二人だけになった瞬間、キラがすがるように抱きついてくる。
「ご苦労様、キラ」
 疲れただろう? と口にしながら、アスランは彼の体を抱え上げた。それに、驚いたようにキラは視線を向けてくる。
「ここの後かたづけは明日でもいいさ」
 もちろん、キラが言いたいことはそんなことではないのだ、と言うこともわかっていた。
 でも、自分にとって重要なのは《キラ》なのだ。
「明日になれば、ラクスからも連絡が来るよ」
 ウズミやカガリの様子も、その時に教えてもらえるはずだから……とさりげなく付け加える。
「でも、キラの体調が優れないと思われたら、教えてもらえないかもね」
 ラクスをごまかすのは不可能だぞ、と付け加えれば腕の中のキラは表情を強ばらせた。それに関しては、彼も否定できないらしい。
「だから、今日はさっさとベッドへ入ってしまおう?」
 そしてぐっすりと眠れば、きっと、明日には顔色もよくなっているよ……とアスランは微笑んだ。
 この言葉に、キラは少しだけ首をかしげる。だが、直ぐに、頷いて見せた。
「いいこだね」
 即座にアスランはこう口にしてしまう。その瞬間、彼の頬がふくらむ。どうせ、また『自分の方が半年年上なのに』と思っているのだろう。
「悔しかったら、俺よりも大きくなるんだな」
 縦も横も、自分の方が大きいだろう? とアスランはさらに口にした。
「もう少し、量を食べられないと太ることはもちろん、身長も伸びないだろうね」
 この言葉に、キラの頬がさらにふくらんだ。
 食べられないんだから、しかたがないだろう……と彼の視線が告げている。
「おやつを減らしてご飯を食べればいいだろう?」
 あんなにおやつを食べるからご飯が食べられないんじゃないのか? と指摘をしながらアスランは歩き出す。
 その足元にハロが絡みついてくる。その動きが少し鬱陶しいな、とアスランは心の中で呟いた。
 だが、そんな風にプログラムをしたのも自分だ。
 キラの側にいて、彼を守るように、と。そして、彼のフォローが出来るように、と考えてプログラムをしたのだが、失敗したかもしれない……とこんな時には考えてしまう。
 自分から意識がそれてしまったのが気に入らないのか。キラがアスランの襟を引っ張る。
 どうしたのか、と顔を向ければ『好きなんだからしかたがないだろう』とキラがまた視線で訴えてきた。
「本当にキラは……でも、どうしてそれで太らないんだろうね」
 普通なら、あれだけおやつを食べていれば太りそうなもんだけど、とアスランは首をかしげる。
 しかし、キラにもその理由はわからないらしい。
 もちろん、アスランにしてもそれを追及するつもりはない。たんに、話題にしているだけなのだ。それで、キラの意識がカガリのことから少しでもそれてくれればいい。そう考えただけだ。
 キラの方も、それに気付いているかもしれない。だが、何も言わないのは、自分たちが心配しているとわかっているからだろう。
「風呂の用意をしてくるから」
 ベッドの上に彼の体をおろしながらアスランは微笑む。
「眠かったら眠っていていいぞ」
 その時には、勝手に風呂に入れるから……とさらに言葉を重ねる。その瞬間、キラの頬が赤く染まった。
「大丈夫。別に何をする予定もないから」
 眠っている相手に何かをしても面白くない。
 こういった瞬間だ。
 キラの手が傍にあった枕を掴む。そして、そのまま、アスランに向けて投げつけてきた。
「冗談に決まっているだろう?」
 それを難なく受け止めながら、こう言い返す。
「でも、眠っていたら本当に勝手に入れるからな」
 言葉とともにアスランはキラに枕を投げ返した。
「さっぱりしないと、明日の朝が辛いぞ」
 いつ、誰が押しかけてくるかわからないから、と付け加える。その言葉に、友人達の顔を思い浮かべたのだろう。キラは少しだけ眉根を寄せた。
「まぁ、ご希望なら追い返すけどな」
 何を思われるかわからないが、とさらに言葉を重ねる。もっとも、自分たちの関係は周知の事実だから、誤解をされても困らないだろうが。
 それがわかっているからか。キラは小さく首を横に振って見せた。
「了解。なら、大人しく待っていろよ」
 ついでとばかりに、足元にいたハロを拾い上げる。そして、キラの方へ放った。
 それをキラはしっかりとキャッチする。ハロを見つめる視線が優しい。それを確認して、アスランは部屋を出た。


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最遊釈厄伝