめちゃいい人なのは、私の趣味です(^_^;
やっぱり好きなんですよね。本編ではあれこれ暗躍しているようですけど。まぁ、これはパラレルと言うことで(^_^;