あれだけ大騒ぎをしたから、だろうか。みんなが帰って二人だけになった瞬間、言いようのない寂しさを感じてしまった。 「大丈夫だ、キラ」 そんな彼の体を、アスランがそっと抱きしめてくる。 「お前が望めば、みんな、すぐに集まってくる」 だから、そんな表情をするな。言葉とともにアスランはキラの頬にキスを贈ってくれる。 それは嘘ではないだろう。 彼等なら、すぐに自分の願いを叶えてくれる。だからこそ、それに甘えてはいけないのだ。 そんなキラの内心に気が付いたのか。アスランが抱きしめる腕に力をこめてくる。 「俺たちに、お前以上に優先すべきものなんて、そうないから」 最低限の義務ぐらいだ、とアスランはそのままで笑う。 「それに、俺たちが頑張っていられるのはキラがいてくれるから、だ」 キラにいいところを見せたいから、みんな頑張っているのだ、と彼は続ける。 「それは父上達も認めているしな」 だから、もっとワガママを言っていいのだ。そうも彼は言ってくれた。 「それに、特別会いに行かなくてもいいだろう?」 中庭にでれば、誰かが見つけてくれる。その時、時間があれば、きっと付き合ってくれるよ……と彼はまたキラの頬に唇で触れてきた。 確かに、中庭を囲うように自分たちの部屋は配置されている。いや、そうなるように作られた……と言うべきか。それすらも、キラにしてみれば他のみんなに迷惑をかけているのではないか、と思わせる理由になっている。 それに、とキラは心の中で付け加えた。 たとえ中庭と言えども、外に出ることは怖い。 そこに見知らぬ《誰か》がいるはずはないとわかっていた。しかし、その瞬間、大切な人が失われてしまうのではないか。その可能性はどうしてもぬぐえない。 だから、家の中から出るのが怖いと感じている。 思わず小さく首を横に振ればしかたがない、と言うようにアスランはため息をつく。 「まだ無理か」 一人でも中庭に出られるようになればいいんだけどな、と彼は小さな声で付け加える。そうすれば、気分転換になるだろうに、とも。 「まぁ、俺としてはここにいてくれるのが一番安心できるがな」 変な奴らが押しかけてくることもないだろうし……と彼は続ける。 「押しかけてきてもエントランスで管理人が追い返してくれるし」 だから、自分たちが居座っていられるのだが、とアスランはさらに言葉を重ねた。 「オーブの代表であろうとも、ね」 だから、安心して……と口にしたのは、彼があの手紙のことを知っているからだろう。 それは騒然だと思っている。しかし、アスランとニコル以外には誰が知っているのだろうか、と不安になった。 「手紙のことなら、俺とニコルしか知らない。今のところは、だがな」 しかし、キラがいつまでも悩んでいればいつかはばれるかもしれないぞ……と言う指摘はもっともなものではないだろうか。でも、自分でもどうすればいいのかわからない。 「とりあえず、中だけでも確認しよう?」 無視しようとしてもキラのことだから出来ないだろう? と彼は囁いてくる。 「大丈夫。どんなときでも、俺だけはお前の側にいるから」 キラを嫌いにもならないし、一人だけ残すようなこともしない。 だから信じてくれ。彼はそうも言ってくれた。 でも、今読むのは怖い。キラはその思いをこめて彼の顔を見上げた。 「あぁ。時間はある。キラが読みたいときに読めばいい」 それを的確に感じ取ってくれたのか。アスランはそういって頷いてみせる。 「今日はいろいろとあったから、疲れただろう?」 だから、ゆっくりと休もう? といいながら、彼はさりげなくキラの唇に自分のそれを重ねてきた。 うっすらと開いていたすきまから、するりと彼の下書きらの口腔内に滑り込んでくる。 反射的に、キラはアスランの袖を握りしめた。 それを確認したから、だろうか。アスランが少し強引な仕草でキラの体の向きを変えさせた。 彼の腕がぐいっとキラの腰を抱き寄せる。そして、再び唇を重ねられた。 これで、どうやったらゆっくりと休めるのだろう。むしろ、逆に疲れるだけではないだろうか。 でも、アスランにキスをされるのは好きだ。そして、この後に続くであろう行為も嫌いではない。 そんなことを考えながら、キラは静かに目を閉じた。 |