君が目覚めたら……その瞳を覗き込んだ瞬間、心がわしづかみにされるような感覚に襲われるのをフラガは認識していた。 あまりに無垢で純粋な瞳。 それを何よりも美しいと思ってしまう。 同時にまずいとも感じてしまった。 彼を戦いに巻き込むことは、彼を壊すことと同意語だろう。それだけ繊細な心を彼は持っている。 しかし、ゼロが使えない以上、ストライクを出すしかない。そして、それを動かせるのは目の前の少年だけだ。 「君は出来るだけの力を持っているだろ? なら、出来ることをやれよ」 これがどれだけ勝手なセリフかはわかっている。それでも言わずにいられない自分の力量不足にフラガは反吐が出そうだ、と思った。 「……僕は……」 だから、せめて彼のことは自分が――自分たちが守ってやろうとも思う。 少なくとも、彼の心だけは…… そして、その誓いは破られることはなかった…… 戦局は、はっきり言って連合軍が不利だった。 いや、既に壊滅寸前だと言っていいだろう。 実際、月はザフトの手に落ち、地球に残された連合軍の本拠地ですら辛うじて反撃を行っているといった状態だった。 そんな連合軍の上層部――いや、この場合ブルーコスモスの中心メンバーと言い換えるべきか――にとって、自分たちが行ってきたことと同時に消滅させなければ……と思っていた存在があった。 「……あの子供……あの子供が我々に協力していたという事実を……」 それが誰のことを指しているか、固有名詞を出されなくてもその場にいた者たちにはわかってしまった。 「何……まだ戦闘中だ。万が一のことがあっても誰も気にする者はいまい」 さらに続けられた言葉の意味も…… 「我々は、ナチュラルのみの力でここまでザフトと戦ってきたのだ。ナチュラルの誇りを守るためにも、ストライクには名誉の戦死を……」 告げられた言葉は、無言の承認を与えられ可決された。 もっとも、全員がそれを受け入れたわけではない。 彼とともに一緒に戦ってきた者たちには絶対に受け入れられないものだったと言っていいだろう。 「……それは本当なの?」 ラミアスは自分の耳が信じられない……というように聞き返してしまう。 「間違いない。俺の知り合いがこっそりと情報を流してくれた。あいつらは……坊主の存在をなかったものにする気だ」 苦虫を噛み潰したような表情でフラガは頷く。 「おそらく、次の攻撃が連合にとっても最後の意地……って言うところだろうな。そして、その最中に事故を装ってストライクは堕される……連合軍によって……」 ストライクのパイロットが『コーディネイター』だったという事実を隠すためだけに、とフラガは吐き出した。 「……なんて言うことを……」 そこまで上層部が腐っていたのか、とラミアスは思う。 「で、艦長としてはどうしたい?」 何も知らなかったことにしてキラを出撃させるか……それとも、彼を救うために動くか。 フラガの蒼い瞳がラミアスに向かってこう問いかけてくる。 本来であれば、最後になるかもしれないこの時間、恋人同士である彼らにはもっとしたいことがあった。 だが、それ以上に彼らには責任があるのだ。 《キラ・ヤマト》と言う少年をこの戦争へと引きずり込んだ。 「……彼を救う方法があるのでしょうか……」 どうしたいか、など問いかけられなくても答えは一つしかない。 それはフラガもわかっていたはずだ。 「彼のことです。そうなるであろうとわかっていても……出撃をするでしょう」 この艦を、仲間達を守るために。 例え、自分の命と引き替えにしてでもかまわないと言い切るのがキラだ。 「一つだけ、ある……ただし、その結果、俺たちは……何があっても死ぬことが出来なくなる」 どんな目に遭わされても……とフラガは付け加える。 「かまいません。一人ではないのでしょう?」 あなたが一緒であれば……とラミアスは微笑む。 「了解。死なば諸共……と言いたいところだが、この場合坊主まで巻き込むことになるからな……意地でも生き抜くことにしようぜ」 そんなラミアスの体をフラガはそっと引き寄せる。 「……それで? 何をするつもりなの?」 そっとフラガの胸にもたれながらラミアスが問いかけた。 「ここには……がある。それを使うのさ」 ある意味無謀とも言えるその言葉に、ラミアスは目を見開く。だが、それ以外に方法が思い浮かばない……と言うこともまた事実。 「……なら、少しでも早いほうがいいでしょうね……」 「あぁ」 すまない、とフラガは小さく付け加える。 「そう言うところも好きなんだから、仕方がないわね」 ラミアスはこう言い返すと、彼の唇へとそっと自分のそれを重ねた…… |