「お二人のことは任せておいてくださいませ」
 これ以上の親子の話し合いは別の場所で、と言うことになった瞬間、ラクスがこう口にした。
「ラクス」
「ですから、あなたはキラをお願いしますね?」
 キラを安心させることが出来るのはアスランだけだろう。この言葉とともに彼女は笑みを深める。
「……もちろん、そうしますが……」
 と言うか、その役目を他の誰かに譲る気はないが、とアスランは心の中で呟く。しかし、本当にいいのか、とも思うのだ。
「ウズミ様には、我が家で静養して頂く予定ですもの」
 カガリも教育し直したいし……と彼女は微笑む。
「ラクス……」
 前者に関してはきっと、シーゲルの希望も入っているのだろう。しかし、後者は……と思わずにいられない。はたしてカガリは、彼女のさりげない精神攻撃に耐えられるだろうか。そんな不安すらわき上がってくる。
「ご心配なく。彼女の間違いを正すだけですわ」
 ウズミも傍にいるのにそんなに無体なことなんてできるか……と彼女はさりげなく付け加えた。
 逆に言えば、それだけ怒っていたと言うことか。
「……わかった」
 こうなったら、もう、任せるしかない。ウズミが一緒にいるなら、的確なフォローをしてくれるだろう。それに、彼等が逗留するとなれば、きっと、シーゲルも戻ってくるに決まっているし……とアスランは心の中で付け加える。
「キラが悲しまない程度に締め上げてやってくれ」
 まぁ、怒っているのは自分も同じだ。そして、自分よりも彼女の方が的確に対処してくれるだろうということもわかっている。だから、とこう告げた。
「任せておいてくださいませ」
 これ以上、キラに辛い思いをさせるようなことはしない。そういって、ラクスは笑みを深める。
「ですから、あなたはキラを」
「もちろんです」
 少なくとも、自分たちの前でだけは微笑むことが出来るようにさせてみせる、とアスランはきっぱりと言い切った。
「では、また明日」
 ラクスはこう告げると、静かにカガリ達の方へと歩み寄っていく。そこには、ニコル達にかばわれるようにしながら、キラもいる。
「……顔色が悪いな」
 カガリは気付いていないかもしれない。だが、アスランには彼の顔色が優れないと気付いていた。ただ、それを笑顔でごまかしているだけなのだ、と言うこともだ。
 できれば、早々に休ませたい。それも、静かな環境で。
 それなのに、カガリはまだあれこれ無駄な努力を続けている。
 イザーク達がそれを防いでいてくれていなければ、今頃は完全に熱を出していただろう。
「諦めればいいものを」
 自分の立場を、とアスランは呟く。
 損か彼の前でラクスが微笑みながら断固とカガリを引きはがしている。しかし、彼女だけでカガリとウズミの二人を連れて行くのは難しいのではないか。
「イザーク、ディアッカ」
 そんなことを考えていたせいだろうか。するっと唇から言葉が飛び出す。
「ラクス嬢に付き合えばいいんだろう?」
 彼等も同じ事を考えていたのだろうか。ディアッカが苦笑と共に言葉を口にした。
「そうだな。そうすれば、そのバカが何かをしようとしても対処できるだろうし」
 同じくらい、ウズミのフォローも出来る。イザークもこう言って頷く。
「お前ら! 私を何だと思っているんだ!!」
 図星を指されたのが気に入らないのか。カガリがこう怒鳴ってきた。
「後先考えずに、目の前の利益だけを追いかけて失敗するバカ、と思っているが?」
 即座にイザークがこう言い返す。
「私のどこが!」
「お前がそう騒ぎ立てるから、キラが恐がっているだろうが」
 それすらもわからない以上、バカと言って何が悪い……とイザークはさらに言葉を投げつける。
「放っておけばいいじゃないですか。キラさんに嫌われたいだけなんでしょうから」
 さらりときついセリフを投げつけたのは、もちろんニコルだ。
「……何で!」
「そうやって怒鳴りつける人が、キラさんは一番嫌いなんですよ」
 さっさとお帰りください、と彼はさらに付け加える。
「お前達……」
「いい加減にしないか、カガリ」
 さらに怒鳴り声を上げようとしたカガリをウズミが止めた。
「彼等の言っていることは正しい。それに、お前も少し頭を冷やすのだな」
 そのためには、ここから離れた方がいいだろう。そういいながら、彼は腰を上げる。
「では、キラ君。また後でゆっくりと話をしよう」
 この言葉に、キラは小さく頷いて見せた。


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