それにしても、何故、こんなに人が集まったのだろうか。そう思いながら、キラはアスランを見上げる。
「……あきらめろ。母上から話を聞いた時点で、父上は来る気満々だったようだしな」
 もちろん、シーゲルも同様だろう。そうなった時点で、他の者達も押しかけて来ることは目に見えていた。
「それにしても、多すぎるが……」
 ウズミに関しては妥協しよう。タッド達に関しても、だ。しかし、それ以外の人間は、とアスランは眉根を寄せる。
「最高評議会議員だから、無碍にも出来ない」
 まぁ、いざとなったら、ついたての陰にでも入って貰おう。ため息とともに彼はそう続けた。
「それよりも大丈夫か?」
 これだけの人がいて、とアスランは問いかけてくる。と言うことは自分の顔は引きつっているのだろうか。それとも、とキラは首をかしげる。
 そんなキラの様子にアスランは苦笑を浮かべた。
「無理はするなよ?」
 そして、その表情のまま、そっと頬を撫でてくれる。そんな彼に『大丈夫だ』というようにキラは頷いて見せた。
「なら、いいが」
 それでも不安なのか、アスランは何かを探すかのように周囲を見回している。
「ニコル」
 そして、楽器のセッティングを終わらせたらしい友人を呼び寄せた。
「……やっぱり、キラさんはおつらいようですね」
 歩み寄ってきた彼は、直ぐにこう告げる。
「本人は認めたくないようだがな」
 それとも気付いていないのか、とアスランはため息とともに告げた。
 そんなことを言われても、自分では何ともないと思えるのだ。だから、どうしてみんながそう判断をしているのか、逆に教えて欲しい。
「わかりました。父に話をしてきます」
 それぞれの部屋のドアを開けておけば、室内でも十分に満足できる演奏を聞くことが出来る。そのように音響関係を整えたのだ、とニコルは笑う。
「文句を言う人がいれば、ラクスさんとそれなりに対処させて頂きますね」
 それはそれで怖いような気がする。そう思ったのはキラだけではないだろう。
「ほどほどにな」
 何なら、イザーク達も巻き込め……とアスランは苦笑と共に続けた。
「そうですね」
 それが一番確実だろう、とニコルも頷いてみせる。
「ともかく、キラさんは奥で休んでいてくださいね」
 準備が出来るまで、と彼はさらに言葉を重ねた。
「アスランもしっかりとキラさんを見張っていてくださいよ?」
「もちろんだ。ついでに、何かつまめる物でも作っておくよ」
 キラも手伝ってくれ、と視線を向けながら、彼は言ってくる。何もすることがないと、きっと自分が気にするから、とわかっているのだろ。
 そんなことでごまかされていいのだろうか。しかし、ここで体調を崩したら、それこそみんなに迷惑がかかると言うこともわかっていた。だから、小さく頷いてみせる。
「いいこだ」
 だから、どうしてそんなセリフを自分に向かって言うのだろうか。自分の方が半年とはいえ、年上なのに。こう考えて、キラは頬をふくらませる。
 そのまま、何気なく視線をニコルへと向けた。
 キラの視線を受けて、彼は意味ありげな微笑みを浮かべる。そして、小さく頷いて見せた。
 と言うことは、自分が頼んでいたこともきちんとしてもらえたと言うことなのだろう。しかも、アスランにはまだ気付かれていないらしい。
 それだけでもいいのか、とキラは微笑み返した。
「何だ、キラ」
 それが気に入らないのだろう。アスランがキラの体を自分の方へと引き寄せる。
「アスランがそうやるから、キラさんがふてくされるんじゃありませんか?」
 即座にニコルが注意の言葉を口にした。
「そんなことはないよな?」
 確認されても、何と言い返せばいいのかわからない。だから、とキラは視線を彷徨わせた。
「即答できないそうですよ、アスラン」
 くすくすとニコルは笑いを漏らす。
「ニコル!」
「と言うわけで、僕はあちらに話を通してきますね」
 アスランの言葉を聞き流すとそのままニコルは離れていく。そのあたりのタイミングは本当に見事だ。
「本当に」
 アスランもそれに苦笑を浮かべてみせた。
「まぁ、いい。キッチンに行こうか」
 そのまま、こう問いかけてくる。その彼に、キラは小さく頷いた。


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